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 生徒指導室。恐らくその部屋は高校ないし全ての学校に通っている生徒にとって最も嫌な、いきたいくな部屋であろう。

 一度でも入れらてしまえば逃げ場は無く、指導という名の罵詈雑言、場合によって暴力まで振るわれる事が分かりきっているからだ。

 事実金太もこの生徒指導室という部屋が大嫌いである。

「はーあ・・・・・。つまんないの」

 それは金太の声だった。

 彼は今生徒指導室の机の上に立ち、自分を連行していった教師たちを見下ろしている。

 教師のいる前で堂々と机の上に立つなど、普通ならば先ず生徒指導室の中では出来ないような行為だが、今の金太はそれが可能だった。

「ばっ、ばけもの・・・・・・・」

 見下ろされている教師の一人が怯えた声で呻いた。彼の腕はいびつな方向に曲がっており、目も焦点が合っていない。誰によってそのような目にあわされたのかなど、言うまでも無いだろう。

「やだなー先生。可愛い生徒を化け物だなんて。僕傷ついちゃうよ?」

 言いつつ金太は机から飛び降りてその教師の頭を踏みつける。

 金太からすれば軽く触った程度の力だが、人間である教師からすればハンマーで殴られたような衝撃である。

「ましてや可愛い生徒を思いっきり本で殴るんだからね、腕の一般くらいは当然だよね?」

「・・・・・・・・・・」

 返事が無い。どうやら頭部を激しく揺さぶられ、その教師は意識を失ったようだ。

「あーあ、あっけないの」

 金太は興味が無くなったようにその教師の頭から足を退かすのだった。

「言葉や暴力、ありとあらゆる行動にはリスクが伴うんだ。だからね、リスクを叩きつぶせないのに行動を起こすのは馬鹿のやる事だよ、先生?」

 わざと可愛がりげのある声で教師に諭すかのような態度で金太は言う。そして両手の指先を触手に変化させ、他の逃げ出そうとしていた教師たちを絡め捕る。

 縋りつくように扉へと逃げ出していた4人の教師たちは皆、金太の触手によって絡め取られ逆さに吊るされてしまった。

「仲間を置いて逃げるのは最低だと思うよ先生? その行動のリスクもこれから負って貰おうかな?」

 金太の言葉に4人の逆さに吊るされた教師たちは皆恐怖で顔を青く染め、呻きをあげた。だが金太の触手は猿轡のように口を塞いでいて言葉を発せられない。

 金太はそれを見て更に愉快そうに笑いながら、縛っている触手に更なる力を加えるのだった。

 そうすることによって圧迫による苦しみを強めた教師は更に顔を歪め、金太は更なる笑顔を得るのである。

「本当に面白いよね。教師なんて肩書に守られてないと、何にも出来ない無能のくせにえらそぶっちゃってね」

 一人の教師を縛っている触手を僅かにだが締め付ける力を緩め、更に口を塞いでいる触手も動かした。

 途端にその教師は口を動かし、必死の命乞いをするのである。

「助けてくれ有田、俺たちが悪かったから!」

 明らかに咄嗟に発した言葉である。深く考えずに言葉を発したのだろう。

 だが金太はそんな教師の言葉に、維持悪げにつっこんでいく。

「ふーん、じゃあどんな所が悪かったのかな? 具体的に言ってくれるかな?」

「そっ、それは・・・・・・」

 教師は言葉を詰まらせた。良く考えずに助かりたいがために発した言葉故に、その中身が存在していないからだ。

 事実今の状況では教師に悪いところがあったとしても、金太の方が悪い事のレベルとしては上だろう。金太はそれを分かった上でわざと聞いているのである。

「嘘はいけないよ?」

 突き刺さる金太の拳、教師は口から何かを吐きだして意識を失った。

「汚いなーもう、こうしてやろう」

 金太は触手で吊るしている残り三人の教師たちをまるで雑巾か何かのように扱って、床に飛び散った液体を拭いていく。

 教師たちは皆非常に屈辱的な表情で顔を歪めるのだった。








「金太ったらやりすぎてないかしら」

 少女は屋上で退屈そうに下を眺めていた。既に昼休みは終わって午後の授業が始まっている時間だが少女は気にも留めてはいない。

「・・・・・つまんないわね」

 ただ先ほどまで勢いよく走っていった金太が、少女の毒を仕込むために大暴れする光景を見て大笑いしていたのだが、肝心の金太が教師たちによって連行されてしまったので退屈しているのだ。

「きっと金太は自分だけ楽しんでるのよね・・・・・・」

 そう言って少女は現在進行形でストレス発散を行っているであろう金太を想像し、若干の苛立を覚え始めた。

「ボスを置いて自分だけ楽しむだなんて、後でお仕置きね・・・・・・・・」

 こうして金太は自分の知らぬところで本日も少女によって貫かれる運命が確定した訳である。

 そんな危ない事を考えていた少女だが、不意に胸ポケットに入れていたスマホが鳴り始めた。

「・・・・誰かしら?」

 金太をどのような目に合わせてやろうかと妄想を膨らませていたのを妨害され、少女は不機嫌そうにスマホをとる。

 その画面には南部恭介と名前が浮かんでいた。

「・・・・・・・・何かしら南部?」

 少女は不機嫌そうに尋ねる。だが南部は何時もと変わらぬ様子で話しかけてくるのだった。

「ああ、姉御定期連絡すよ定期連絡。言われたとおりに兄貴と別行動で町の探索してて、今は偶然高校のすぐ傍の喫茶店にいるんでそっちはどうかなと思って電話しました」

 と、飲み物を飲み込む音がする。どうやら南部は相当くつろいでいるようである。

「・・・・・特に変わりないわ。面白い事も起きたけど今は見えていないし、ヒーローも発見できていないわ」

 そう言った少女が握ったフェンスが飴のように歪んでしまう。今の南部の言葉は退屈して苛立っている少女にとって火に油を注ぐようなものである。

「そうですか。もしもヒーローが見つかったならば直ぐに連絡下さいね。俺も南部さんも直ぐに向かいますから。絶対に一人で挑まないでくださいよ!?」

 だが南部はその事に気付かずに態度を変えずに話を続けていく。

 南部は本心から心配しているのだと少女には分かった。

 そしてそれを嬉しくも思うのだが、自分よりも戦闘力の低い南部に心配されるのは少し屈辱的である。

「その言葉は私より強くなって言ってほしいわね」

「グフッ・・・・・・・・・」 

 少女の言葉が南部に突き刺さった。

 だが少女は手を休めずに追撃を繰り出していく。

「第一23歳の男が18歳のJKに負けるだなんて恥ずかしくないのかしら?」

 少女の言葉はいつもと変わらず平坦である。だがそれ故に鋭利でもありどんどんと南部の心を削っていくのだった。

「てか姉御は学年的にはJKじゃな・・・・・「後でお仕置きね」すいません姉御!」

 南部は自分のスマホに向けて土下座していた。

 店内にいた他の人間にはかなり奇妙な目で見られているが、本人はその事に気づかぬほどに慌てているようである。

「まあいいわ、とりあえず切るわよ。・・・・来てほしくない客も来たみたいだしね」

「・・・・分かりました姉御」

 さすがに悟った南部はそう言って電話を切った。






「あら先生怖い顔してどうしたのですか?」

 ワザとらしく作ったキャラクターで少女は尋ねる。

 目の前には3人の教師が立っており全員が全員とも怖い顔をしていた。

「見つけたぞ南方! 全く初日からサボりなどとんでもない問題児だな!」

 そう言うのは一番年上であり、丸々と太った腹をした教師である。少女にとっては見るだけで殺意がわいてくるほどの生理的に受け付けない相手だ。

「ごめんなさい先生。だって先生の授業つまらないんですもの」

 と言って少女は笑った。午前中にも太った教師の授業を受けていたのだが、あまりの退屈さに殺意すら湧いてきていたのは事実である。

 だがそれを聞いて今度は別の教師が言葉をあげた。

「あなた教師に向かってその態度は何よ!? というかここは立ち入り禁止って書いてるでしょどうやって入ったのよ?」

 その教師は若く気の強そうな外見をしている。だが容姿は決して褒められたものではなく、正直に言えば見ていて気味が悪いレベルである。

「喋らないでくれます先生? あととっとと視界から消えて下さいまし、先生の醜い顔を見てるだけで吐き気がしてしまいますわ」

「何を!?」

 言われた教師は顔を真っ赤にして少女へと掴みかかっていった。

「おいちょっと落ち着け!」

「高々学生の挑発ですよ」 

 太った教師ともう一人さえない中年オヤジの教師の制止を無視して、残念な容姿の教師は少女へと掴みかかっていく。

 だがそんな彼女の視界から、標的である筈の少女が消えた。

「いない!?」

「ここですわ」

 背中から羽を生やした処女は残念な教師のすぐ後ろに高速移動を利用して移動していた。

 そして彼女に向けてムチムチの太股を用いた蹴りを放つのである。

「ガハッ・・・・・・・」

 人外の力で蹴られた教師は向こう側のフェンスへとぶつかって気を失うのだった。

 すかさずそこに少女が吐きだしたスズメバチが飛んでいき毒を撃ち込む。これで彼女もまた少女の人形である。

「ああ、そんな、南方・・・・・・」

 太った教師は恐怖で腰を抜かして怯えている。

「ひい! 止めてくれ! 私は関係ない!」

 隣にいる中年教師も同じである。

 だがそんな言葉など少女は一切聞く耳を持ってはいなかった。

「そうですね。貴方達は私にとってどうでもいい人間、関係はありませんわ」

 それを聞いた二人の教師の顔がゆるむ。どうやら助かると思ったようである。

「関係が無い人間がどうなっても知った事じゃないですわ」

 その言葉に二人の教師の顔が凍りついた。

 と同時にどこからともなく飛来してきたスズメバチが二人の首筋に止まって毒を撃ち込み、意識を奪ってしまうのだった。

「はいお終い。つまらないわね」

 少女はキャラクターを演じる事を止めた。そして屋上に設置された階段を見て叫ぶのである。

「出てきなさい覗き見は趣味悪いわよ!」

 少女の右腕が針に変わる。そしてそれは砲弾様に射出され、屋上に隣接した階段の扉を粉砕した。

 いや、扉は粉砕出来ているがその中にいた何かは粉砕出来ていない。

 何かは盾の様なものを持って少女の針を防いだのだ。

「当たり、みたいね・・・・・・・」

 言って少女は飛んだ。直後に少女が立っていた場所に矢が突き刺さる。そしてとんだ少女に一直線で飛来してくる物体があった。

「イリーガル、覚悟!」

 眼鏡をかけた知的なイケメン、赤川である。彼は手にした日本刀を持って少女へと切りかかった。

 だがそれをまともに相手する少女ではない。

「勝手に遊んでなさい」

 少女は羽を羽ばたかせ上昇する。当然だが赤川の攻撃は虚しく空を切り、それによって赤川は体勢を崩した。

 それを逃さずに少女は急降下、赤川の腹部にするどい蹴りを見舞った。

「はい先ずは一人ね」

 赤川は屋上の床にめり込むほどの攻撃を受けていた。人間ならば命すら危ういダメージを受けているだろうが、少女は特に気にしていない。相手を殺す主義は無いが、やむを得ない場合は別だからだ。

「か弱い女の子に5人がかりだなんて、恥ずかしくないの?」

 具体的には人より外れた力を持った存在が、5人がかりで襲ってきた時などだ。

 そのうちの何人か、赤川を含めた3人には見覚えがった。

「猿女さんに、金太に瞬殺された雑魚1、恐怖に動けなくなった雑魚2はつぶしたわよ。そこにいるのも雑魚3と4かしら?」

 軽口をたたきつつ少女は内心焦っていた。普通の人間が少女の攻撃を防ぐことなど出来ない筈だから。出来るとすれば明らかな人外である。

 この状況で少女に襲いかかってくる人外の力を持った存在など、一つしか思い当たらない。

「猿女じゃないわ! 青風由美よ!」

 顔を赤くして叫んだ青風は手に装飾過多な弓を持ち、背には矢を背負っている。

「雑魚じゃなくて二藤部伸治だ! てか、あれ見てたのかよ!」

 二藤部は手に長い槍、2メートル近くにも及ぶそれを持っており振り回している。

「赤川の話を聞いてから疑っていたが、やはりお前も有田と同じイリーガルなんだな」

 雑魚3と呼ばれた少年は静で落ち着いた様子でそう言った。

 彼は身長180センチを超す長身であり、手には巨大な盾を持っている。恐らく少女の攻撃を防いだのは彼であろう。

「有田君には悪いけど、ここで倒させてもらいます!」

 最後の一人、雑魚4と呼ばれた気の弱そうな少女は気が弱いながらも覚悟を決めた表情で銃を抜く。その銃口は確かに少女に向けられていた。

 これらの武器を普通の高校生が持っている訳が無い。という事は答えは一つである。

「ヒーローから出てきてくれるなんて、手間が省けたわ」

 4対1、状況は最悪である。

「面白くなってきたじゃない! 全員叩きつぶしてあげるわ!」

 少女は床を踏み砕くほど強く踏み締め、姿をビークイーンへと変えるのだった。









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