第2章 悪の組織と正義の味方 21
「有田金太16歳彼女いない歴=年齢です。突然ですが朝起きたら我が家がカオスです」
目を覚ました金太は目の前に広がる光景を前に、無意識のうちにそう口走ってしまった。
「あら金太、起きたの? ご飯でも食べない?」
リビングの中央の机と椅子に腰かけた少女は、手にした茶碗を掲げながら金太を誘う。記憶している限りではその茶碗は、よほどの事が無いと使わない筈の高級な茶碗である。
それだけならばまだ問題が無いのだが、少女は昔金太が着ていたと記憶しているジャージを、何処からか持ち出し身につけているのだ。
さらに耳にはラジオに繋がれたイヤホンをしており、空いた手には赤鉛筆を持っている。おまけに何処から持ち出したのか競馬新聞まで机の上に広げている始末だ。
金太には少女の姿が漫画などで描かれているオヤジのそれとダブって見えた。
「オヤジ臭いですよボス」
とくに考えることなく思った事をそのまま口走ってしまう金太。
「そうかしら? でもそんな格好でリビングでごろ寝している貴方は浮浪者だと思うけど?」
「うっ、それは・・・・」
指摘され気付いた金太は言葉を詰まらせる。金太の今の恰好は昨日の夕方から変わっていない。つまり警察官たちから奪ったYシャツに大穴が空き、ボロボロのジャージを履いている状態なのだ。
そのままの恰好で公園や河川敷の隅にいても違和感なく溶け込めるだろう。
「感謝しなさい。ボロボロになって倒壊寸前だった貴方の部屋からここまで、金太を運んできてあげたのは私なんだから」
「・・・・・・・ありがとうございます」
とりあえず気を使ってくれていた少女に礼を言い、勧められるままに金太は少女の隣に置かれている椅子に腰かける。
「あの~、僕の分の料理は?」
「直ぐに持ってくるわよ」
少女はキッチンがある方向を指さした。
「は~・・・・」
とりあえず金太は指さされた方向を見てみる事にする。
「メニューはサケの塩焼きと赤だしの味噌汁、白米に切干大根、適等にあった食材で作ったものだ」
と言ってキッチンから姿をのぞかせる印辺は、その厳つい外見にサイズと外観の二つの意味で似合っていないエプロンを身に纏っている。
それを見た金太はあまりのギャップに思わず腰を抜かしそうになってしまった。
「いっ、印辺さんそれ・・・」
「ああ、適等に置いてあったのを借りているぞ。料理人にとってのキッチンは戦場であり、戦場に立つには相応しい鎧が必要だからな」
と言って印辺は自慢げに胸を張る。しかしそれによって極限まで引き延ばされたエプロンに描かれているハートが引き延ばされ、さらなる違和感を金太は感じた。
「・・・・・・・・・なんか、凄まじい」
衝撃的なものを見てボーっとしている金太を余所に、印辺は次々と料理を机の上に置いていく。
その料理から漂う旨味を多分に含んだ香りに、金太は唾を飲み込んだ。
「良いにおい」
「ははは。遠慮するな、どうせお前の家の食材だからな」
金太の反応に好感を覚えた印辺は、最後に大盛りに持ったご飯を置くと自分も席に座った。
「いただきます」
巨大で厳つい手を綺麗に合わせてから一言、印辺は箸をとり自分の前に置かれた料理を食べ始める。
「うんまずまずだな。塩加減を変えてみるか?」
一口サケを口に入れた途端から、印辺は自分自身の世界へと入り込んでしまっていた。
ブツブツと料理についての感想を述べながら、黙々と食べ続けている。正直その姿に金太は不気味さを感じて中々箸に手を付けられない。
「・・・・・・あの、ボス。印辺さんっていつもこうなんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
上司である少女に相談するのだが少女は無言。ただひたすら耳に繋がれたイヤホンに聞き入っている。
「えっと、ボス。大丈夫ですか?」
不審に思った金太は肩に手を掛けて揺すってみるのだが反応はしない。
「・・・・・・・・・・・・・許せない」
ふと、一言少女は呟いた。だがその一言に込められた憎しみの深さを感じ取り、金太は恐怖する。
「え? ボス、どうしたんですか」
「ふざけんなぁぁアアアア!!!!」
恐る恐ると尋ねた金太を無視して、少女は叫ぶ。その言葉には怒りを通り越し殺意が籠っている。
そしてその殺意はちゃぶ台返しという具体的な形で金太を襲った。
「ああ、せっかくのご飯が・・・・・」
「どういうことよせっかく全て上手くいっていたのに! 十メートル手前で落馬ってなによ! プロなんだからそんなコントみたいなことしてんじゃないわよ!」
荒れ狂う少女は激しい勢いで地団駄を踏み、全身をもだえさせ怒りを放出している。
少女の魅力的な体も荒れ狂い、非常に素晴らしい光景なのだが床がミシミシと言い始めているのでシャレにはならないだろう。
「ちょ、ボス、落ち着いて下さい」
荒れ狂うことで激しく乱れる少女の体を凝視しつつも、必死に金太は止めようとするが少女は聞かない。それどころか横になり床を転げまわる始末である。
少女が転げまわる過程で様々なものが巻き込まれ、被害を受けていく。家の持主たる金太からすればたまったものではない。
「印辺さんは・・・・っていないよおい!」
印辺に助けを求めようとするが既にキッチンの奥に逃げ込んでおり、後も形もなかった。
「ああ、もう! こうなった日本各地の競馬場をすべて制圧してやる! そして私が望むままの結果が出るようにコントロールして大金を奪い尽くしてやる!」
暴れるという段階を通り越した少女は物騒なことを叫び始めていた。その様はいつもの落ち着いた少女からは想像もつかないほどに荒れている。
確固たる確信はないのだが、金太にはその言葉が冗談のようには聞こえない。
「とりあえず、逃げようかな?」
しばしの考慮の後、金太が至った結論は逃亡だった。匍匐前進のような体制をとると、凄まじい速さでリビングの出口を目指して進んでいく。
「ただいまって、ボス! どうしたんですか!?」
金太がリビングと廊下の境にたどりついたその時に、現れたのは南部だった。
彼は非常に愉快そうに顔を歪め両手には彼の半身以上に高い様々な食料が積まれていた。
南部は逃げ出そうとしている金太と、危ないことを呟いている少女を見て全てを悟ったようである。
「ああ~、姉御? 獲物を捕ってきましたよ。機嫌を直してくれませんか?」
差し出されたものがパチンコの景品であると金太はすぐに分かった。そしてどの様にしてそれほどまでに多くの景品を手にしたのかもだいたい想像がつく。
「あら南部よくやったじゃない! やっぱり貴方も私と同じ能力が使えるだけのことはあるわね。貴方に任せて正解だったわ!」
すぐさま少女の機嫌は良くなっていた。妖艶かつハイテンションな少女の言葉を聞き、金太は南部が何をしたのかについての予想を確信に変えた。
「南部さんあんたまさか・・・・」
「ああ。俺の能力でスタッフを洗脳してな、台の調節を弄ったんだ。おかげで面白いほど当たったぜ!」
「やっぱり」
自慢げに言ってのける南部に金太は関心半分呆れ半分である。
南部もまた少女と同じく人間を操る事が可能だとは知っているが、そんなに凄い能力を使うにしてはしていることがショボく、しかし逆に現実的な使い方を羨んでいるのだ。
「戦利品はそれだけかしら?」
尋ねる少女は既に南部が持ってきた景品の中から目ぼしいものを見つけ出し、胸の谷間に納めていた。
「・・・・・うわ・・・・・」
金太はその光景に見入ってしまう。
「いやいや、金の方もほら」
と言って誇らしげに見せる南部の財布には、10人以上の福沢諭吉の姿が確認できる。
それを確認した金太はますます南部の能力が羨ましくなった。
「良いな~。南部さんの能力、かなり便利ですね」
「だろ? 何をしでかしても簡単に後片付けが出来るしな」
「昨日の夜に貴方が暴れた時も、私と南部で後片付けをしたから貴方は平穏に眠っていられたのよ」
「ああ、なる程。ありがとうございます」
感じていた疑問に合点がいった金太は、素直に頭を下げて感謝を口にした。
冷静に考えれば昨日の夜には相当な破壊音がしたはずであるし、南部と印辺が家の壁を破壊した事で外から見ても分かる破壊痕も出来た筈だ。
だというのにこうして平穏にだらけられている事も、南部と少女の人間を操る能力があれば全て説明が付くのである。
「そう言えば気になってたんですけど、父さんと母さんはどうなったんですか?」
感じていた疑問が解決した事で頭が目覚め回転を始めた金太は、さらなる疑問を見つけ出し尋ねる事にした。
父と母が少女によって洗脳されたところまでは覚えているが、そこから先は意識が無いのである。
目が覚めた時には既に二人の姿は無く、目の前で繰り広げられるカオスな光景に意識を持って行かれていたので今の今まで尋ねる事が出来なかったのだ。
「父は会社に働きに、母は俺たちの生活に必要なものを買いに買い物にだ」
ぬっとキッチンの奥から現れた印辺が金太の疑問に答える。
どうやら少女によって台無しにされた食事の代わりを作っていたのか、手にはお玉が握られている。
ハートのエプロンにお玉、少女がしていたのならば嬉しいが印辺がしていたのでは罰ゲームだと金太は思ってしまった。
「えっと、それって・・・・・」
「二人ともいつもと変わらない生活をしているってことよ」
言って少女は金太にウィンクをする。
金太は少女の気遣いに感謝を感じた。
「ありがとうございます」
「何のことかしら? 私は唯変に騒ぎを起こしたくないから、二人に何時も通りの行動をさせているだけよ」
といいつつ少女は感情が平坦な筈の顔を僅かに歪めている。どうやらドヤ顔の積りなのだろう、金太はそう思ったが口に出す事はしなかった。
「さてと、南部。上納金よ有り金半分よこしなさい」
しばしドヤ顔をしていた少女だが、急に南部の方を向くとそう言って手を伸ばす。稼ぎの半分を上納金として巻き上げる。中々厳しいが元手が殆ど掛かっていないため順当な額だろう。
「はいはい。どうぞっと」
南部は素直に福沢諭吉を六人取り出して少女に手渡そうとする。
だが札が手に触れる直前に、少女は差し出した手を針に変えた。
「有り金半分と言った筈よ。胸ポケットと袖の下と襟元のお金も渡しなさい」
「・・・・はい」
シュンとなって南部は言われるがままに隠していた金を取り出して少女に渡した。
今のやりとりを見ただけでパンドラの力関係と、金の事においては誤魔化しが聞かない事を理解できるだろう。
「ふふふ、毎度あり」
嬉しそうに口元を歪めた少女は再び胸の谷間を開いて10人の福沢諭吉を収納してしまった。
「やっぱりデカイ・・・・」
金太は再びその光景に見入っている。無意識のうちに感想を口走っている事に気づかずにだ。
「「「「聞こえているわよ(ぞ)」」」
「・・・・・・・すいません」
南部と印辺と少女、三人に指摘されて金太は下を向いた。
まだ化け物となって日が浅いために、怪人や化け物が人間を遥かに凌ぐ五感を持っていると頭が理解しきれていないのだ。
僅かでも迂闊な事を口走れば聞きとられて恥をかく事になるだろう。
「まあとりあえず、飯でもどうだ?」
印辺は金太の肩に手を置いてそう言った。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
金太、南部、印辺、そして少女。パンドラの怪人4人組は一同に食事を終えて箸を下ろした。
時刻は既に12時を回っており金太にとっては朝食と昼食が一緒になってしまった形である。今日は平日であり当然学校もある筈だが、今となっては殆ど気にも留めていなかった。
今の金太は目が覚めたばかりのボロボロだった服から着替えており、上半身は半袖のTシャツ下半身はジーパンといった普通の恰好をしている。はっきり言って4人の中では一番変哲のない外見をしているだろう。
「さてと、とりあえず今後について話しましょうか」
暫くの余韻の後少女は切り出していく。
少女の言葉をきっかけに南部も印辺もスイッチが切り替わったかのように、真面目な顔で姿勢を正すのだから大したものである。
「とりあえず競馬場襲撃はなしですよボス」
しかし昨日仲間になったばかりの金太はそうもいかない、空気を読まずにおふざけ半分の言葉を口にして全員から白い目を向けられてしまう。
「金太、空気を読みなさい」
「・・・・はい」
感情が籠っていない声で少女に注意され、金太はシュンとなってしまった。
そんな彼を若干引きつった目で見ながら少女は話を続ける。
「ミッションよ金太。明日から高校に通いなさい」
「ヴぇ?」
間抜けな声が聞こえる。
とてもではないが悪の組織とは思えないような普通の命令に、金太は拍子抜けしてしまったのだ。
「色々と考えたのだけどね、貴方の能力って破壊にしか使えないからお金もうけには使いにくいのよね」
「いや、だからって何で高校? 僕の能力だって使い方によっては金を稼げますよ」
「たとえば?」
考える暇も与えない少女の追撃。金太は口を噤んでしまう。
「たとえば・・・・・・」
「カツアゲは無しだぞ」
「銀行強盗もな」
瞬時に考え付いた意見を口にする前に、印辺と南部によって潰されてしまった。
金太は顔を青く染め必死に考え始める。
「僕の能力なら、鉄だって粉砕できるしどんな相手だって倒せる筈だ・・・・・」
優秀だと自負している頭を必死に回転させて自分の力を利用して金を稼ぐ方法を考えていく金太。しかし考え度も考えども、戦闘に関わることや破壊に関わることで相手を脅し、金を奪い取る方法しか思いつかない。それでは精々小遣い程度の金しか稼げないだろう。
そしてそうやって金を稼ぐことが出来たとしてもその後の始末を、少女や南部といった他のメンバーが行うのでは、とてもではないが掛けるコストと得られるリターンが釣り合わないことも理解できる。
「反論が出来ないのなら従ってもらうわよ。明日金太は高校に行って学びなさい。私たちはこの町の下調べに行ってくるから」
金太が完全に言葉を失ったことを確認した少女は、そう言って命令を下した。南部と印辺は特に反論するわけでもなく黙って頭を縦に振っている。
しかし金太はどうしても納得できなかった。
「何故ですかボス! 化け物になった僕はもう高校に行く意味はありません! だというのに僕を高校に通わせるのは僕が邪魔だからですか!? 足手まといだからです!?」
思わず粗ぶっている口調を隠そうともせず、金太は激昂して少女に尋ねかかる。
金太の目は血走っており今にも暴走寸前と見てとれるほどに危うくなっていた。
「まあまて有田。ボスがお前を高校に行かせるのはお前が足手まといだからじゃない」
そんな金太の肩に優しく手を置いて諭すように南部は話しかける。
「むしろお前に期待しているから高校に行かせるんだ」
印辺も同じように言葉を発した。
やはりというか以心伝心、この二人と少女は大体の考えを察しあえるのだろう。だがそれは金太にさらなる孤立感を与えるだけである。
「意味がわかりませんよ! 人間を遥かに凌ぐ化け物になったこの僕に高校という人間共の巣窟、ゴミだめみたいなつまらない場所に通わせるなんて! それって体のいい封じ込めじゃないですか!」
額に第3の目が現れ口が顎まで裂ける。金太は既に暴走しつつあるのだ。それほどまでに高校という場所に嫌悪感があり、行きたくない理由となる何かが有るのだが少女たちにはそれが分からない。
あえて少女たちは金太の理由を聞くのではなく、自分たちの理由を話すことにする。
「貴方は私たちの切り札なのよ。どんな相手にだって負けないだけの力を貴方は持っている」
「だがお前の力は強すぎるし、コントロールしきれていない。使うとすればここぞという時、必殺のタイミングでだろ?」
悔しいが南部の言うとおりだった。今の金太はまだ力を使いこなせていない。下手に騒ぎを大きくすることなど金田も望んでいなかった。
「だからこそお前には普通の高校生として過ごしてもらう。もしもヒーローが現れたとして、偶然怪人が迷い込んだ高校に、怪人よりも凄い化け物がいるなどと想像できると思うか?」
「・・・・・・確かに」
印辺の言葉には納得するしかなかった。少女も南部も印辺も、金太以上に金太の力を理解しており使い際をよく心得ているのだ。
今の印辺の言葉にはもしもヒーローが現れた際には、金太が通う高校に誘い込むからそこで金太がそのヒーローを倒せという意味が暗示されている。
それを聞いた金太は自分が役立たずでないと思い知ることが出来た。
「調べた限りでは金太が通っている高校は普通の進学校、そこでの成績も悪くないわね」
「羨ましいぜ。俺とボスは高校中退だし兄貴もFラン高校だしな」
南部は自嘲するように言うが少女も印辺も特に何も言わない。二人は南部が言うことを事実だと認めてしまっているのだ。
「高校はいい。多くの人間が集まるからその分優れた人間も多くいるはずなのだからな。例えばその、ヒーローとかな」
付け加えるように言った印辺の言葉、それを聞いた金太はなぜ少女が高校という場所に拘るのかを理解した。
「なるほど。敵は気付かれる前に潰すべしですか。偶然自分の近場にいる敵ならばなおさらですよね」
「ええそうね」
少女は笑う不敵にだ。
「手に入れた力に魅せられたのでしょうね。貴方が通っている高校の周辺で何か、人型だけど人にはできない動きをするものの目撃情報が、以前からこの町にいる人形たちから寄せられていたのよ」
「まあと言っても、俺たちパンドラの主な活動範囲は南の町。この町はテリトリーじゃないから手を出さなかったんだけどな」
いったいどれほどの人間たちを洗脳し、人形として町に放っているのか金太には想像も出来なかった。だが予想以上にパンドラというのが強大な組織である事は理解できる。
「だがしばらくはこの町が活動拠点になる。危険な眼は怪我をする前に刈り取るべきだろ?」
「はい。印辺さんの言うとおりです」
言った金太は素晴らしい笑顔を見せている。
化け物じみた顔のままで素晴らしく活き活きとした笑顔。金太は自分の力が評価されている事が嬉しいのだ。
「ヒーローがいるかも知れない。それだけで探りを入れるには十分な理由よ。だからね金太、高校に行ってくれるわね?」
少女はほほ笑んだ。あまりにも魅力的で美しいその顔に、金太は魅せられてしまう。
理由には納得が出来た。その事に満足もしている。金太が高校に通う事を躊躇う理由は無いだろう。
「でも、それでも僕は嫌だ。高校には、行きたくない・・・・・・」
だがそれでも金太はまだ決断が下せなかった。
「どうしてそんなに高校を嫌うの貴方まさか・・・・」
言いかけて少女は口を噤む。印辺も南部も察して同じように口を噤んだ。
だがその行為は逆に言おうとしていた事を金太に悟らせてしまった。
「そうだよ! 僕は高校が大っ嫌いなんだ! とにかくつまらないしギャーギャー叫んでるだけの同級生も猿にしか思えない! 教師はゴミ屑以下のクソしかいない! 高校という場所にいるだけでも苦痛なんだ!」
だからと言って高校に行かないという選択肢は選べない。現代を生きる人間にとっては高校を出ていないというだけで負け組が確定してしまうからだ。
だからこそ金太は高校に通っていた。適当な人付き合いを行い、教師を内心で散々罵倒しつつもだ。
だが今の金太は化け物である。高校を出なければ負け組などという人間社会の常識など、楽に破壊できると今の金太は思っているのだ。
人間だった時からずっと内心にため込み続けてきた黒い感情、教師や学校同級生への不満。それらが化け物になった事でタガが外れ噴き出してしまっている。
少女にとってそんな金太の言い分など子供の我儘にしか聞こえない。
「そう、だったら仕方ないわね。私が貴方の高校生活を面白くしてあげる。だから高校に通いなさい。これは貴方にしかできないことよ」
頭から意見を否定するなどという本人をさらに刺激するだけの対応など、少女はしなかった。金太が嫌っている元凶そのものを取り除こうというのだ。
予想外の言葉に金太はポカンとなり、同時に人間離れしていた顔が人間のそれに戻ってしまう。
「信じていいんですか?」
と言いつつ意思はすでに決まっている。出会って一日の少女の全てを信じられると、根拠のない考えが金太の中にあるからだ。
「ええ」
少女は不敵に笑った。