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懐の狭い短編集

ジュラルミン・メッセンジャー

 ボウリング場と仕切られることもなく壁貫通で隣接する喫茶店に、天井吊りされたBOSEのスピーカーからにゃにゃんがプーがかかっていた。まったく、これが喫茶店の曲選択かよ。安牌でカフェジャズでもかけとけ。まるで当時の肌色をした二の腕が太い女が、総重量300ポンドの迫力満点のストライクを決め、数秒経ってやっと追いついたピンの音がフロア中に鳴り響いた。この奇怪可愛らしくも場馴染みのしない店内BGMには、僕以外にもうすうす気づいていたらしい。向かいの席にいる二人組が何かそわそわしだした。

「おい……この曲まるで……。」

「ああ……まるで初期のデペッシュモードだな。」

 そう言って二人は競るように飲みかけのコーヒーを置き去り、ボウリングレーンとは逆の方向にあるステンドグラス戸から出て行ってしまった。二人の足取りは、ふと思い出した重要な人物を探しにいくみたいだった。あの二人は事件を任された探偵なのかもしれない。僕はデペッシュモードを知らない。代わりににゃにゃんがプーを知っている。それに気が付いた途端僕は変な気持ちに駆られて二人のあとを追いかけ、背中がみえなくなるまで「にゃにゃんがプー! にゃにゃんがプーっていうんだ!」と叫び続けた。成果はまるであがらなかった。

 家に帰るまでの道はムダに伸びてしまい、家につくまでには通常の倍汗だくになっていた。赤いマンションの水色の扉の悪魔顔した鍵穴に頸動脈からコオロギを三匹滑り込ませる。さっそくデペッシュモードを聞いて、数曲聞いているうちに別の曲に切り替えていた。

 ♪ジャンリュックポンティ「コズミックメッセンジャー」

 僕はイタリア政府からある依頼を受けていた。このジャンリュックポンティのアルバムを丸々使ったシューティングゲームをつくらなくちゃいけない。たしかに僕はシューティングゲームファンではあったがゲーム開発やイラストレーション、アニメーションに関してはまるで素人だった。でもwebカメラ越しにジュラルミン数億個の大金をみせられてしまっては、僕にはすでに引き受けるしか選択肢が残っていなかったのだ。ハンフリー政権の悪趣味ぶりには極東のワンルームにいながら辟易とする。経過報告の日付はちゃくちゃくと迫り、もう1週間を切っていた。だからあの探偵の奴らのせいで僕には汗を拭っている時間も惜しかった。クソッ、godotのビギナーズガイドに何て書いてあるか分からねえ……。僕は暗黒時代から引きずり続けていた逃避癖を、今まさにここで発症しかけていた。あんな大金みちまった以上、今さらできませんで済むはずがない。白人どもの深い彫の奈落へ、僕は突き落とされちまう。今だって、政府に雇われた凄腕スナイパーがあのビルから僕を睨んでいるに違いない。1%にも満たない確率を信じて、この部屋から走って逃げだしてもいいが……とりあえずパソコン動かすだけ動かして仕事を進めるフリでもしておくか。ああ、スナイパーさんどうかよくは見ないでくれ。今僕はスクロールバーを行き来させているだけなんだ……。

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