四
〜西下り〜
西へ五日、遊羅は西諸国の中で一番大きな国、広国へやってきた。
中心都市、広の都の長者の別邸に入った。別邸では長者が出迎えの支度をして待っていた。
この長者、実は女である。そして、遊羅とは深い親交がある女だった。
遊羅は女を見つけると、大喜びで女に抱きついた。
「久しぶりじゃ、雪御前。」
「遊羅、久しぶりじゃ。」
この女、名を雪御前といい、遊羅の幼馴染である。
雪御前は真っ白な肌と青い目が美しい顔いっぱいに笑みを浮かべて遊羅をもてなした。
遊羅と雪御前は生まれたその日から供に生活してきた。
そして、思春期を供に過ごし、雪御前は商業の才能を活かすために西へ旅立った。
雪御前の父親は遊羅の父の最も信頼の置ける部下で、遊羅にとっても父親のような人だった。
遊羅は父の姿を知らない。
住む世界が違うからだ。同じ世界に神は二人も存在することはできない。たとえ、幼子だとしても。親子だとしても。だから、遊羅は父親も母親も知らなかった。そう、遊羅にとって雪御前は家族だった。
夜
遊羅を歓迎する宴が催された。遊羅は酒を飲んで飲んで飲みまくった。
そして、客もほとんどが帰ったが、遊羅はまだ酒を飲みつづけていた。
雪御前は酔いつぶれて遊羅となりで眠ってしまった。
遊羅は酒の入っている入れ物を持って、縁側へ出た。真っ暗な空をぼんやり眺めながらふらふら歩く。しかし、足取りが千鳥足だったため、縁側から足を滑らせて落下してしまった。
「あぶない!」
誰かが落下する遊羅を抱きとめた。
「大丈夫か?」
その声の主は遊羅を縁側に座らせて、遊羅顔に水をかけた。
「なっ、なにをする!無礼者!」
遊羅は激怒して、男の頬を叩いた。
「女がこんな夜更けまで一人でつぶれるほど酒を飲むんじゃない!」
男は遊羅に謝るどころか余計に遊羅をしかりつけた。遊羅は顔を今まで以上に真っ赤にして答えた。
「なっ、なんじゃと!?お前、誰に物申しておるのかわかっているのか!?」
「誰だろうと、関係ない!」
男は怯むことなく言う。
「なんと無礼な男か!この私に向って!ゆるせぬ!」
「何をしているのです!」
雪御前が慌てて二人の前に出てきた。
「次郎殿、控えなさい。」
「いいえ、義姉上。良くないことは良くないというべきです。例え、それが神でも。」
「なんと無礼な!雪、こいつは何者じゃ!」
「次郎殿、とにかく下がりなさい。」
「義姉上ですが。」
「次郎!!!」
「分かりました。」
次郎という男は腑に落ちないような声を出して下がっていった。
遊羅はまだ怒りが収まらず、皿や善を投げて、雪にあたった。
「雪、あれはなんという男だ!無礼にも程がある!許さぬ!」
雪御前は遊羅をなだめて話し始めた。
「あれは私の夫の義理の弟の次郎と言う男で、この都の警備兵の長をしている者よ。まだ義父が生きているから今は武人をやっているけど、彼は後にはここの国司になる人よ。無礼なのは自分の考えをしっかりもってるからなの。だから、許してあげて。あの人は決して悪い人じゃないから。」
「しかし、ものの言い方というものがあろう。」
「確かに、あれは良くないわね。私からも重々注意しておくわ。さあ、もう、休みましょ。明日もあることだし。」
「まったく、嫌な男だ。」
遊羅はそう言ってまた酒を一口飲んで、雪御前に肩を支えられ眠りについた。




