11 珍種妖精、女冒険者を見送る
そういや、今晩泊まるとこどうしよ。
おすすめの宿屋をシェーラとミリアムに聞いてみると、「ケンジだけだと泊まれないかも」という話になった。
街にいる妖精と言えば使役妖精で単独で行動している妖精はまずいない。
だから、オレ一人で泊めてくれと言っても受け付けないだろうと。
理不尽だ。
金だってあるのに。
「とりあえず今晩は私たちの泊まってる部屋に泊めてあげるわ。」
オレは、2人の好意に甘えることにした。
2人の泊まっている宿屋につくと、腹が減ったということで食堂に向かった。
本日のメニューは、ステーキに野菜スープに黒パン。
ミリアムが気を利かせてオレのステーキを細かく切り分けてくれた。
そして、シェーラがオレの体でも扱えそうなこの世界の爪楊枝をくれた。
「ありがと。」
全部は食べられそうになかったから、ステーキの半分は2人に進呈した。
ステーキは、普通に美味かった。
野菜スープも野菜の甘味に塩味が効いて美味い。
黒パンは固かったので、スープに浸して食べた。
食事がまずかったら目も当てられないと思っていたが、これなら心配なさそうで安心する。
美味いものがわんさかあった日本に比べればまだまだ改善の余地はあるだろうけど、この体ではどうしようもないし
な。
料理人を雇えるくらいになったら、日本の食べ物を再現してもらうのも悪くない。
何にしても、稼がないと。
今は金があるけど、異世界は何に高くつくかわからんからな。
服に15万円だからな。
しかも、妥協してだ。
とにかく明日から頑張って稼ごうと思いつつ食事を終えた。
シェーラとミリアムについて部屋に入る。
ベットが2つあるだけの簡素な部屋だ。
2人がベットに腰掛ける。
オレもベットに座らせてもらう。
「オレは、明日から魔物狩りに行こうかと思うんだけど、2人はどうするんだ?」
冒険者じゃなくても買取はしてくれるから、オレは早速明日から魔物狩り勤しむのだ。
「うーん、ミリアムとも話したんだけど、私たちはこの街を出ようと思って・・・。」
シェーラがそう言った。
何でも2人は今回のことで、力不足を実感させられたそうだ。
そこそこ稼げて居心地が良いこの街に、2人はここ一年ほど滞在していた。
その環境に間違いなく油断があったとのこと。
もっと精進しないと冒険者としてこれ以上上には行けないし、命を失うことにもなりかねないという思いに至り、こ
の街を出ていく決心をしたのだそうだ。
服屋から宿屋に向かう途中、なんだか2人が真剣そうな顔して話してると思ってたら、そんなこと話してたのか。
「それで、いつ出て行くんだ?」
オレがそう聞くと、「早ければ明日にでも」ということだった。
「いつまでも先延ばしにしてると、未練が残っちゃうからねぇ。この街、そこそこ稼げるし治安もいいしご飯も美味しいし、ホント居心地いいから。」
ミリアムがそう言った。
冒険者って仕事は、ある意味力がモノをいう職業だからなぁ。
せっかく知り合いになったのに残念ではあるけど、そういうことならしょうがないか。
オレ2人を応援するぜ。
□■□
翌朝、シェーラとミリアムは宣言通りこの街を出て行くことになった。
オレは2人を門まで見送りに行った。
「シェーラとミリアムには、本当世話になった。ありがとな。これ少ないけど餞別だ。」
オレは2人に金貨1枚ずつ渡した。
「ちょっと、こんな大金貰えないわ。」
シェーラが慌ててオレに返そうとする。
ミリアムも「助けてもらったのはこっちなのに、こんなの貰えないわよぉ」とあたふたしている。
「いやいや、いいから取っておけよ。この街に来れたのだって2人のおかげなんだから、ホント感謝してるんだよ。これはオレの気持ちだからさ。金はあったって邪魔にはならないだろ?」
そう言うと、渋々ながら2人は受け取ってくれた。
「また、いつか会えるといいな。」
「そうね、またいつの日か。」
オレは2人の姿が見えなくなるまで見送った。
さて、魔物狩りに行きますか。
て、あ・・・2人がいなきゃ今夜泊まるとこないやん。
まぁ、ギルドに居座ればいいか。
オレの事情知ってるのって冒険者ギルドだけだし、登録できるかの返事に1週間かかるって言ってきたの向こうなんだしな。
その間の面倒見てもらおう。
うん、そうしよう。
どっちにしろ魔物狩ったら買取してもらうのに冒険者ギルド行かなきゃなんないしー。
で、魔物狩りなのだが、西の森に行ってみようと思う。
2人から聞いた話では、ラサミアの街は四方を森に囲まれてるんだけど、オレがゴブリンの巣を殲滅した東の森は低ランクから中ランクの魔物が多く、西の森と北の森は街に近い森の浅い方には中ランクの魔物が多く奥に行くほど高ランクの魔物が出現するそうで、南の森は森としては小さく低ランクの魔物しか生息していないとのことだった。
だから、とりあえず小手調べで中ランクの魔物が出るっていう西の森だ。
余裕が荒ればちょっと奥にも行ってみようと思っている。
魔物も高ランクの方が換金率はいいってことだからね。
狩れるなら狙うぜ。
ということで、魔物狩りにレッツゴー。