サークルの飲み会で酔いつぶれた後輩を介抱したら、逆に俺がお持ち帰りされた話
「せんぱ~い! 全然飲んでないじゃらいですかぁ」
「……お前が飲みすぎなだけだろ」
「えぇ~。先輩いけずぅ」
そういうと後輩は、もう何杯目か分からないビールをまた喉に流し込み始める。
軽音部サークルの打ち上げも始まってからもう二時間近く経っており、周りを見ると出来上がった酔っ払いばかりになっていた。
それは横にいる後輩も例外ではなく。
「おいもうやめとけ。顔真っ赤だぞ」
「先輩が飲まらいからぁ。代わりに私が飲むんれすよぉ」
「それ以上飲むとまじで倒れるぞ。自分の顔鏡で見て来い」
何かと都合よく俺を利用してくる後輩の顔は、りんごのように真っ赤に染まっていた。
体も上下左右にふらふらと揺れ、いつ倒れてもおかしくない状態にまでなっていた。
「えぇ? 鏡を見てもぉ、可愛い私の顔しか映らないですよぉ」
「……もういい。俺は帰るぞ」
「待ってくらさいよ。まだ一軒目れすよ?」
「俺は二軒目に行く予定もないし、そもそもこの飲み会もお前に無理やり連れられて来ただけで――」
「分かりましたよぉ。じゃあ私も帰りますので、送ってってください。先輩が先に行っちゃったら誰が私を介抱してくれるんですかぁ?」
「進藤辺りにでも助けてもらえばいいだろ」
「進藤さんはなんかぁ。信用できない!」
うちのサークル代表の名前をあげると後輩は、顔の前でばってんマークを作り口を尖らせる。
お前のその信用できるできないのラインは一体どこなんだよ。
「それにぃ。私が他の人にお持ち帰りされてもいいんですかぁ?」
「知らん。勝手に持ち帰りされとけ」
「ひどぉい。こんな美少女にそんな口を叩くの先輩だけですよぉ?」
「普段のお前ならともかく、今の酒臭いお前を持ち帰りする気はない」
「それってつまり、酔ってないいつもの私ならお持ち帰りしてくれるんですか!?」
「……知らん」
「先輩、赤くなってて可愛い~」
……こういうところは酔ってても変わらないんだな。
こいつと話してると毎回自分のペースを乱される。
まぁ、不思議と悪い気分にはならないが。
「あぁもういい。送ってやるから早く外出るぞ」
「やったぁ!」
後輩はガッツポーズを取ると、バッグを肩にかけて勢いよく俺の腕に飛びついてくる。
何人もの男たちをこうやってたぶらかしてきたんだろう。だが俺は絶対その手には引っ掛からないからな。
「すいません。俺こいつ送っていくので今日はお暇します。お疲れ様です」
「お? 渚ぁ、うちの姫をお持ち帰りか?」
「そんなんじゃ――」
「はい! 私渚先輩にお持ち帰りされちゃいます!」
「おい!」
「そうかそうか。渚もやるじゃねぇか」
進藤は大きく口を開けガハハと楽しそうに笑う。
俺の腕に引っ付いてる後輩もにししとしたり顔をしている。
「お前……後で覚えておけよ」
「いやん。優しくしてぇ」
「お前が男だったら間違いなくぶん殴ってたからな」
「じゃあ女で良かったです」
俺は思わず舌打ちをしそうになったが、すんでのところで押しとどめる。
腕から離れない後輩を引っ張りながら店を後にする。
外に出ると冬の夜風が吹いており、それを感じた後輩は体をぶるっと震わせる。
「さっむ。流石に飲みすぎましたかね」
「だから言っただろ、これ着ろ」
俺は自分の着ていたコートを脱ぎ、後輩の体に羽織らせる。
「せんぱ~い。こういう所ですよ」
「意味が分からない事言ってないでさっさと帰るぞ」
後輩はジト目でこちらを見ていたが無理やり腕を引っ張り歩き始める。
終電が終わるまでに帰らせないといけない。
「お前の最寄り駅ってどこだっけ?」
「えぇっと……どこでしたっけ」
「しょうもない冗談言ってないで早く言え。終電まじでなくなるぞ」
「先輩……終電、なくなっちゃったね」
「まだあるわ」
「先輩の家、行きたいなぁ」
「分かった。タクシー呼ぶからお前もう一人で帰れ」
「うそうそ冗談ですよぉ! さぁ行っきましょう!」
「ほんと調子いいなお前……」
さっきとは逆に後輩が俺の手を引っ張り前を歩きだす。
こう言っちゃなんだが、なぜこいつは俺にこんなに懐いているんだ。
思えばサークルの顔合わせの時からこんな感じだったような……気のせいだろうか。
そのまま俺たちは電車に乗り二駅先のところで降りると、すぐに後輩が住んでいるマンションに着いた。
「じゃあ俺は帰るから。ちゃんと体温めて寝ろよ」
「……」
「おい、どうした?」
腕から後輩の体を引きはがそうとしたが、下を向いたまま黙り込んでいる。
「今日はもう遅いので、うちに泊まってってくださいよぉ」
「いや無理だが」
「コートも洗って返したいですし」
「別に今返せばいいだろ」
「ああもう。とりあえず来てください!」
「お、おい! ちょ、力つよ!」
後輩に無理やり引っ張られながらマンションの中に連れられる。
階段を上っている間も抵抗しようとしたが、力が強すぎて手を離せない。
「はいここ。私の部屋です」
「ちょ、ちょっと。ほんとにしゃれにならないから」
後輩は鍵を開けるとそのまま扉を開けて俺を無理やり部屋に入れる。
「流石に怒るぞ。何がしたいんだお前」
「……先輩がいけないんです」
「はぁ? おい黙って鍵を掛けるな。待て……静かに近寄ってくるな、おい! 水瀬!」
後輩はじりじりと俺に近寄り、そのまま横にあったベッドに押し倒される。
「な、なぁ。まじでどうしたんだよ? 酔いすぎなんだよお前」
「最初から私は酔っていません」
「え?」
「最初は先輩を飲み会に連れてきて、そのまま酔わせてお持ち帰りする作戦だったんですが、先輩はまったくお酒を飲まないし」
「だから私が酔ったふりをして介抱してもらう作戦に切り替えたんです」
後輩は俺の上から覆い被さりながら目をジッと合わせ恐ろしい事を口にする。
「今までもいっぱい先輩にアプローチしてきたのに。先輩は全然振り向いてくれない」
「だからしょうがないんです。ですよね、先輩?」
「何もしょうがなくない! そ、それになぜ俺なんだ!?」
「私が高校生の時、先輩に助けてもらったんです。その時から一目惚れでした」
「こ、高校? いつの話だよそれ」
「やっぱり覚えていないんですね……まぁいいです」
後輩はため息をつきながら身に着けている可愛らしい服を脱ぎ始める。
中からは純白色の下着がちらちらと見えそうになっている。
「待て! 何してるんだよ!」
「先輩を自分のものにする準備です」
「こ、こういうことはもっと順序が」
「じゃあ先輩私の恋人になってくれますか?」
「な、なるから! その手を止めてくれ!」
「ほんとに? 付き合ってくれるんですか?」
「俺は嘘はつかない!」
「やったぁ!」
もうほとんど下着姿と呼べるような格好で抱き着いてくる。
人生で感じた事のない色々な感触が全身を襲うが、平静を装い勇気を振り絞り俺も抱き返す。
「先輩せんぱい……」
「わ、分かったから。まず服を着てくれ」
「え? 何でですか?」
「もう下着が丸見えだから! 目に悪いんだよ!」
「でも今からするんですから、服なんていらないですよ?」
「は!? するって何を!?」
「私たちもう恋人関係ですから、我慢しなくていいですよね……」
「いやいや待て待て。落ち着け!!」
「私、初めてなので。優しくしてくださいね? なぎさ先輩?」
その後の事はよく覚えていない。
ただ朝起きたら彼女のベッドで、体は経験したことのないとてつもない疲労感に包まれていた。
そして横には、生まれた姿のままで幸せそうに寝ている後輩の姿があった。
「女って、怖ぇ」
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