04
「では0時まで時間がありますので勉強の時間としましょう」
「えー」
「シエリ様……。シエリ様はダンジョンマスターにあらせられます。ダンジョンマスターとしてこの周辺の地理を覚えておくのは必要最低限かと存じます」
「あ、っと地理の勉強?」
「はい、地理の勉強にございます」
「な、なんだぁ……。てっきり英語とか数学とかそういうのやるのかと思ったよぅ」
「言語はいずれ、数学に関しては四則演算が出来れば問題ないかと」
「うっ……。やっぱり言葉の勉強あるんだ……。私英語の成績あんまりよくなかったから自信ないなぁ……」
学校に通っていた頃の小テストや期末や中間なんかの成績を思い出してちょっと懐かしいような悲しいような変な気分になる。
自然と溜め息も出てちょっとしんみりしてしまった。まだ1日目なのにこんなことではいけないいけない。
「よし! 地理は大事だからね! 勉強しよう!
……あ、でもノートも筆記用具もないよ?」
「勉強道具は優先順位はそれほど高くありません。シエリ様が覚えてくださればいいのですから。
ですのでわたくしが口頭でお教えしますのでシエリ様はそれを覚えてください」
「……えー……。ノート絶対買おう……」
0時までの時間潰しと空腹を紛らわすためと知識の収集という一石三鳥なお勉強の内容は大体こんな感じ。
私がもらったダンジョン構築可能なエリアはミズーリ大陸北部全域。
広さ的には北海道より広いくらいで、深い森に覆われた場所。強い魔物がたくさんいてそれぞれ種族毎に縄張りを作って共存している。
場所によって起伏が激しく大きな山もあれば盆地のようなところもあるけど、基本的に森。
魔物以外の種は人間、獣人、亜人が小さな村を作って森ぎりぎりのところに住んでいる。
人間は生前の私のような種族。
獣人は人間に獣の特徴が現れた種族。個体差によるけど濃い人だと獣が二足歩行してるのと変わらないような人もいるそうだ。
亜人はエルフやドワーフやホビットなんかがわかりやすい。
人間とも獣人とも違うけど似たような種族は全部亜人になる。
ちなみに魔族は私が貰ったミズーリ大陸北部エリアには住んでいないそうだ。
多少は居るだろうけど定住しているような、ましてや村や街単位になるといないそうだ。
魔族は羽が生えていたり、肌の色が青とか緑だったりずいぶん違うらしい。
でも物語のように人を襲ったり世界征服を企んだりはせず共存している。
これらを総合して人種と呼ぶ。
人種に敵対しているのは魔物。
野生動物がマナの影響で凶暴化したり巨大化したり色々な現象を受けた生物の総称。
人種でもマナの影響を受けると強力な魔法を使えるようになったりするらしいけどそういう人達は魔物とは呼ばれない。
なぜか魔物は見た目がすごく怖くなるらしいけど、人種は別にそんなことにはならない。
確かにリンもデフォルトだとすごい怖かった。
妖精族のはずなのに私がイメージしてた妖精と全然違っていてどっちかというと悪魔だった。
まぁカスタムしたリンの容姿はそれはそれは可愛らしい素晴らしい妖精妖精してるけどね!
「あれ? 地理の勉強だったんじゃ?」
「総合的には地理です」
「総合的には……」
「はい、勉強とは多角的に多様な事柄を学んでいくべきであって」
「あーうーわかったよーわかったから、難しくいわないでー」
「申し訳ありませんでした、以後気をつけさせていただきます」
「あぅ……。そんなに気にしないでいいよぅ」
完璧に作りすぎてリンは執事とメイドさんがごっちゃになってしまっている。
まぁお世話役として作ったからそれでいいんだけど、なんだか堅いんだよねぇ。
「ねぇ、リン。もうちょっと砕けた喋り方できないかな? 私はリンともっと仲良くなりたい」
「砕けた、でございますか。善処いたします。わたくしもシエリ様ともっと深い仲になりたいと思っております故」
「そっかー。それはよかったよー」
深い仲ってきっと主従関係での信頼をもっと深めたいとかだよねぇー。そうだよねー。
あまり夢は見ちゃいけない。さっきも使いすぎで酷い目に現在進行形であってるんだからダメダメ。
「では続けさせていただきますがよろしいですか?」
「あ、うん。よろしく~」
リンの教えてくれる勉強は非常にわかりやすい。
透き通るようなはっきりとした声音でよどみなく且つ、私が理解しやすいように部分部分を噛み砕いてくれる。
おかげですんなり頭に入ってきてくれる。さすがはスーパーフェアリー。
でも教師のような技術は持ってなかったはずなんだけどなー。他の知識や技術の力なのだろうか。
まだまだわからないことはいっぱいだ。
途中でお昼寝をしたり、お風呂に入ったあと体を拭くタオルがなかったのでリンのマナ制御技術を駆使して水滴を拭き取ってもらったりして空腹を紛らわしつつ……。本当にマナ制御技術は便利だ。取得ポイントがかなり高いだけある。
お風呂の後もリンと交流を深めてつつ時間を潰し……。
やっと待望の時間になった。
「もうちょっとだね! もうお腹の虫がうるさいくらいだよ! 早く! 早く!」
「シエリ様、落ち着いてください」
「早く! 早く!」
椅子に立ってテーブルをバンバンと叩きながらリビングの壁に掛けてある時計の長針と短針が重なる瞬間を今か今かと待つ。
「5,4,2,1……。キター!」
両手を挙げて万歳して叫んで気づいた。
買い物は操作室じゃないとできないんだった。
「さぁ、リン! 操作室へいこう!」
「畏まりました」