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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

初陣で幼馴染が全員死んだ。生き残ったのは俺だけだった

作者: アポロ
掲載日:2026/04/04

初めて支給された鎧は、思っていたよりもずっと重かった。


肩に食い込む革紐。

わずかに動くだけで鳴る金属音。

胸当ての内側にこもった熱が、じわりと肌を湿らせる。


革の匂いが鼻を刺し、鉄の冷たさが身体に貼りついて離れない。


腕を上げるだけでもぎこちない。

歩けば、遅れて自分の身体がついてくるような感覚がある。


――こんなものを着て、本当に戦えるのか。


鏡に映る自分の姿は、確かに兵士だった。

だがその顔は、どこか頼りなくて、今にも逃げ出しそうにも見えた。


「本当に兵士になったんだな……」


呟いてみても、実感は薄いままだった。


「ルーク、似合ってるじゃん」


背中を軽く叩かれ、振り向く。


リアムが、いつもの調子で笑っていた。


その笑顔を見た瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。


「お前もな。……いよいよだな」


「ああ。いよいよだよ。俺たちの初陣だ」


リアムは胸を張っていた。

声はまったく震えていない。


昔からそうだ。

こいつは、こういうときに強い。


俺たちは五人。

同じ村で育ち、同じ夢を見て、同じように兵士になった。


ミナは村一番の俊足だった。

子どもの頃、誰も彼女に追いつけなかった。


一度、足を怪我したことがある。

それでも彼女は無理をして走ろうとして、結局その場に倒れ込んだ。


そのとき、リアムが怒鳴った。


「無理すんな! お前が走れなくなったら意味ねえだろ!」


ミナは悔しそうに歯を食いしばっていたが、最後には小さく頷いた。


それ以来、彼女は誰よりも自分の身体を理解して走るようになった。


リックは力自慢だった。

だが不器用で、訓練ではよく叱られていた。


盾の構えが遅い、と。


ある日、模擬戦で俺が攻撃を受けたとき、

本来なら防げたはずの一撃を、リックは間に合わなかった。


試合後、あいつはずっと俯いていた。


「……守れなかった」


その一言だけを、何度も繰り返していた。


それからリックは、人一倍盾の訓練をするようになった。

腕が震えても、倒れるまで構え続けていた。


サナは魔法の才能があった。

だが最初からうまくいっていたわけじゃない。


制御に失敗して、自分で自分を吹き飛ばしたこともある。


その日、サナは泣いていた。


「向いてないのかもしれない……」


そう言った彼女に、リアムは笑って言った。


「じゃあやめるか?」


サナは首を振った。


「やめない」


「なら大丈夫だ」


その一言で、サナはまた立ち上がった。


リアムは、いつもそうだった。

誰かが迷ったとき、迷いを断ち切る言葉を持っていた。


そして俺は――ルークは。


特別強いわけじゃない。

特別な才能もない。


でも、誰よりも努力した。


誰よりも遅くまで訓練場に残り、

誰よりも多く剣を振った。


手の皮が破れても、血が滲んでも、やめなかった。


「世界を平和にするんだ」


「魔王軍なんて、俺たちが倒す」


「村のみんなを守るんだ」


そんな青臭い夢を、俺たちは本気で信じていた。


――だから、ここにいる。


「連合軍第一陣、前へ!!」


号令が響く。


地面を蹴る音が一斉に重なり、鎧の音が鳴り響く。


走りながら、ふと違和感を覚えた。


静かすぎる。


風は吹いているのに、鳥の声がしない。

草のざわめきが、どこか重たい。


「……なあ」


言いかけたとき、前方に魔物の姿が見えた。


牙を剥き、唸り声を上げている。


――知っている。


訓練で何度も倒した相手だ。


「いける……!」


リアムが叫ぶ。


その声に引き上げられるように、俺たちは前へ出た。


剣が肉を裂く。

血が飛ぶ。


ミナの槍が喉を貫き、魔物が崩れ落ちる。

サナの魔法が炸裂し、焼けた匂いが広がる。

リックが盾を構え、仲間を守る。


身体が自然に動いていた。


訓練の通りに。


「やった……!」


誰かが叫ぶ。


「俺たち、戦えてる!」


胸が熱くなった。


努力は無駄じゃなかった。

ここまでやってきたことは、間違っていなかった。


ミナが笑う。

リックが拳を握る。

サナが涙ぐみながら頷く。


リアムが俺の肩を叩いた。


「ルーク、俺たち――」


そのときだった。


地鳴りがした。


足元が揺れる。

空気が震える。


嫌な音だった。

聞いたことのない、重く、深い振動。


視線を上げる。


黒い影が、地平線を埋めていた。


数が違う。

大きさが違う。


そして――距離がおかしい。


さっきまで遠くに見えていたはずなのに、

もう、すぐそこにいる。


「……嘘だろ……」


リアムの声が、初めて震えた。


次の瞬間、世界が壊れた。


何が起きたのかわからない。


前にいた兵士が、消えた。


音が、遅れて聞こえた。


肉が裂ける音。

骨が砕ける音。


血が、あとから降ってきた。


速い。


いや――違う。


認識が追いついていない。


ミナが吹き飛ばされるのが見えた。


次の瞬間には、もう地面に叩きつけられている。


動かない。


リックが叫びながら突っ込む。


だが、その動きが遅く見えた。


魔族の腕が伸びる。


気づいたときには、リックの胸に穴が空いていた。


サナが魔法を放とうとする。


詠唱の途中で、背後に影が現れる。


振り向く間もなく、その身体が裂けた。


「ルーク……!」


リアムが俺の腕を掴む。


その手は強かった。

いつもと同じはずなのに、なぜか遠く感じた。


「逃げ――」


最後まで言い切ることはなかった。


リアムの身体が、弾けた。


温かいものが顔にかかる。


赤い。


音が消えた。


何も聞こえない。


何も感じない。


ただ、立っていた。


剣を握ったまま。


動けなかった。


どれくらい時間が経ったのか、わからない。


気づけば、静かだった。


さっきまでの音が、すべて嘘のように消えていた。


魔族の姿はない。


風だけが、ゆっくりと吹いている。


足元を見る。


ミナがいた。

リックがいた。

サナがいた。

リアムがいた。


誰も動かない。


誰も、もう――。


俺はその場に座り込んだ。


鎧が、やけに重かった。


さっきよりも、ずっと。


呼吸が浅い。

手が震えている。


でも、涙は出なかった。


悲しみも、怒りも、何も湧いてこない。


ただ、無表情のまま、

幼馴染たちの亡骸を見つめていた。


努力した。


夢を見た。


未来を信じた。


でも――届かなかった。


風が吹く。


草が揺れる。


血の匂いが、まだ残っている。


俺は、リアムの手に触れた。


もう、冷たかった。


「……俺たちじゃ……無理だったんだな……」


声は、自分のものじゃないみたいだった。


剣が、手から落ちた。


乾いた音が、やけに大きく響いた。


そして戦場の真ん中で、


俺はひとり、取り残された。

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