表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

非凡な顔

 帽子の陰から現れた、女の頭部。彼女は顔のみが恐ろしいほどに整然としていた。

 別に胴体や手足の様子が壊滅的な訳ではない。目鼻立ちが整いすぎているのだ。

 濃く長く、黒いまつ毛が縁取った存在感のある目。赤ん坊のようにつるりとした、形の良い鼻。アヒル口のようなわざとらしい動作で媚びる様子はないのに、愛嬌を隠さない口元。

 癖のある長い黒髪はシュシュで束ねていた。ワンポイントの入ったTシャツを着ている千秋と並ぶと、薄手の涼しげな白ワンピースがさらに眩しく映えて見える。


 彼女が俺や千秋と同年代の少女であると気づくのに、少々時間がかかった。この少女のパーツはあまりにも、模範的に配置されすぎているのである。

 可愛い、凛々しい、気高い、清楚だ、清純だ、端麗だ、優美だ、艶やかだ……美しい様子を示す単語は多く存在するが、全て合致していない。

 これほど整理された顔立ちをしていのに、全くもって好感がもてない。

 俺が凝視していた少女は、少し離れた場所に飛ばされた麦わら帽子を拾うため俺に背を向けた。俺はひと時の落ち着きを取り戻す。容姿の美しさは無条件に人を心地よくするわけではない。俺はその事実を身をもって知った。

 よく見ると、帽子を拾う腕や裾から覗く脚はそれほど非凡なわけではない。わずかに色白ではあるが飛び抜けているほどではない。太さや形も、それなりには細くてスラリとしているが、大して芸術じみているわけではなかった。頭部だけがどうしても異様なのだ。

 目当てのモノを拾ってからこちらに向き直ったその顔は、どこにも人間らしさがない。

 人間離れした……そう、人間離れしたと表すのが適切だろう。

 顔を上げた少女と俺の視線が合ったその時、彼女は突然吹き出した。

 心底おかしいと言いたそうに口元を歪め、嘲るようにけらけらと笑う。下品とまではいかないが、あまり品のある笑い声ではない。人間らしさを感じられない顔に表情が添加され、さらにグロテスクに見えた。

 俺はその場で立ちすむ。その様子が面白いのかわからないが、少女はさらに大げさに笑いながら麦わら帽子を頭に乗せた。

 彼女は立ち尽くす俺を無視し、千秋に話しかける。

「ねえ、あの人千秋のクラスメイトだっけ? ホントおもしろいね。おもしろいっていうか、すっごい笑えるよね」

 耳障りのする笑い声を口の中に収め、少女は腕時計を見る。その動作はひどくわざとらしかった。そして彼女は少し声色を高くして千秋に言う。

「ねえ、そろそろ次行こうよ」

「え? あ、うん、わかった」

 千秋はぎこちない笑顔をつくる。俺のクラスメイトは無礼な少女に手首を掴まれ、引っ張られて行ってしまった。

「私何か美味しいもの食べたいなあ。ね? 千秋ちゃんもそう思うでしょ?」

 千秋は肯定の返事をしながら大きく頷く。麦わら帽子の影から口元が見えた。まだ愉快そうに笑っている。

 俺は背を向けて去っていく二人を呆然と見送った。よく見てみると笑う少女は手ぶらなのに、千秋は両手にいくつかのカバンと大量の紙袋を抱えていた。

次回、麦わら帽子少女のターン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ