真実を知りたいの、と彼女は言った
気づけば神様がいつもそばにいた。
別に見えているわけでもないし、知覚しているわけでもない。
わたしが言いたいのは、お天と様が見守っているというやつだ。
日本で生まれたわたしは、祖母から毎日のようにその言葉を聞かされてきた。
「お天と様が見ているから、悪さはしちゃいけないよ」
気づけば神様がいつもそばにいた。
別に見えているわけでもないし、知覚しているわけでもない。
わたしが言いたいのは、ロザリオが見守っているというやつだ。
キリスト教徒の母親に、毎日のようにその言葉を聞かされてきた。
「神様が見守っているから、清らかに生きなさい」
気づけば神様がいつもそばにいた。
別に見えているわけでもないし、知覚しているわけでもない。
わたしが言いたいのは、お墓参りのときに祖先に手を合わせるということだ。
仏教徒の父に、お墓参りの度にこんな言葉を聞かされてきた。
「仏様が見守っているから、安心していられるんだよ」
気づけば神様がいつもそばにいた。
別に見えているわけでもないし、知覚しているわけでもない。
わたしが言いたいのは、初詣に行って神様に挨拶するということだ。
神道の祖父に、初詣に行く度にこんな言葉を聞かされてきた。
「神様が見守っているから、敬っている限り安心できる」
月日が流れてもわたしは、これらの経験を忘れなかった。
だからわたしは、真実を知りたいと願った。
神様の正体という真実を…。
地球の始まりは46億年前、生物の元とされる自己分裂と化学反応の促進が可能なタンパク質が生まれたのは約35億年前、現在は進化説が通説であり人間と呼べる猿人が生まれたのは400万年前、おまけで現行人類のミトコンドリアは辿ってみると一人の女性に辿り着くという。
何らかの作為を勘ぐってしまうような出来事だ。
宇宙という広大な存在に内包された膨大な数の銀河のどこかに属する一つの星での出来事に過ぎないなんて言ってしまえば、ありえなくはない、いや結構ありえるのかもなんて思えてしまう。
だから、宇宙については考えない。地球も見ない。
わたしは、ヒトを見ることにした。
ただ人類史を紐解く考古学やらなにやらをするわけではない。
わたしが紐解くのは、宗教史だ。
フレーザーの金枝篇から発展していった学問。
見るのは彼と同じで宗教間の共通点だ。
あまりにも似通いすぎた共通点や伝承。それらを風土や交流のなかから辿っていき原初を知る。
そう決意した。
____以上です。
祖父母の墓に手を合わせながら、報告した。
両親への報告は大学生になる際に済ませている。
文句もいわれたが、納得するならばとさいごには理解を示してくれた。
きっとつらい道を辿ることになることだろう。
それでも、挫けずに歩んでゆけるだろう。
「だって、神様が見守っているもの」
その帰り道、雨が降り始めたので樫の木の下で雨宿りをした。
老木ながらも剛直な木だからと安心していた。
雨は段々と激しくなり、強い風も吹いてきた。
雨が弱いうちにさっさと帰るべきだった。
一際強い風が吹いてきて、思わず目を瞑った。
ポキッという音が聞こえて。
身体に衝撃を受けた。
目を開けてみると胸から枝が生えていた。
知覚して思わず、息を吸い込むと肺に血が入りむせて。
視界が暗転した。
折木 金枝 18歳 墓参りの帰り道、老木から折れた枝に刺されて死亡。
なお、枝にはヤドリギがついていた。
死因をイノシシにするかどうかで迷ったけどこっちのほうが送りやすそうな気がした。
「金枝篇」ネミの祭司より、ヤドリギ殺人事件。
もしくは、神話界の英雄殺しのイノシシ△で。
転生トラック……もう使っちゃたから。