01
目を開けば真っ暗闇。
周りには誰の気配もなく、見回しても真っ暗なので当然見えるわけもない。
どうしたらいいかを思えば脳裏にすぐにコマンド一覧が表示される。
簡易ヘルプと言い換えてもいいかもしれない。
コマンドの下にはちょっとした説明も記載されていて非常に便利だ。
その中から1番重要なコマンドを唱える。
「メインメニューオープン」
瞬時にして目の前に輝くディスプレイが表示される。
だがこの輝きは物理的な光ではないらしく、相変わらずディスプレイ以外は真っ暗闇だ。
ディスプレイには様々な項目があり、その中からダンジョン管理を選択する。
するとディスプレイは切り替わりいくつかの四角が連なった映像に切り替わる。
その中から操作室を選択すると、拡大され詳細な部屋がディスプレイ内で3Dグラフィックとして表示される。
「明かり明かり……」
少し迷って部屋の隅にある4つのスイッチを全て起動させると、暗闇を引き裂くように優しい光に満たされる。
「ふぅ……。出来た出来た」
明かりが点いたことにより、自分の体も見えるようになる。
見える範囲でわかるのは小さな手。短い足。何も着ていないので当然全裸だ。
大きな椅子に座っており、ぶらぶらと足を揺らしながら考える。
「とりあえず服かなぁ……」
ディスプレイを操作し、メインメニューの最初に戻ると買い物を選択する。
ずらっと売っている物が並ぶので目当ての物を探す時には右上にある検索を利用するといいようだ。
検索を選択して子供服を入力する。
この入力は口頭でもいいし、思考でもいい。実に便利だ。
検索されて出てきた子供服もこれまた大量だ。
でも購入するのに必要な通貨――DPは有限なので一先ずは安くて無難な物を選ぶことにした。
下着と上下と靴下を適当に選び、再度検索して子供靴を購入。
右下に表示されていた通貨、1000DPが950DPに変化する。
この通貨は色々なことに必要なのであまり無駄遣いはできないが1日毎にある程度補給されることも知っている。
「うんしょ。うんしょ。……よっと」
購入した服はすぐ側に自動で出現するが、椅子は割と高めなので降りるのも一苦労だ。
幸いなことに床に埃が積もっていることもなく、新品の服も汚れていないようだ。
さっそく購入した服を着て靴も履く。
椅子に戻ろうと思ったところで愕然としてしまった。
「た、高い……」
そう、椅子が高いのだ。
降りるときにも一苦労したようにこれに昇るのはもっと大変なのではないだろうか。いや確実に大変だろう。
「困ったなぁ……。でもこの椅子に座らないと操作できないし……」
困ったことにこの椅子、全ての操作を行う為には座るという行為が必須なのだ。
部屋の中を少し見回してみたが椅子しかない。
あとは違う部屋に続くドアと大きな扉のみ。
「うーん……。とりあえず違う部屋を探検してくるかぁ」
仕方なく違う部屋で何か踏み台になりそうなものを探すことにした。
1番手近なドアを開けると中は真っ暗。
照明のスイッチにはぎりぎりで手が届いたのでなんとかなったがこの部屋は食堂だろうか。
リビング部分にはテーブルと椅子、キッチン部分には大きな冷蔵庫や一般的な家電用品が揃っている。
踏み台になりそうなものはなかったので次の部屋へ。
照明をつけるとそこは洗面所だった。
大きな鏡があるが如何せんやっぱり高い位置にある。
すぐ近くにガラス張りのドアがあったので開けるとそこはお風呂だ。
かなり大きな浴槽があり、大きな人でも十分に足を伸ばして入れるほどだ。
そこでやっと見つけた。
お風呂で使うタイプの腰掛だ。
「よし、これなら!」
プラスチックで出来ているようで軽く、小さな体でも持ち運べるのもありがたい。
さっそく運んで踏み台にして椅子に戻ることができた。
「ふぅ……。服を着るだけのつもりがなかなか大変だった」
とりあえずこの経験を生かして踏み台を購入。
なるべく軽くて使いやすい3段タイプを選んだ。これなら大丈夫。でも軽くて使いやすいタイプだったので意外といいお値段。くそぅ足元みやがって。
さてさっそくメインとなる事柄を行おうか。
ディスプレイを動かしてどんどん操作していく。
「やっぱり最初はこの子でしょー。うわぁ……デフォルトだとこんな怖いの? ありえない……。でもめっちゃカスタムしてー……むふふふ~」
最初なのでとにかくひたすらに自重なしでガンガン好みに仕上げていく。
残っていたDP全てを費やし完成したのはまさに傑作と呼ぶに相応しい作品。ここまで仕上がるのに数時間もかかった。
そしてこの傑作を真に完成させるには詠唱を行わなければいけない。
中二くさいがでもこの傑作を完成させるためなら躊躇いはない。
さぁ最初の1歩を刻もうか!
「ダンジョンマスター、シエリが命ずる。その姿を我が前に現せ、召還!」
椅子から少し離れた3段ほど低くなったところに魔方陣が上下に展開しそれがゆっくりと回転しながら中央で合わさるように引き合っていく。
魔方陣が消え、そこに姿を現したのは傅くように片膝を突いた薄い羽根を持つ小さな人型の存在。
「顔を見せて」
「はい、マスター」
顔を上げた小さな存在は先ほど何度も何度も確認したディスプレイ内の映像とまったく同じだ。
その小さな顔に大きな瞳と低い鼻。小さな口に可愛らしい丸顔。
髪は腰まで伸びるほどの長さのストレート。
その背中には透き通る羽根があり、淡く発光さえしている。
そう、彼女は妖精。
このダンジョンで最初に創造された魔物だ。