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第1章 はじまり 1

処女作です。arcadia様から失礼いたします。

「金太、金太朝よ! 学校はどうするのよ!」

声が聞こえる。中高年特有の枯れたような女の声だ。

「もう朝の8時なのよ! 遅刻するでしょ!」

声はどんどん大きくなっていく。

いや、大きくなるという表現は不適切だろうか。その声は大きくなるのではなく近づいているのだ。それ故に相対的に大きくなったように聞こえる。単純な話だ、とても下らない。

「待って、後五分で起きるから」

そんな女の声とは対照的な声。とても眠そうでのんびりとした声はそう答える。

どうや声の主はまだ夢の中から抜け出せてはいないようだ。

「何言ってるの、後五分もしたら遅刻確定でしょ! 今すぐ起きるのよ!」

女の声はいっそう大きくなった。どうやら今度は近づいているのではなく、純粋に声を張り上げたらしい。

「大丈夫だって、いつもギリギリで間に合ってるんだからさ、今日も間に合うよ」

のんびりとした声は依然としてのんびりとした態度を崩さない。

その態度は声の女、おそらくのんびりとした声の主の母親を、行動に移らせるには十分過ぎるほど気が抜けたものであった。

「それいつも私がギリギリで起こしてるからでしょ!」

「そうだっけ?」

「そうに決まっているでしょ! 入るわよもう!」

具体的には部屋の主の了承も得ずに、部屋に侵入するほどにだ。

有無を言わさずに部屋に押し入ってくる母親。しかし其を部屋の主は予想していたのか、気にするでもなく布団に閉じ籠っている。

「母さん。いくら年の割には多少若く見えるからって、朝っぱらから男子高校生の部屋に押し入ってくるのはどうかと思うよ」

あまつさえ、軽口までたたく始末だ。

布団の中身にして、部屋プラスのんびりとした声の主である有田金太にとって、このやり取りは何て事はない、何時もの日常なのである。

「五秒やるから布団から出ろ。じゃないと剥ぎ取るぞ」

「何をだよ!?」

「さあね?」

それだけ言って母親は黙りこくった。

「タイム! ちょっとタイム! 今すぐ起きるから待って!」

急に静かになった母親の声に本能的に危険を感じたのか、金太は慌てて意識的を覚醒させる。

しかし全ては遅かった。

「起きろ金太! あんたはいつまでも駄々こねてるんじゃないわよ!」

母親は金太の布団を掴むと、容赦なく剥ぎ取ったのだ。

「ひいっ! いきなり剥ぎ取らなくても良いでしょうが!」

突如として全身を襲う寒気。其を感じて金太は母親に抗議した。

しかし母親は何も言わない答えない。

「母さん。どうしたの一体? 何鳩が豆鉄砲くらった顔してるの?」

いつまでも反応の無い母親に違和感を感じて、金太は母親の肩に手をかけて揺することにした。

しかし直ぐに自分の行動を後悔することとなる。

「あれ? 僕の手ってこんなに気持ち悪かったかな?」

母親の肩に掛けた自分の手が、気持ち悪くぶよぶよとしたぶよぶよとしたピンク色の肉塊だったからだ。

「悪い冗談か、何かだよね?」

混乱困惑恐怖、ありとあらゆる感情を押し殺し、金太は鏡を見た。

特に意味もなく、インテリアとして扉のすぐ横に掛けていた鏡だが、其を見たとたんに金太は鏡を掛けた時の自分を、殴りたい衝動にかられてしまう。

「なんだよ此、此が僕なのか」

不意に部屋が揺れた。其は白目を向いた母親が、泡を吹きながら倒れたことによる衝撃によるものだった。


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