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「・・・・・・頭が、痛い」

 これまでの人生で最も衝撃的だったホームルームを終えた後、一時間目から四時間目も終えた金太は酷い眩暈を感じていた。

 先ほどから授業中だというのに関わらず、クラスのほぼ全生徒の視線が金太と少女の二人に向けられており、金太には憎しみの視線ばかりが向けられていたのだ。化け物となった身ではあるが、まだ心は人間とそんなに変わっていないと思っているので中々こたえるのである。

 更にだが授業中に金太のすぐ傍で動く魅力的な少女の肢体も目に毒であった。

「あら? どうしたの金太? 頭痛なら膝枕で看病してあげるわよ?」 

 ほぼ全ての元凶である少女は一切悪びれることなくムッチリとした太股を覗かせ、金太を誘惑してくる。

 無論金太にはおふざけであると分かるのだが、他の生徒たちはそれが分からないので金太への殺気をさらに強める事となるのだった。

 恐るべきことにこの少女は、僅か四時間の間に全てのクラスメートと授業を行った教師、噂を聞きつけてやってきた野次馬までを魅了してしまっているのだ。

 それは少女が虫の怪人ゆえに発するフェロモンが原因かもしれない。だがそれ以上に少女そのものが持っている美しさに由来するものであり、少女は自分の美しさをよく理解している。何気ない動作で見る人間をドキッとさせる方法をこれ以上ないほどに心得ているのだ。

 そうやって少女が一挙一動を行うたびにクラスの時間が止まったようになり、教師までも間抜けな顔で少女を見る事がこれ以上ないほどに滑稽で面白かった。

 少女はふざけているのだが金太との約束を守っているのだ。この四時間の間でそれは理解が出来た。故に今は金太も少女のおふざけに乗る事にする。

「はい、そうなんですよね。誰かさんのせいで凄く頭が痛いんです。お言葉に甘えて膝枕をお願いします」

 誰かさんの部分を強調しながら金太は少女へと倒れ込んでいく。

 膝枕をされる事によって向けられるさっきよりも、得られる少女の太股の快感の方に天秤が揺れるのは当然だからだ。

「もう、ちょっと落ち着いてよね」

 言いながらも少女は自分よりも10センチ近く背が高い金太を片手で支えると、椅子に腰かけている太股の上に金太の頭を置き、隣にある金太の椅子に金太の足を乗せた。

 あっという間に行われる膝枕だが、少女が行うとこれ以上ないほどに完璧なものに見え、見ている誰もが奥歯を噛み締める事となった。

「ふふふ、これで二回目よね金太。気持ちいいかしら?」

「最高です!」

 即答した。と同時にクラスメイト達から向けられてくる嫉妬の目線が心地よくもなった。

 彼らはどれだけ望んでも少女に膝枕をしてもらえないし、少女の本来の姿も知らない。だが自分は膝枕をして貰えるし、少女の本当の姿も知っている。なおかつ自分の本来の姿を知っているのも少女のみである。

 そんな通常よりも一歩進んだ深い関係に自分と少女はあるという事を、膝枕という普通ならば教室の中で堂々と行われる筈のない行為を行う事によって理解が出来たのだ。

 それさえ理解できれば後は気楽である。既に金太はクラスメイト達とは違う価値観の上に立つ事が出来ているのだから。

「ちょっと二人とも、ここは学校なんだけど? そういうのはやめてくれないかしら?」

 見かねた女子が二人に文句を言ってくる。見るからに真面目そうな、だが同時にきつそうな性格をしている女子であり、正直に言えば金太は彼女が苦手だった。

「あら? 何か問題でも?」

 白々しくだが上品に少女はそう言ってのける。

 金太は笑いをこらえるのに必死だった。

「問題って、それ自体が問題なのよ! ここは学校なのよ、膝枕なんてされたら気が散って勉強に集中できないじゃない!」

 酷い暴論であると金太は思った。今は授業中ではなく休み時間である。勉強とは関係が無い筈だ。

 だがこういった部類の女子が一度話しだせば止まらない事はよく知っているので無視することにした。

 それは少女も同様である。

「そうだ金太、お弁当を食べない? 今日は私の手作りだし、あーんしてあげるわよ」

「第一ね、ちょっとかわいいからって転校してきて早々調子に乗りすぎなのも気に入らないわ!」

「まじですか!? ぜひお願いします!」

「有田君も有田君よ! 学校を無断欠席したと思ったら何!? 婚約者ですって!? 学生としての自覚があるのかしら!?」

「何なら口移しにしてあげるわよ?」

「・・・・・・・えっ、それはさすがに・・・・・」

「貴方達には常識が無いのかしら!? きっとクラスの全員が同じ事を思っているし、迷惑してる筈よ!」

「冗談よ。金太はやっぱり童貞ね」

「童貞の何が悪いんですか!? ほっといてください!」

 傍で喚き散らす女子を完璧に無視しながら、金太と少女は二人だけで会話を続けている。

 無視されている女子はどんどんと顔を赤くして声を大きくしているのだが、それでも二人は無視を貫いている。

「いい加減にし無さい! 人の話聞いてるの!?」

「聞いていますわよ。でも興味が無いから反応しないだけですの」

「というかえっと、名前は忘れたけどあんたもたいがいうるさくて迷惑だと思うよ」

「なっ!」

 激昂して叫んだというのに帰ってくるのはそっけなく、適当な回答。あまつさえクラスメイトである筈の金太には名前すら覚えられていないのだから、気が強い女子は絶句してしまう。

 いい加減ウザったく感じていた金太は心底いじらしい目でそんな彼女を見ながら、更なる追い打ちをかけた。

「ギャンギャンと犬が煩いですから行きませんか紀美子?」

「そうね。動物園みたいだわ」

 犬、動物園。これまでにされた事が無い屈辱的な呼び方に気が強い女子の顔がトマトの様に赤く染まる。それは照れているのではなく、怒っているから赤くなっているのだ。

 金太の目から見ても気の強い女子は美人であり、自分の容姿に自信を持っているであろうことも分かる。だがそんな彼女も少女の前では月とすっぽん、比べる価値すらないのである。

 少女と金太はワザとらしく手をつなぎ、見せ付けるようにして教室を後にした。

「・・・・・・・許さない、絶対に許さない!」

 クラスにおけるほぼ全ての生徒が思っていた事を口にしながら、気の強い女子はそう言っていた。







 場所は変わって屋上。アニメや漫画などではよく公開されており、休み時間に生徒たちがやってきて弁当を食べるお約束の場所であるが、現実の世界ではそうはいかない。

 大抵の場合は安全上の理由から施錠を施されており、その学校で暮らす学生たちは一度も立ち入る事すら出来ずに三年間を過ごしていくのである。

 そんな場所にて金太と少女は呑気に弁当を広げていた。

「ボス・・・・、鍵壊して入りましたけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ問題ないわ。煩い奴は黙らせればいいんだし。それよりほら食べましょう」

 二人は既に何時もどおりの喋り方に戻っている。金太は少女を名前ではなくボスと呼び、少女は演技が勝手は無い素の顔と声をしているのだ。

 弁当を食べる事を優先したのか、教室でしたような膝枕ではなく、二人は弁当を前にして胡坐をかいて座っている。

「美味しそうですねボス。本当に手作りですか?」

 予想以上の完成度である少女の弁当を見て、金太はそう聞かずにはいられなかった。

 昨日のオヤジさながらの少女の姿から、目の前にある完成度の高い弁当には結びつかないからだ。

「疑ってるの? ボスを疑うなんて部下失格よ」

 言いつつも特に怒った訳ではない少女は、適当な卵焼きを摘まんで金太の口に押し込んだ。素手でである。

「ムグッ! 美味い・・・・・」

 強引な押し込みに若干驚きつつも、感じた味覚は美味であった。確かに印辺には敵わないがそれでも並み以上、具体的に言えば金太の母よりは美味い料理である。

 気が付けば金太は喰らいつく様に少女の弁当を食べ終えてしまっていた。

「御馳走様でした。美味しかったです」

 静かに箸を置き手を合わせる。化け物になってから様々なものを喰らってきたので、一層食べるという行為に神聖さや特別さを感じてしまう。

 少女はうっとりとそんな金太を見つめていた。

 ・・・・・金太よりも早く自分の分の弁当を食べ終えていた事には触れないでおこう。

「えっとボス? どうかしました?」

「・・・・やっぱり、秘密の隠し味が効いたのね」

 秘密の隠し味。ふと金太はそれを聞き嫌な予感が走る。

 だが聞かなければ分からないので聞く事にする。

「まさかとは思いますけど、人体に有毒なものは入れてませんよね?」

「入れたわよ」

 さらりと少女は答える。教室での演技が消えた平坦な表情と声が金太にはかえって恐ろしく聞こえる。

 顔が蒼くなる金太を見て少女は顔を僅かに歪めながら説明をする。

「大丈夫。あくまで人体に有害なだけで怪人には有害ではないから」

 非常に人の常識から外れた倫理である。

「いや、それでもですよ! もしも万が一クラスの連中が食べてたらどうするんですか!?」

 金太は別にクラスメイト達の事など欠片も心配してはいないが、一番口実に使いやすいので使った。

「大丈夫よ。少し言い間違えたけど、この毒はあくまで人間の精神を犯して人形にする毒だから。人体には、影響が無いわ」

 要はこれまで少女が使ってきた毒である。人体には影響は無い。しかし人心に影響があるのがみそである。

 ふと金太は考えて納得した。

「なるほど。もしも人間が食べても僕たちに損は無いですね」

「でしょ? 心を犯すからばれる事は無いし、人体に影響が出るわけでもない。一方的に私たちが得をするだけ。それって最高じゃない」

「ですね」

 何気ない会話ではあるが。その中にも二人の異常さが現れていた。

 あくまで怪人に影響が出ず、自分たちに損が無いだけで心を犯される人間からすればたまったものではない筈なのに、それを悪い事だなどと全く思っていないのである。

「唐突だけど今後の計画を話すわね」

「本当に唐突ですね。まあお願いします」

 神妙な顔つきになった少女を見て、金太も真面目な話なのだと悟った。

 そして胡坐を正座に直して耳を傾ける。

「まずこの高校に潜入した第一目標はヒーローを探す事よ。いなければもうこの高校に用は無いし、いたのなら私の毒で操ればいい。とりあえず情報を集める事が重要ね」

「・・・・・・どうやって集めます? 僕はその、かなり情報には疎いですよ」

「分かってるわよ」

 分かりきった事だという態度の少女に、金太は僅かながら傷ついてしまった。

「情報を集めるのは此方から動くだけが手段じゃないわ。向こうから動くのを待つのも手段よ」

 向こうから動くのを待つ。その言葉を聞いた時、金太の中で歯車が噛み合うのを感じた。

「・・・・・・・・なるほど。突然現れた美しき転校生。生徒のみならず教師まで魅了してしまう美しさを持っている。なのに僕なんかの婚約者。絶対に話題になりますね」

「金太って馬鹿なのか賢いのか判断に困るわね」

 今の少女の言葉を金太は肯定と受け取った。

 頭の回転は速いのに、抜けている所が目立って馬鹿に見えてしまう。だがやはり頭の回転は速い。馬鹿なのか賢いのか分からないというのは、金太に下される事が多い評価である。

「はっはっは。よく言われますよ。でもボスは賢いですよね?」

「勿論よ。ヒーローとしての姿を目撃されちゃうような目立ちたがり屋が、もしも高校にいたのなら謎の美女転校生の噂に食いついてこない訳ないじゃない」

「食いついてきたやつらはどうしますか?」

 分かりきってはいるが一応聞いてみる。まさかとは思うが全員叩きつぶすなどではないだろう。

「そのための手段を今日のお弁当に入れてきたのよ」

「・・・・・・・なる程」

 再び金太は理解した。

 少女は自分の美貌を利用してよって来た連中の全てに、自分の毒を入れた料理を食わせるつもりなのだ。ヒーローはあくまで強化服を着ただけの人間なので、操る事が可能である。

 もしもヒーローが来なければ意味は無いが、必要以上の労力を使う必要も無く、怪人としての姿をさらす必要もない。中々に合理的な作戦だと言えるだろう。

 だが金太はある事に気づいてしまった。そして言わなければ良いのに言ってしまうのである。

「てかこれって一昨日のヒーローのパクリじゃないですか?」

「パクリじゃないわ。リメイクよ。私はあのヒーローよりも強いもの」

 即答した少女の手は針に変わっていた。どうやら自分の倒した相手にたとえられた事が、よほど気に食わなかったようである。

「・・・・・はいそうですね」

 金太は大人しく引き下がる事にした。

「言っておくけど、これは作戦の第一段階でしかないわ。この学校の生徒と教師、全員がヒーローである事の容疑者だもの。全員に私の毒を飲ませないとね」

「・・・・・どうしますか?」

 金太は神妙な表情で尋ねる。多くの人間を狙うという事は、それだけ不測の事態が起きる確率が高くなるという事である。全校生徒を標的にする事に抵抗は無いが、リスクの大きさには抵抗を感じずにはいられないのだ。

「簡単な話しよ。学食に潜入して料理にこれを混ぜなさい」

 と言って少女は胸の谷間からビンに入ったどす黒い液体を取り出す。

 その光景に視線を奪われながらも金太は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

「・・・・・ボス、最早やってる事がテロリストですよ」

「心外ね。人間のテロリストだなんて、悪の組織の戦闘員Aにも使えないような雑魚と同じにしないでくれるかしら。私たちはだれ一人殺さずに目的を達成する。殺すことしかできない人間のテロリストとは格が違うわ」

「はっはっは! それもそうでしたね。OK分かりました僕が入れてきますよ」

 少女の言葉に感銘を受けた金太は愉快そうに笑うと、少女の手の中に合ったビンをとり下の階を目指して歩き出すのだった。





「で、どうしてこうなる訳?」

 やれやれと首を振り中庭に立つ金太の周りを複数の男子達が取り囲んでいた。別に彼らに金太が何をしたという訳ではない。美しい転校生の噂を聞きつけた野次馬が、一緒に流れている金太の婚約者だという噂を聞いて、学食に向かっていた金太に押し寄せてきたのだ。

 皆金太からすれば僅かに知っている程度か全く知らない顔ばかりだが、他と比べれば目立っている二人の男子生徒には見覚えがあった。

「えっと確か、二年A組の赤川優斗に、同じくA組の二藤部伸治だよね? 君たちがこの馬鹿どものリーダー?」

 わざと相手を馬鹿にするような口調で金太は尋ねる。

 自分の中でイライラした感情が高まっている事を金太は感じていた。噂を流す相手もそれを聞いて自分に嫉妬する相手にもイライラしているのだ。

「光栄だね。僕たちの名前を知ってくれてるだなんてね」

 眼鏡をかけた理知的なイケメン男子生徒、赤川優斗は落ち着いたしかし確かな怒りを持った態度で金太に対応する。

「まあね。A組のイケメン二人組、成績学年一位の赤川とスポーツ万能で部活の助っ人御用達の二藤部は校内でも有名だよ。色々とね」

 金太は忌々しげに言った。以前より自分とは打って変わって完璧なリア充学生生活を行っている二人に、金太は言いようのない忌々しさを感じていたのだ。

「それでだけど噂の有名人二人が、僕なんかに何の用?  まさかとは思うけど可愛い婚約者がいる僕に嫉妬したとか?」

 心底馬鹿にした態度を金太は取り続けている。元々嫌っていた相手にそれも自分よりも格下の人間に敵意を向けられているのだから、イライラして相手を挑発せずにはいられないのだ。

「うっせえよ! 俺らは別にお前の婚約者になんて興味は無い! だが俺たちの仲間を傷つけた事は許さない! 謝って貰うぞ!」 

 もう一人のイケメン男子生徒。こちらは理知的な赤川とは打って変わって、スポーツマン的な活発的なイケメンの二藤部伸治。彼は怒りを隠そうともせず金太に掴みかかっていく。

 だがそんな二藤部を赤川が遮った。

「駄目だよ伸治。ここで掴みかかったら最悪リンチになる。やるならば一対一、タイマンだ」

 そう言って赤川は振り向き、自分たちの後ろで群がっている男子達に向けて叫んだ。

「いいかい君たち、これからこの二藤部伸治が有田金太と決闘する! 君たちは手を出さないでほしい! 分かったかい!?」

 声を張り上げて叫ぶ赤川。その理知的なイメージとは異なる行動に、その場にいた一同は頷くしかなかった。

「へへ、ありがとうな優斗。おかげで躊躇うことなくこの屑をぶん殴れるぜ」

「・・・・・・・・話が見えないんだけど。僕君たちに何かしたかな?」

 まるで話が見えてこない。金太はこれまでこの二人とかかわる事は無かった。故に喧嘩を売られる覚えなどまるでないのである。

 非常に理不尽だと金太は思った。

「青風由美君のクラスメイトだけど知らないのかい?」

 眼鏡を指で押しながら、赤川が尋ねる。

「誰?」

 金太は頭を捻って考えるが何処からも青風由美などという名前は出てこない。そもそも金太はどのような形であれ、自分が興味を持った相手しか名前を覚えはしない。高校に入ってからはクラスメイトにすら興味を持っていなかったので、仮にその青風由美がクラスメイトでも分からないのである。

「由美はなあ、俺たちの仲間なんだよ! お前はさっき由美を罵倒し散々コケにしたらしいじゃないか、だからぶん殴る! それだけだ!」

「ああ、なる程。わかったよ」

 ようやく合点がいった。二人の言う青風由美とは先ほど金太と少女に絡んできた気の強そうな女子であり、金太たちに馬鹿にされた事が気に障った彼女が自分の親友二人に言いつけたのである。

 漸く理解は出来た。だが納得はいかない事がある。

「小さいね~、本当に小さい」

「何がだよ!?」

「あの煩い貧乳犬動物園女の事さ。自分じゃ何も出来ないから、親友に言いつけてどうにかしてもらうだなんて、小物すぎるよ。胸も人間的にもね」

 金太は笑う。確かに金太自身も小さい人間である事は自覚しているが、自分自身の事は先ず自分でどうにかしようとしてきた。人に頼るのはその後である。

 むしろ頼れる人がいなかったからそうなった事には触れないでおこう。

 だからこそ金太は気の強そうな女子の事を散々に馬鹿にし、あまつさえ人間性と胸の二つを掛け合わせて小さいと言ったのである。

「テメー、確かに由美の胸は小さいけどな、すごくかわいいんだよ!」

「伸治、今の発言は変態だよ」

「ウルセー! もう我慢できねえ、この屑は俺がぶん殴って由美に謝らせる!」

 たび重なる金太の侮辱の言葉に我慢の限界を迎えた二藤部は、赤川の制止を振り切って金太へと飛びかかっていった。

「行け、二藤部! 有田をやっちまえ!」

「運動神経抜群の二藤部なら、帰宅部の有田なんて瞬殺だな!」

「俺たちの言いようがない黒い思いを晴らしてくれ!」

「イケメンは敵だが今だけは味方だぞ!」

 取り囲んでいる男子達は口々に二藤部へとエールを送り、同時に金太への罵倒も発している。

 どうやら動機はどうであれ、金太を倒すという目的においては彼らは合致しているようだ。

「吹き飛べや!」

 そう思った金太へと二藤部の拳が襲いかかる。

「・・・・・・・・・・」

 金太は無言でそれを受けた。

 ドスッという肉が肉を打つ鈍い音が響くと同時に場の空気が固まり静かになる。

「お前・・・・・!」

「弱いね。君凄く弱いよ」

 だがそれ以上は何も起きなかった。化け物となった今の金太からすれば、多少腕が立つ程度の人間の男子高校生の攻撃など、蚊が止まったのと同じようなものである。

「はいお終い」

 逆に人間の男子高校生からすれば軽く触れる程度の金太の攻撃でも、致命傷となりうる。

 唖然として佇んでいた二藤部を金太は軽く付いた。

「え・・・・・・・・?」

 惚けた声と同時に二藤部は吹き飛ぶ。現実世界ではありえないような飛び方で、中庭の端にある学食の壁へと激突した。

「あ~あ、つまんないや。強くなりすぎたのかな?」

 時間が止まったかのように動く物がなくなった中庭を後に、金太は学食を目指して歩いて行くのだった。





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