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「・・・・・パードゥン?」

 再び英語が口に出る。いや、それ以外の言葉を口に出せない。

「だから、私たちの仲間になりなさいと言ってるのよ」

 少女は妖艶な声でそう言った。とても美しい顔が赤く染まり、何かに酔っているように見える。

 仲間、それは金太が欲していたものだった。

「急に言われても、どうすればいいのか・・・・」

 だが思考が追いつかない。あまりにも唐突な出来ごと、それも現実離れしすぎているが故に、どの用に対応すればいいのか分からないのだ。

「簡単な事よ。唯私たちの仲間、パンドラの一味として働くの。給料も良いし、休みも多いホワイトな職場よ」

 絶対に職務内容はホワイト

ではないと、そう思ったが口にはしなかった。

 金太は改めて今の自分の状況を思い返す。

 今金太は何処に向かっているとも知れぬ車内におり、周りには三人の人外的な力を持った存在がいる。

「実質脅し的な事をしている人が何を言いますか」

 金太に拒否権は無かった。

 少女はそれを分かった上で金太を勧誘しているのだ。

「だって、是から先長い付き合いになるだろうし、あくまでも自発的に入ってくれた方が気分良く付き合えるじゃない」

「ははは、そうですね・・・・」

 軽口を叩きながらも金太は思案する。これから如何するべきかをだ。

 だがそれを決めるためには材料が少なすぎる。

「とりあえず、パンドラの活動内容を説明してくれませんか? 一様後悔はしたくないので」

「心配しなくてもいいわ。パンドラの活動目的はとても簡単で素敵。私たちの持つ、この素晴らしい力でお金を稼ぐ事よ」

「はい?」

 思わず気の抜けた声をあげてしまった。

 怪人たちが集う悪の組織パンドラ。それの活動目的が余りにも俗なものだったからだ。

「考えてもみなさい。これだけの力があれば、どんな事が出来るかしら?」

「それは・・・・・」

 少し考えただけでもいくらでも浮かんでくる。実際に金太も未遂とはいえ銀行を襲い、金を奪おうとした。

「一度の仕事を頑張ればたくさんのお金が手に入って、あとは遊んでられる。すばらしくホワイトでしょ?」

「・・・・・業務内容はブラックですけどね」

 ついに口に出してしまった。

「はっはっはっはっは! そうだな! だがよう、悪の組織の仕事としちゃホワイトだと思わないか?」

 つぼに嵌ったのか、黙っていた南部は突然笑い出してそう言った。

「ふふ、ブラック・・・・ホワイト・・・・」

 その隣に座っている印辺も笑いをこらえながら運転している。

「確かに・・・・。世界征服とか人類絶滅とかと比べるとホワイトですけど・・・・」 

 比較する対象が余りにもあれだが、大抵のテレビの中の悪の組織などこんなものである。

 だがそれでもあくまでそれらと比べた場合である。手を再び血で汚す事を金太は恐れているのだ。

「大丈夫よ。私たちは殺しはしないから、手を汚す必要もないわ」

 金太の懸念を悟ったのか、少女は妖艶ながらも優しい声でそう言った。

「えっ? でもよく考えたら貴方達も銀行にいたんですよね? それってつまり・・・・・」

 今気付いた事だが、金太には銀行からこの車内までの記憶がない。それはつまりこの三人は銀行内で金太を捕らえたという事だ。

 そしてそれは、この三人があの時に銀行にいたという事を意味する。

 わずかだが、パンドラと名乗る三人があの侍とかぶって見えたのだ。

「勘違いしないでね? 私たちは唯新しい口座を作ろうとしていただけよ。間違っても銀行を襲撃するつもりはなかったし、絶対に人を殺す事はない」

 少女の声は妖艶ながらも、確かなまじめさと決意があった。瞳も金太の目を見て離してはいない。

 それを見て金太は多少の信頼を少女に寄せる。

「・・・・・信じてもいいんですね?」

「ええ。私は嘘が嫌いだからね」

「第一俺たちは素人の集団だぜ? 殺す覚悟も殺される覚悟もないっての」

「だな。下手に殺してそれに慣れてしまえば、完全な化け物だ」

 少女に続き南部と印辺も殺す事を否定した。

 そしてその言葉は、金太の中にあった最後の抵抗を崩してしまう。

「ふつつか者の未熟ものですが、よろしくお願いします」





「ようこそ有田金太、パンドラの新しい同志よ」

 少女は平坦な声に戻りながらも、大きく身振りをしながら歓迎の言葉を述べる。

 だが金太の目は大きく動く事で大きく動く胸に釘付けだった。

「・・・・・はい」

「元気がないのね。まあいいわ。それよりも貴方は自分の力をどれくらい知ってるのかしら?」

「力、ですか?」

 正直に言えば今の金太は自分の力のちの文字すら把握出来ていないだろう。

 なんと言っても力を使うたびに有田金太という人格が消えているからだ。

「ええ、それを詳しく理解しないと仕事の予定が立てられないじゃない」

「・・・・・・・・・・分かりません」

 恥ずかしげな小声で金太は言った。

 だがそれを聞いて笑う者はいない。

「そう、まあそうでしょうね」

「今朝目覚めたばかりですもんね」

「仕方がないだろうな」

「え?」 

 予想外の反応に金太は首をかしげる。

 笑われると思っていたからだ。

「何を間抜けな顔をしてるのかしら? 貴方の力はこれから見せてもらうから」

「どうやってですか?」

「今向かっている先には私たちのアジトがあるんだけど、そこで力を見せてもらうのよ」

「そうですか」

 震えた声で返事をする。

 力を見せてもらう。自分の力を全く理解してない金太にとってはとても恐ろしい事である。

 だがそれ以上に一つの疑問が現れた。

「この車って、窓の景色から予想するに海岸線を南に走ってるみたいですけど、どこに向かってるんですか?」

「秘密」

 即答だった。だがそれは予想できる。まがりにも何も、悪の組織なのだからそう簡単にはアジトの場所を言えはしないだろう。

 だがそれ以上の疑問を金太は持っているのだ。

「南に行くなら高速を走れば良いじゃないですか、どうしてした道を通っているんですか?」

 瞬間、車内の空気が凍った。

 少女は無表情な能面となり、南部は煙草をくわえて席で目を閉じ、印辺はひたすら運転に集中しようとする。

「・・・・・・あの、ちょっと、聞こえてますか」

 地雷を踏んだと気付きながらも、必死に金太は他人の言葉を求めた。

 すでに引き返せない事を悟っていたからだ。

「・・・わ・・・・こ・・・るな・・・」

「え?」

 僅かに聞こえる少女の言葉に耳を傾ける。

「私の前で、高速の話をするなぁぁぁぁああああああああ!!!」

 はじめて聞く少女の激昂の声とともに、金太の体は少女の針で貫かれた。

「アガっ!! なんで・・・・・」

 胴体の中央を貫かれながらも、あまり痛みは感じずに意識もはっきりとしている。だがそれ以上に突然の攻撃に大きな精神的ダメージを受けてしまった。

「いいわ、私たちのアジトについたら、全部教えてあげる」

 妖艶な声でそう言いながら少女は針を抜き、その先に付いた血を舐めとる。とても妖艶な動作で映えるが、金太は恐怖しか感じない。

「でもその前に、ワン質問ワンアンサーの約束をつかわないとね?」

「何をするつもりですか!」

 既に傷が消えた腹部を押さえながら、金太は怯える。

 少女の左腕で頭を押さえられ、少女の太股から逃れられない。

 先ほどまではあれほど心地よかった太股が、今ではとても不気味な存在に思えて仕方がないのだ。

「大丈夫、色々と教えてもらうだけだから・・・・・・」

 数分後、ありとあらゆるセクハラ的な質問に無理やり答えさせられている金太の姿が車内にはあった。









「はあ、はあ・・・・・。ひどい目にあった」

 信じられないようなセクハラ適な質問を、ようやく終えた金太は必死で息を整えていた。

「やっぱり貴方は面白いわね」

 少女は人間の姿に戻り、声も平坦なものに戻っている。

 だがその目や口、声の片隅から笑いの感情が感じられた。

「面白くないですよ! あんな事聞いて意味があるんですか!?」

「あるわよ」

 即答だった。

「どう言った意味ですか?」

「貴方がまともな人間だって分かった事よ」

 突然のまじめな少女の言葉。金太は思わずハッとなった。

「もしかしてさっきの質問は・・・・」

「ええ、貴方の人間を見せてもらったのよ」

「やっぱり・・・・」

 といいつつ、金太は内心で拍手を送った。

 ヒーローが善悪関係なくいるように、金太のような化け物も善悪は判断できない。仲間になり力を知ったとしても、それではうまく使えないだろう。

 少女は先ほどの質問を通すことで、金太の人間性を判断し善悪を知ったのだ。

「貴方は見た目はR指定の化け物だけど、意外と面白くて良い人間何のね」

「ははは、よく言われます」

 R指定の化け物。そう言われて金太は若干凹んでいた。

「それに頭も切れるわ。弄りがいもあるし合格ね」

「合格?」

「ええ、貴方の個体名はクリーチャーパンドラ。コードネームはヤージュ。正式なパンドラの一員よ」

 少女はやはり平坦な声だ。

 だが心なしか優しさも含んでいるように思える。

 そしてその優しさが仲間に向けるものであると、金太は理解できた。

「了解ですよボス。これからよろしくお願いします」

 少女と目を合わせ真面目な声で金太は言った。

 だが少女は何やら思い悩んでいるようである。

「・・・・・ボス、それも良いわね」

「・・・・・あの、南方さん?」

「ボスよ」

「え?」

 突然の意識がこもった声に金太は間抜けな声を上げた。

「私の事はボスって呼びなさい。命令だからね」

「了解しましたボス」

 逆らっても無駄であると悟り、大人しく従うことにした。

「よかったな坊主、いやヤージュ。俺のコードネームはカミキラーだ。よろしくな」

 敵意のない笑顔を浮かべながら南部は握手を求めてくる。

 少女に膝枕をされながらも、金太はその手を掴んだ。

「よろしくお願いしますカミキラーさん」

 カミキラーという名前に笑いそうになったのを、必死に堪えながらだが。

「俺はビートラーだ。まあ、よろしく頼む」

 南部は運転中なので言葉だけだが確かな信頼が含まれていた。

「こちらこそですビートラーさん」

 再び笑いそうになるのを堪える。

「コードネームは怪人の姿になった時だけ使うのよ。じゃないと正体がばれるでしょ?」

 平坦な声で、だが笑顔で少女は言った。

「了解ですボス」

 金太も笑顔を浮かべた。

 今日になって初めての喜びからくる笑顔だったかも知れない。







「ところでですけど、ボスのコードネームは何なんですか?」

「ビークイーンよ? おしゃれでしょ?」

 それを聞いたとたん金太は耐えられず笑い出し、再び少女に刺されてしまった。


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