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わたしの名前はエリザベートです、と彼女は言った その2

 シスターとしての働きをフォロシーに教えてもらいながら一年を過ごし、一人前として認めてもらった。わたしは、教会で生活をするようになった。両親とも周に一度会えるのでなんの不満もなく、勤めに従事して過ごしてきた。

 

そして、半年ほど前にポルトガルがジパングを発見したという知らせが各地に届いたのである。

 当時、崇拝の方式に関して内部分裂をおこしていた教徒たちは、どうにかして宣教を行おうと考えていた。

 そこで白羽の矢がたったのが、わたしである。

 

 わたしなのである。


 選ばれた理由としては、小さいころに疑問に思っていた、『なぜか、会話に不自由しない』という現象にあった。

 

 どうもこの現象は、ありとあらゆる言語にも適用しているようで文字が読めなくても言語による会話が成り立つという異能として認められたらしい。

 そのせいで、『神様から宣教せよとの思し召し』ということで、外交官並みの扱いだが聖人認定されてしまった。


 あるていどの自由は利くものの、宣教という一種の侵略行為を行うのかと気が重たくなったが、これを足掛けに様々な場所にいくことを援助してもらえるんだと自分を納得させた。


 そして…。


 「おぉ~い、島が見えてきたぞぉ~!!」

 

 とうとう、ジパングについたようだ。

 船の縁から身を乗り出して目を凝らしてみると、確かに地平線から島の緑が見えてきた。

 空模様もいい具合だ。これなら、嵐で沈没なんてことも無いだろう。

 甲板では船員たちが慌しく動きだしている。

 彼らの邪魔にならないようにわたしは、安心と船酔いで疲れた身体で船室へと戻っていった。




 数刻後、わたしは久方振りに大地へとあしをつけた。


 「くわぁ~、足場が揺れないって素晴らしいぃ~」


 大きく伸びをして、深く息を吸い込む。

 異世界とは日本と似通った地にどこか郷愁を感じた。

 懐かしさに気の抜けたため息をつくと…。

 

 「すいません、貴女が派遣されてきた宣教師でよろしいのでしょうか?」

 

 と、声を掛けられた。

 目を向けてみると、黒いの上から十字架を下げた白人がいた。

 おそらく、先に派遣されていた者だろう。

 あの船にはわたし以外の信徒は乗っていないはずなのだから、わたしを迎えにきたのだろうか?


 「えぇ、多分そうなりますね」

 「おぉ、やはりそうでしたか。いや、よかった」

 そう言うと男は、心底安心したような笑顔になった。


「僕は半年ほど前にここに貿易船で来てね。はじめは、貿易船に乗っていた通訳の一人と一緒に活動していたんだけどね」


 男は、苦笑いで頭を掻きながら喋る。


「貿易船は帰ることになったんだけれど、僕は教えを広めなるという役目があったから残ることになったんだけれど…」


 男は語尾を濁してため息をつき、肩を落としながら続けた。


「僕は、この地の言葉をちっとも覚えられなくてね。

通訳がいたときに、教会として扱っていい建物は譲渡してもらえたから風雨をしのぐのには困らなかったけれど、肝心の宣教はてんで進まなかったんだ」


 話が進むごとに男の雰囲気が暗くなっていく。


「食糧なんかも、貿易船の彼らが餞別にくれたワインと乾パンでしのいだり。言葉が通じないから、寂しさを紛らわすこともできない。勇気を出して外に出てみても、こどもたちには怖がられて逃げられるし……」

 

 しまいには、声も聞こえないくらい小さくなってしまった。

 異郷の地に一人という過度なストレスで参ってしまっているのだろう。

 わたしは、声をかけようと肩に手を伸ばすと…。


「その時なんだ!!」

「ヒィイ!!」

 男は突然顔を上げて、わたしが差し伸べた方の手を炸裂音が鳴るくらいの勢いで、両手でつかんだ。 

 

「宣教師がこっちにやってくるって聞いてね。しかも異邦人と意思疎通が可能な聖人だそうじゃないか!!」

 

 

 わたしの手を握りながら男は興奮した状態で話を続ける。


「君みたいな若い子が聖人になるだなんて、まったく神聖っていうのは若さに宿っているのかなぁ。僕も小さなころは無邪気だったよ。名前さえ教えあえれば友達だと思えるくらいにはね」


 こんな風に、と言って男はわたしの手の甲を覆っていた手を離し、続けてこう言った。


「僕の名前はアベル。僕らの父に愛されるようにって両親がつけてくれた」


 君の名前は?と促された。

 わたしはそれに答えるべく、口を開いた。


「わたしの名前はエリザベートです」

 

 どうぞよろしく、と言って今度はわたしが男の手を両手で包んだ。

 男はそれで満足いったのか嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべてこう言い放った。

 

 

「いやぁ、本当によかったよ。この地にはすでに神職の者がいるみたいでね。その力でもって民衆のために働いているらしいから彼の神から僕らの父へと帰依させるのは難しいだろうけれど頑張ってくれてまえ」

「えっ…」


 言い終えるや否や、男は手を上手に抜き出して船へと走り出した。

 突然の出来事に脳がついていかなかった。

 男の言葉と行動を把握し解釈して、わたしに全てを押し付けて逃げたのだと気づいたときには、男の背中は見当たらなくなっていた。


 なんでこのキャラが生えてきたんだろう?まったく理解できない。

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