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異説鬼退治Ⅲ⑨

 桃太郎は笑いをかみ殺し、預金通帳を見つめています。

 そこに記載されている数値はマイナスでした。


 借金残額


 一億七十万四十五円


 こんな数字が無慈悲に紙の上に鎮座しています。

 その瞬間に桃太郎は何がどうなっているのかを悟りました。そして、その理由も。

「お爺さん?」

 桃太郎は笑顔になって、お爺さんを見ます。

 目は全然笑っていないのですが。

「覚悟はできてるよね?」

「ななな、何の事じゃ?」

 慌てふためくお爺さん。

 戻ってきたダイゴロウは疾風のごとくホームズを咥えて、その場から再び退避します。

「この数字、どうなっているのかな? 僕たちが抱えた借金は億単位になっていなかったと思うのだけれど」

「あははは、桃太郎よ。お前は勉強のし過ぎで幻覚を見ておるのじゃ。ゆっくり休むと良いぞ」

「幻覚ならここでお爺さんを真っ二つにしてもかまわないよね」

「落ち着くのじゃ。ここで世界のモテ王たるワシを斬れば世界中の女子から責められるぞ?」

 おもむろに携帯電話を懐から取り出す桃太郎。すぐに電話をかけます。

「もしもし、鬼が島㈱ですか? 社長をお願いします」

 待つこと数秒。

「もしもし、鬼が島さん。今すぐうちのクソジジイを鹵獲ろかくする準備をお願いします。はい、関東竜胆会にも手をまわしておきますから。処遇ですか? 煮るなり焼くなり磔にするなり、何なりと。特別老人ホームにぶち込んでも構いません。それくらいで死ぬような人間ではありませんから。ああ、それとババアも老人ホームに収監しても構いませんか?」

 ものすごい会話が行われています。

 お爺さんは携帯電話を奪うべく、桃太郎に飛びかかりましたが桃太郎の刀で叩き落とされました。

「はい。メシ抜きでいいです。働かせてもいいです。むしろ酷使してやってください。借金が山ほど残っていますので、このジジババにはその尻拭いをさせなければなりませんから」

 桃太郎は通話を終えて、地面に這いつくばっているお爺さんを冷たい目で見降ろしました。

「お爺さん、この借金分は働いて返してもらうからね?」

「ご、後生じゃ桃太郎。老人ホーム行きだけは……」

「……お爺さんにかかっている保険金の額はいくらだったかなあ。ここでお爺さんが不審死すれば、借金チャラになるんだけどなあ」

 桃太郎はドス黒い殺気を放って、刀の切っ先を震えているお爺さんの額に突き付けます。

「ごめんなさい、老人ホームで働きますじゃ」

 桃太郎は刀を鞘に納めて、再び抜刀します。

「借金を返し終わるまでは帰ってきちゃだめだよ。帰ってきたら……」

 みなまで言わず。

 桃太郎の前に舞い落ちた枯葉が真っ二つになりました。



 お爺さんと気絶したお婆さんは鬼が島㈱の専用車で会社が経営する老人ホームへと送られていき、家がなくなった桃太郎と下僕たちは関東竜胆会が用意したアパートに住むことになりました。桃太郎は事前に

『うちのセクハラジジイと爆裂ババアは徹底的に痛めつけて構いませんから、脱獄させないようにお願いします。万が一の場合は呼んでください。下僕とともに征伐しに行きますから』

 と鬼が島㈱に言づけておいたので、簡単には逃げてくることは出来ないでしょう。

「まったく、お兄ちゃんはしょうがない人ね」

 都内の安アパートの一室で桃太郎はツンデレラに説教されていました。

 ツンデレラのおかげで今の住居を手に入れることが出来たのですから、桃太郎は彼女に頭が上がりません。

「いい? お兄ちゃんはこれからあのジジババとは手を切って、一人暮らしすると良いわ。それか……」

 いつもの白いドレスを纏った彼女は少しだけ頬を赤らめて

「私と一緒に住む?」

「それはダメ」

 桃太郎ははっきりと反対します。

「もう、お兄ちゃんのいじわる!」

「駄目なものは駄目。ツンデレラは来年から中学生でしょ? そろそろお年頃なんだから気を付けないと」

「むー」

 頬を膨らませるツンデレラを桃太郎は笑顔で見ています。

『突然ですが、ここで臨時ニュースです』

 ツンデレラが桃太郎のために持ってきた巨大なテレビに映っているニュースキャスターが深刻そうな顔で喋り始めました。

『私立三田丘学園の生物教師、虎山ゴンザブロウ(63)が危険物取扱法違反、およびテロの容疑で逮捕されました。なお、この件には当社のキタカドが関与しているとみられ……』

 二人はテレビを見て苦笑します。

「とうとう捕まっちゃったね、虎山先生」

 あれだけやらかせば当然のような気がします。というか、これを放置していたらそのうちテロ組織が跋扈する世紀末になるでしょう。

「そうね。お兄ちゃんに危害を加えたんだもの、当然だわ」

「あのロボお爺さんとロボお婆さんは? 組が引き取ったの?」

「ええ、そうよ。日本統一のために利用するっておじい様が言っていたわ」

「え? まだ抗争やる気なの?」

「冗談よ」

 くすりと大人びた笑みをこぼしてツンデレラはお茶を一口飲みました。

「あのジジババは出てこられるのかしらね。あそこから」

 ツンデレラのその一言が桃太郎の頭に少しだけ引っかかりました。

こんばんは、jokerです。


あと一話で終了予定です。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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