10 珍種妖精、服を買う
シェーラとミリアムの案内で服屋に来ている。
だが、さすがに妖精用の服はなく、オーダーメイドになってしまうそうだ。
その辺は2人に聞いてたから大丈夫。
ただ値段が心配だ。
この世界で服というものはめちゃくちゃ高いんだそうだ。
ここでは、服と言えば古着が主流で、新品となればオーダーメイドが基本。
そんでもって、そんな新品の服を着るのは貴族や大商人やらの金持ちたちくらいだということだ。
一般市民が新品の服を買うなんて一生に一度あるかどうかってくらいの一大イベントなのだそうだ。
そういうことを聞いていたからちょっとビクビクしている。
服屋の主人も最初はオレ用の服だと聞いてちょっと驚いていたけど、そこは商売人、金はあるというと相談に乗ってくれた。
オレの希望の靴、靴下、下着、ズボン、シャツを一式オーダーメイドするといくらになるか試算してもらった結果、目が飛び出るくらい高かった。
これだけで金貨3枚になると言われてしまった。
日本円にして30万円。
生前のオレは財布に優しい店をこよなく愛し、普段着はしま○らかユ○クロ、スーツは青○と決めていたんだ。
それが普通のコーディネイト一式で日本円にして30万円だとぉ?そんなもん着れるかぁーッ!
「あー、やっぱりこれぐらいしちゃうわよね」
シェーラがそう言うと、ミリアムも「そうよねぇ」と言う。
え?2人ともこの値段に驚かないわけ?
「オレ、体小さいから布そんなに使わないのにちょっと高過ぎない?」
オレがそう言うと、何にも分かってないのねって感じで2人とも溜息をついた。
仕方ないというようにシェーラが説明し始めた。
「ケンジは何にも分かってないのね。ケンジの体は小さいうえに特徴的でしょ?」
まぁ身長30センチの3頭身の妖精だからな。
「というこは、サイズを詳細に測って一から型紙を起こして服を作らなきゃならないの」
お、おう。
よくわからんが、普通より作業が多くなるってことだな。
「しかも、小さいってことはそれだけ作業が細かいってことなのよ。服を縫う作業にしたって細かな作業の連続でしょうから、それだけ繊細な技術が必要になるわ」
ミリアムがうんうんと頷いていて、その後に続く。
「ケンジには羽があるから、シャツの羽を出す部分の作業だってかなりのものよ、きっと。それに靴ね。ケンジの足のサイズに合わせて作るとなったら、相当な手間がかかると思うわ。私の予想では靴が一番高いと思うわよぉ」
そ、そうだったのか……。
やっぱりこういうことは女子の方が詳しいな。
「そういうことでございます。これでも大分勉強したお値段にさせていただいてはいるのですが……」
とは服屋の主人。
異世界、パネェな。
異世界の服はめちゃくちゃ高い。
一つ勉強になった。
「もうさ、他の妖精たちも着てるチュニックでいいんじゃないの?」
とはシェーラ。
チュニックって、妖精ちゃんたちも着てたワンピースみたいなのか。
うーん、あれは下半身がすぅすぅしそうなんだけど……。
「チュニックなら上下分ける必要ないから一着で済むし、靴も必要ないんじゃない?靴を履いてる妖精なんて聞いたことないわよ」
シェーラの言うことにも一理ある。
着たきりスズメとはいかないから、やっぱり着替え用も欲しいし。
「チュニックは一着いくらになるんだ?」
服屋の主人に聞いてみると、「それでしたら大銀貨4枚ですね」と答えた。
4万円か、た、高いな。
でも、一式で30万円よりはマシか。
着替え用を含めてチュニックを3着購入することに決めた。
あと、腰回りを紐で結ぶトランクスみたいなパンツを5着ほど。
フルチンは勘弁だし、パンツは毎日交換したいからな。
合計金貨1枚と大銀貨5枚で日本円にして15万円だが、着替え用も買えたから良しとしよう。
靴やらズボンやらシャツやらは、もっと稼いで余裕が出た時にまた考えることにする。
チュニックとパンツが出来上がるのに、早くても3日はかかるとのことだった。
その間ずっと葉っぱ腰みのなのか?
それはヤダなぁ。
服屋の主人に相談すると、少し考えて「これで代用するこはできないでしょうか」と布製のバックを持ってきた。
持ち手を切って、底の方に頭を出す部分を切って、両脇に腕を出す部分を切って、背中に羽を出す部分を切って、それをすっぽりと被る。
どうですとニッコリ笑顔の服屋の主人。
うーん、チュニックと同じではあるのだが、何ともアレだな……。
まぁ、間に合わせだし、葉っぱ腰みのよりはマシか。
取り合えずの間に合わせなのでそれでいいというと、その分はサービスしてくれた。
オーダーメイド分の金貨1枚と大銀貨5枚を払い、5日後に取りに来ることで服屋を後にした。