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 ビークイーンとビートラー、そしてムーンオブブルーとブラックガードナーが炎に覆われる少し前、校門前の広場へとピンクガンナーを叩き落としたカミキラーが死闘を繰り広げていた。

「ちょっと待て! タイム、タイムタイム!」

「タイムって何ですか!? イリーガルにタイムなんてありません!」

 結界が貼られた空間を必死に逃げ回るカミキラーと、銃を縦横無尽に乱射してそれを追いかけるピンクガンナー。傍から見れば何処となく笑えてくるようで、本人たちからすれば至って大真面目な戦闘が繰り広げられている。

「うわ! いてぇ!」

 カミキラーの肩をピンクガンナーの銃弾が掠めて焦げ付かせる。その攻撃はカミキラーの外骨格を破壊しており、直撃すれば致命傷は避けられない事をものがたっていた。

「何でこうなるんだよぉ!」

 悲鳴を上げつつもカミキラーは必死に逃げ回るしかなかった。

 カミキラーはピンクガンナーの戦闘力を甘く見ていたのだ。オドオドとして弱そうで、銃の腕も大した事が無い素人、そう認識していたのである。故に自身が単純な戦闘能力においてはパンドラ最弱だと自覚しているカミキラーは、一番弱そうなピンクガンナーを狙ったのだ。

 だがカミキラーはピンクガンナーの能力を見落としていた。彼女はただ下手な銃弾を撃ちまくるだけが能だったのではないのである。

「クソ! これでも喰らえ!」

 虫さながらに校舎の壁へとへばりついたカミキラーは、背中の羽を開くと大量のカミキリ虫たちを吐きだし攻撃させる。

 その一匹一匹がコンクリートすら噛み砕くほどの圧倒的な攻撃力を秘めているカミキリ虫達。それにまとわりつかれれば最後骨すら残らないだろう。

「甘いです! 私にそれは効きません!」 

 ピンクガンナーの銃が火を噴く。比喩的な意味ではなく本物の炎をだ。そしてその炎は圧倒的な攻撃範囲を有していた。

「俺の可愛いカミキリ虫がぁ!」

 カミキラーの吐きだしたカミキリ虫達は全て、ピンクガンナーへと到達する前に焼き尽くされてしまう。

 そして直後に炎を掻き分けて飛び出す銃弾がカミキラーを打ち抜く。

「痛い! マジで痛い死ぬ!」

 口ではそう言いつつも高い再生能力を持つカミキラーにとって、この程度では致命傷とはなりえない。 それでもカミキラーが劣性である事には変わりなかった。

「全く、学習しませんね。貴方の能力じゃ私には勝てないんです!」

 先ほどまでの弱弱しい態度とは打って変わって自身に溢れているピンクガンナーの声。彼女は完璧に調子に乗っていた。

 調子に乗っておごれば足元をすくわれてしまうのが世の常である。だがカミキラーもそんな言葉に挑発される程に追い詰められていた。

「んのやろう、もう怒ったぞ! 女だからって容赦しねぇ!」

 チンピラの様などなり声でカミキラーはピンクガンナーへと飛びかかる。単純だがトップスピード510キロで接近されれば反応など出来ないだろう。

 接近さえできればピンクガンナーなど敵ではないと、カミキラーは確信していた。

 だがその事を知っているのはカミキラーだけではない。ピンクガンナーもそれを知っているのだ。

「虫は嫌いなんです! 来ないでください!」

 彼女とてヒーローの端くれである。反応は出来ずとも対応する事なら出来る。火炎放射機となった銃を無茶苦茶に振り回し、自身の周囲の空間の大部分を炎で覆ったのだ。

 その動にいわゆる戦闘のプロ的な洗練さの欠片も存在していない。だが攻撃事態は圧倒的な面制圧力を有している。

「あちぃぃぃ! 死ぬ! マジで死ぬからこれ!」

 無茶苦茶に放たれるが故に炎を回避しきれないカミキラーは、悲鳴をあげて逃げ出していく他なかった。虫の怪人であるが故に炎には弱いのである。

「アチチチチチチチチチチチ!!!」

 悲鳴を上げながら地面を転がり、何とか自分の体に付いた炎をカミキラーは消していく。

 先ほどから何度も何度もカミキリ虫を用いた遠隔攻撃と自慢のスピードを用いた超接近を挑んでいるのだが、高い面制圧力を持つピンクガンナーの銃によって防がれてしまっているのだ。地面を転がるこの光景も、既に見あきたものとなってしまっている。

 もしもこれがビートラーならばパンドラ随一の重装甲を用いて押しきる事が出来たであろう。ビークイーンとてショットニードルを用いれば十分対抗できるであろう。ヤージュに関しては言うまでも無い。

 だがカミキリ虫以外に飛び道具が無く、防御力においてはパンドラ最低のカミキラーにとってピンクガンナーとの相性は最悪と言えるのだ。

「どうですか私の実力! これでも結構な数のイリーガルを倒してきたんですよ!」

 自信満々に胸を張りながら、ピンクガンナーは追撃を加えていく。手持ちのハンドガンであるが故に射程は大したことは無いが取り扱いが素早く、ムーンオブブルーの弓よりも格段に上である。

 またどういった原理かは分からないが弾切れといったものがないのか、ピンクガンナーは間隔を空けることなく攻撃を続けることが出来ているのだ。

 仲間たちから分断した事も誤射を心配せずに乱射が可能という点において、ピンクガンナーにはプラスに働いている。

(クソ! 分断したのは失敗だったな・・・・・・)

 転がりながら回避しつつ、ついでに焦げた体を冷ましつつ、カミキラーは自身の失敗を認めて奥歯を噛み締めるのだった。そんな彼へと休む間もなくピンクガンナーの銃弾が襲い来る。

「ちょっと待って下さいよってね!」

 自慢のバネを用いて飛びはね銃弾を回避するカミキラー。校舎の壁に飛びかかりその壁を砕く程の力で踏み締め急加速、ピンクガンナーの丁度背後の地面へと降り立った。

 そして覚悟を決めた様子で叫ぶのである。

「舐めるなよ! 俺はパンドラの大幹部だ! そこらの雑魚どもとは格が違うぜ!」

 カミキラーはこのままやられてしまうほどに弱くはない。正面から向き合えばその恐るべき反射神経を用いる事によって、放たれる銃弾を手足の刃を用いて切り裂く事すら可能なのだ。

「生意気言わないだください!」

 ピンクガンナーはカミキラーの言葉が気に食わなかったのか、嵐の様な銃撃を放って行く。まともに全て直撃すれば、カミキラーとて無様な肉片へとなり果てるだろう。

 だがそれを避けるという選択肢は今のカミキラーの頭の中には無かった。

「ワタァァァァァァァアアアアアアア!!!」

 奇声をあげながら肢体を振り回し、カミキラーは次々と乱射される銃弾を弾き落としていく。そのたびに手足の刃は欠け、弾けなかった分の銃弾が体に突き刺さっていくが、高い再生力を有するカミキラーはそれを気にせず一歩一歩前進していく。

「嘘でしょ!? どうして進めるんですか!?」

 血に染まってもなお、前進する事を止めないカミキラーにピンクガンナーは恐怖を感じずにはいられなかった。

「どうしてかって? それはなぁ、俺がパンドラの大幹部で、お前たちが姉御を傷つけたからだよ・・・・」

 怒りを込めた言葉を放ちながら、カミキラーは背中から再びカミキリ虫を放つ。

「姉御を傷つけた落とし前だ。その首貰い受けるぜ!」

「キャァァァ! 来ないでぇ!」

 予想外の攻撃に不意を突かれたピンクガンナーは、咄嗟に銃を火炎放射機に変えてカミキリ虫を焼き払った。

 だが火炎放射機は高い面制圧力を有する代わりに、射程においては通常の弾丸よりも大きく劣るという弱点を持っている。

「ヘッ! そう来ると思ったよ!」

 銃弾と炎、その射程の違いから生じる安全地帯へと逃げ込んでカミキラーは炎を回避した。これまで数度にわたって火炎放射を受けてきたが故に、炎が届く範囲がどの程度であるかを理解しているのだ。

 そしてカミキラーは強く地面を踏み締める。

「俺は炎は苦手だがよ、こいつならどうだ!」

 砕いた地面のレンガの破片、それを手にしたカミキラーは力いっぱい振りかぶると炎の壁の向こう側にいるピンクガンナーへと投げつけた。

「エッ!? 何ですかこれ!?」

 気付いた時には既に遅い。強いエネルギーを有したレンガの破片は、炎の中でも完全に消滅することなく突き進み、やがてはピンクガンナーへと直撃した。

「しまった・・・・・」

 頭を抱えてふらつくピンクガンナー。僅かな間をおいて直ぐに立ち直るが、その僅かな間があればカミキラーは十分である。

「迂闊だな、嬢ちゃん!」

 高速移動、時速510キロメートルのそれは僅かな隙でも即座に敵との間合いを詰める事が可能である。

「嘘・・・・・・」

 ピンクガンナーが気付いた時には既に目の前にカミキラーが迫っていた。

「悪いが、現実だぜ!」

 振るわれる右腕。そこに付着した刃がピンクガンナーを切り裂く。

 装甲こそ貫通していないが、大きな衝撃がピンクガンナーのを襲った。

「痛い、痛いよぉ・・・・・」

「痛いか? だがな、姉御はもっと痛かったんだよ!」

 涙声になるピンクガンナーへと更なる追撃をカミキラーは加えていく。長い肢体と頭部の触角、実質6つの手足を持つような状態で繰り出される攻撃は、変幻自在である後衛専門のピンクガンナーには対応できない。

「あぁ、止めて・・・・・」

 力なく悲鳴を上げながらピンクガンナーは滑稽な踊りを踊るかのごとく攻撃を受け続けた。

 カミキラーの触角や手足が当たるたびにピンクガンナーは悲鳴をあげて飛び、刃が当たるたびに身に付けた鎧が傷ついていく。

 先ほどまでの状況から一変して、今度はピンクガンナーがリンチを受けているような状態に陥っていた。

「へっへっへ・・・・。さて、そろそろだな」

 口を開くカミキラー。そこにはヒーローの鎧すら容易く貫通せしめる牙が生えている。後はそれを用いて自身の毒を撃ち込めばゲームセット。カミキラーの勝利である。

「ヤージュじゃねーけど、いただきますってな」

 ピンクガンナーの首を掴んだカミキラーの牙が、その肩の装甲を貫こうとしたその寸前である。

 突如として業火が高校の中庭を覆いつくしたのだ。







「なんだよ、いまの・・・・・・・」

 虚ろな目で掴んだピンクガンナーをその手から落としつつ、カミキラーは空を見た。

 先ほどの炎がどれほどの温度と破壊力を有していたのかは分からないが、明らかに虫の怪人であるパンドラたちには致命傷になりえるだけの威力はあったように思える。そしてビークイーンは中庭へとムーンオブブルーを叩き落としていた。

(あの炎は俺が受けたのなんかとは比較にならない威力だよな・・・・・・。あれを受けたら姉御だって・・・・)

 それらの事からカミキラーは最悪の展開を思い浮かべてしまった。

「姉御、無事でいてくれよ・・・・・・」

 牙と牙とがぶつかり合い、削り取られるほどに強く噛み締めるカミキラー。彼の脳裏からは既に戦闘不能となったピンクガンナーの事など消えており、炎を放ったであろう何かについてのみ考えていた。 

 カミキラーは意外と冷静な一面も持ち合わせている。少なくとも何も考えずに感情に任せて中庭に飛び出しはしないほどにはだ。

 もしも今炎を放ったであろう何かを放置して中庭に向かえば、今度はカミキラー自身が炎に焼かれてしまう可能性もあるし、そうなればビークイーンを救う事も出来ない。その事を弁えているのだ。

「空に人影? あいつがやったのか?」

 危機的な状況がかえって脳を研ぎ澄ませたカミキラーは、上空数百メートルに浮かぶ人影を容易く捕らえる事が出来た。詳しい姿はまだ分からないが、とりあえず倒すべき敵である事は分かっている。

「飛行能力と火炎が武器のヒーローか。厄介だがかえってやりようはあるな・・・・」

 冷静に考えを纏めていく中で、現状の情報のみでカミキラーはある程度敵の能力について予想を立てることが出来ていた。だがやはり予想は予想である。正確な能力は何一つ分かっていないのだ。

「・・・・・・・とりあえず、面おがませてもらうぜ」

 高校の中庭の上空数百メートル。そこに炎を放ったであろう何かが浮かんでいる。カミキラーはその人間の比較にもならないほどに高い視力を、限界まで用いてその何のはっきりとした姿を視界に納めることにした。

 何かがどれほどの実力を持っているかは分からないが、このまま無事で済ませるなどと言う選択肢はカミキラーには無いからだ。

「とりあえず、手足を食いちぎってへし折って、砕いて・・・・・・・殺すかな・・・・・・」

 物騒な事を呟くカミキラーの視界の片隅に急激に何かが飛び込んでくる。それは彼方此方が傷ついた黄色い鎧を着たヒーローと、片腕が無く肌が見える程にボロボロの赤い鎧を着たヒーロー・・・・・。

「カミキラーさん! ボスが、ボスがぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

 を両手に持った醜いピンク色の肉塊のような化け物・・・・・・ヤージュである。彼は冷静なカミキラーとは間逆で非常に錯乱した様子である。

 それこそ上空に高い対地攻撃能力を持った相手がいる事を忘れてしまっているのかと思える程にだ。

「おい馬鹿やめろ!」

 カミキラーが制止するが既に遅い。

「え?」

 ヤージュが気付いたその時には、先ほどまで関心が中庭に向いていたであろう何かの狙いがヤージュとカミキラーに向いており、炎が放たれるその様が見て取れた。

 ヤージュという巨大な存在が大声をあげて激しく動いた事により、敵の五感に捕らえられてしまったのである。

「・・・・・・・白い翼と赤い炎を持った、鳥の様なヒーロー。武器は西洋の剣と、背中の羽から出す炎か・・・・・」

 炎が放たれる直前にカミキラーは敵の詳しい姿を認識することが出来た。が、すでに意味は無い。放たれる炎の攻撃範囲は結界が貼られた学校内では逃げ場が無いほどに大きく、圧倒的なエネルギーも有している。

 炎に耐性の無いカミキラーが受ければ一たまりもないだろう。

「俺もここまでかよ・・・・・・」

 諦めた様子でカミキラーは目を瞑った。

「ナンノォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 だがヤージュは違う。諦めてなどいなかった。両手に持ったヒーローを真下の地面に投げつけると、もはや数える事すら馬鹿らしくなるほどの触手を全身から生み出す。

 それらの触手は地面に突き刺さると重なり合い、ヤージュを頂点にするような三角錐型の肉の塊をうみだした。

「おい、ヤージュ!? お前まさか!?」

 カミキラーとレッドサーベル、イエローランサーそしてピンクガンナーの一体の怪人と三人のヒーロー達はその肉の三角錐の中へと取り込まれている。

 ヤージュは自らの体を盾にしようとしているのだ。

「オレハ不死身だァァァァァアアアアアア!!!!」

 叫んだヤージュへと炎はぶつかった。

 ブロックが敷き詰められた床やその装飾に用いられている木に、鉄筋コンクリート製の校舎。それら全てを焼き払ってしまうほどの熱量を浴びたヤージュの肉体は、この世の物とは思えないほどの悪臭を放ちながらメラメラと燃えていくのだった。

「ヤージュ・・・・・・・・・・」

 肉に包まれた漆黒の空間の中で、カミキラーは一人深い悲しみを感じていた。








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