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「ウマイ・・・・・ウマイウマイウマイウマイウマイウマイウマイ!!!」

 血に染まった銀行内にて、化け物は同じ言葉を叫び続けていた。

 無残に喉元を食いちぎられ息絶えた侍の死体と鎧の残った部分を、化け物は喰らい続けている。

 少しずつ、味わうようにだ。

「つっ、次は、だっ、だれが食われるんだ・・・・・」

 それは誰の言葉だっただろうか。

 銀行内にて生き延びていた人間は、先ほどより続く恐怖のあまり逃げ出すことも出来ずにただ怯えていた。

 圧倒的な暴力でその場を支配した侍は、一方的に化け物に惨殺されたのだ。唯の人間が束になっても敵う筈がなく、また挑みかかる勇気を持った人間も、銀行内にはいない。

「ゴチソウサマ・・・・・・・」

 化け物が食事を終えた。

 額にある分を含めて三つある目は血に飢えた獣以上に獰猛で、ギラギラと光っている。

 そしてそれらの目は何かを探るように不審に動き、銀行内を見回している。

「カネダカネダカネダカネダカネダカネダカネダカネダカネダ!!!」

 化け物は叫び、銀行の隅に縮こまっていた人間のすぐ前まで移動する。

 早い、余りにも早い。人間では目で追えぬほどだ。

「ヒっ! たすけ・・・・」

「カネダ!!!!」

 化け物は人間のポケットに手を突きいれ、財布を奪い取った。

 そして心なしか嬉しそうな声で叫ぶ。

「カネダ! カネダ! カネダ!」

 奪い取った財布の中身を確認するまでもなく、化け物はそれを喰らった。

 皮と金属で出来た財布は容易く引き裂かれ、溶かされて飲み込まれてしまう。

「モットモットモットモットモットモットモット!!!」

 まだまだ物足りない様子で化け物は叫んだ。

 恐怖、圧倒的なまでのそのふた文字が銀行内を支配している。

 それに逆らえる人間は誰もいない。





「あらあら、少し行儀が悪いわねあなた?」

「ギャガ!!」

 不意に背後から聞こえた妖艶な声に化け物は振り返る。

 だがそこには誰もいない。

「うふふ、こっちよこっち」

 声の主は振り返った化け物のすぐ後ろにいた。

 人間でいえば右耳に当たる箇所に息を吹きかけ、妖艶な声で化け物に囁きかけている。

「ウワァァァァァッァァァァァ!!!!!!!」

 未確認の存在に違和感と少なくない恐怖を覚えたのか、化け物の顔に生えた触手は一斉に妖艶な声の主を狙った。

 だが届かない。

 声がした箇所を貫いた筈の触手は虚しく空を切った。

「もう、危ないわね。当たったらどうするのよ」

 今度は上から妖艶な声がする。

 その事に化け物が気付いた時には、頭部を衝撃が貫いていた。

「ふふふ、よーく眠りなさい」

 薄れゆく意識の中、化け物の姿は有田金太という人間に戻っていた。



「さてと、いっちょ上がりね」

 妖艶な声の主である美しい少女は、まるで蜂の尻の用に変化した腕を戻しながらそう言った。

 目の前には人間の姿に戻った金太が眠っている。

「あら、意外と可愛い顔してるのね」

 少女しゃがみ込むとは金太の顔を掴み、自分と同じ目線にまで持ち上げる。

 金太の体重はそれほどまでに重いわけでもないが、それでも少女が片腕で持ち上げられるほど軽くはない。

 だというのに少女は片腕で持ち上げてしまったのだ。

「大丈夫ですか姉御? そいつ急に暴れだしたりしませんよね?」

 不意に現れた線の細い男が心配そうに尋ねる。

 彼もまた背中に虫のような羽が生えていた。

「さあ? とりあえず私の毒はありったけ注ぎ込んだけど、どれほど効くかは分からないわ」

 先ほどまでの妖艶な声とは違う、平坦で落ち着いた声で少女は答える。

「それって死んじゃいませんか?」

「試してみる?」

「・・・・・すいませんでした」

 再び少女の腕が蜂のように変化したのを見て、線の細い男は頭を下げた。

 少女は気だるそうに腕を下ろし、人間の腕に戻す。

「そんな事よりも南部、仕込みは終わったのかしら?」

「はい、もちろんです。とりあえず銀行の内外で俺たちとその小僧の事を覚えてる奴はいませんよ」

 線の細い男は自慢げにそう言った。

 男の周囲には多数の虫、それもカミキリ虫が飛びまわっており、それらは役目を終えて帰還するように男の背の、羽根の中に飲み込まれていった。

「ちゃんと監視カメラの映像は処理したでしょうね? 以前はそれでひどい目に合ったのよ」

 疑うような目を少女は向けている。

 その視線に気が付き、線の細い男は慌てた様子で頭を抱えた。

「しまった! 忘れてた!」

 線の細い男はハッとなって少女を見る。

 だがその視界に飛び込んできたのは美しい少女の顔ではなく、禍々しい針だった。

「次は無いと、そう思いなさい」

「きっ、肝に銘じておきます・・・・・」

 線の細い男の顔に当たるほんの数ミリ手前で、少女の腕は人間の腕に戻った。

 少女は近くにいた適当な人間、それも従業員と思われる男を指さして命じる。

「そこの貴方。どんな方法を使っても良いから、今日一日分の監視カメラの映像を処分してきなさい」

「かしこまりました」

 従業員の男は初対面の筈の少女の命令にも、嫌な顔一つせず従うと何やら銀行の奥を目指して歩き始めた。

 そしてそのまま何かの部屋に入り込んでしまう。



「これでよし」

 少女は満足そうに頷く。

 そして顔を掴んでいた金太をいっそう高く持ち上げると、肩に担いでしまった。

「俺がもちますよ姉御」

 線の細い男は慌てて少女に駆け寄ってそう言ったが、少女は首を振った。

「結構よ。私が一番強いし、あなただとこの子が暴れた時に止められないでしょ?」

「そんな事ないですよ! 俺だってそんな小僧の一人や二人楽勝です!」

「そうかしらね」

 少女は興味なしといった様子だ。

「それより印辺はどうしたの? さっきから見かけてないんだけど」

「印辺さんですか? さあ、ちょっと用事があるって奥のほうに行ったのは見たんですけどね?」

 二人は周囲を見回すが、何やら表情が抜けた人間たちが目に映るだけで、目当ての男は見当たらない。

 人間たちは心ここにあらずといった様子で地面を見つめているだけである。

 だが不意に扉が開き屈強な男が現れた。

「すいませんお嬢お待たせしましたね」

「遅いわよ印辺。待ちくたびれたじゃない」

「すいません。こいつを探していたんです」

 屈強な男は片手を扉の内側に入れると、何かを掴んで取りだした。

 それは大人の男程の大きさがあり、激しく暴れている。

「なんすかそのおっさん?」

「ここの支店長だ」

 屈強な男は支店長を放り投げ、少女のすぐ前に落とした。

 少女はそれをゴミを見るような目で見ている。

「ふ~ん。さっきカッコつけてお金を取りに行った支店長さんね。ずいぶん遅かったみたいだけど、何してたのかしら?」

「そっ、それは金を金庫から出すのに手間取ってだね・・・」

 支店長の顔に少女の足が突き刺さった。

 そしてそのまま吹き飛んで、カウンターへとぶつかる。

「嘘は嫌いよ。どうせ一人でお金を持って、逃げるつもりだったんでしょ?」

「違う! 金庫から金を出すのに手間取っていただけなんだ!」

 ボロボロな支店長は必死に弁明した。

 だがそんな支店長の首元を屈強な男が掴み上げた。

 支店長は苦しそうにもがくが、屈強な男は力を緩めない。

「俺は見たぞ。お前が袋に詰めた金を持って、裏口から出て行こうとするところをな」

「っ!! が、な・・・・・」

 支店長は顔を青するが、首を掴まれているために声が出せない。

 次第にもがく力も弱まっていく。

「どうしますお嬢? このまま占め落としましょうか?」

「そうね。それもいいけど今は早く此処を離れたいわ」

 肩に担いだ金太を下しながら少女はそう言った。

 すかさず線の細い男が出てきて金太を受け取る。

「姉御、そいつは俺が担ぎます」

「頼んだわよ」

 

 

 金太を下し、身軽になった少女が飛んだ。

 背中から蜂のような羽を生やすと、屈強な男に首を掴まれて持ち上げられている支店長と、同じ目線にまで浮かび上がった。

「っ! っ!」

「そんなに怯えなくても大丈夫よ。貴方には私の奴隷になってもらうだけだから」

 少女の口から蜂が飛び立つ。

 スズメバチのような姿をした蜂は支店長の顔に止まると、勢いよくでこに針を突き立てた。スズメバチの毒は強力である。下手をすれば人間が死んでしまうほどだ。

 支店長はショックと苦しさで泡を吹き、失神してしまった。

「さてと、それじゃ二人とも帰るわよ。 その子も一緒にね」

 軽く金太を見つめると、少女は銀行の外に向かって歩き出した。






「南部、お金は置いて行きなさい」

「へっ!」

「置いていきなさい」

 店長が持っていた金の入った袋を拾おうしている、線の細い男に釘を差しながら。


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