第1話 騎士団は俺の家
もうすぐ今年が終わる。
論功行賞の時期だ。
論功行賞とは、その年に功績のあった四人の騎士を選び、栄誉を称え、褒美を与える式典というか祭りのこと。
辺境を魔獣から守るアイスヴェルク領の騎士団では、四季になぞらえ選ばれた四人の騎士を肴に、大酒を飲める無礼講の日とされている。
「グランツ、今年の『秋の騎士』はお前だ」
「は? 『秋の騎士』なんてまっぴらですよ。なんで俺なんですか? 嫌がらせですか??」
騎士団長にそう言われ、俺はギロと青い目でにらみながら抗議した。
『秋の騎士』は、その年に勇退する者、つまり退職が決まった騎士が受賞するのが慣例だ。
最後に、表彰をするから気持ちよく退団してくれという、肩たたきの意味もある。
秋と言えば、枯れ葉、落ち葉だ。
なんとも終わりを感じるではないか。
ゆえに『秋の騎士』は年配のものが多く、その年まで生き残った者はたいがい最前線で戦っていた者よりも、医療や補給役、参謀などの後方支援者が多い。
いつも最前線の死地で戦っていた俺からすれば、それらは民間人に近い立ち位置だと思っている。
剣を持たず、血を流すことのない者を俺はどうしても騎士だとは思えなかった。
別に、補給や支援を馬鹿にしているわけではない。
ただ、俺は騎士の中でも十年以上の間、一番の切りこみ隊長で前衛を任されている。
後衛にいる者は守る対象という意識が強いからだとも言える。
だからこそ、今までそういった定年退職間近の後方支援者がもらうことが多い『秋の騎士』に俺が選ばれたことが納得できなかったし、侮辱されたような気持ちになった。
俺の歳は、まだ三十にも届かない。年寄りでもなければ、後方支援者でもない。
先日まで、最前線で戦っていた一番隊の隊長の俺を『秋の騎士』に選ぶなど侮辱以外の何者でもない。
俺は銀髪をぐしゃと掻きながら、もともと不愛想な顔をさらに不機嫌そうに歪め、ウルス騎士団長に言う。
「そんな賞をもらうくらいなら、今すぐ引継ぎせずに退団しますよ」
「そう言うな、グランツ。ちゃんと賞与も出る。退団するなら、金はいくらあっても助かるだろう? この後のことは、もう考えたのか?」
「それはまだですが……」
「だろう? 何事も金があればなんとかなるものだ」
騎士団長は、俺の背をとんとんと気安く叩いた。
それもそのはずで、ウルス騎士団長は身寄りのなかった十四歳の俺を騎士団に拾ってくれて、十五年近く親代わりをしてくれたからだ。
だから俺にとってこの騎士団は家族で、その宿舎は家のようなものだと感じていた。
しかし、俺は引継ぎを終えれば退団することになっている。
俺の心は、枯れ葉のように揺れ落ちていった。




