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道現成は夢む、塗れた華の七仏通誡偈【第十四話】




「〈神経の秤に冥府のへそ〉……!」

 寂滅が言葉を発すると時空全体が揺らぐ。

「アントナン・アルトーか。『神の裁きと決別するため』とはよく言ったもんだね」

 ぐるぐるかき乱される感覚のなか、減らず口を叩く僕。

 だが、僕より限界に達しているのは珠総長だった。


 ふわああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!


 響く響く、パイプオルガンのように。

 器官おるがんが鳴らされているのだ、珠総長の。


 時空間が熱膨張し、それは現実の空間の方にも影響を与えはじめた。

 九龍の建物……違法建築群が倒壊をはじめたのだ。

 時空のガラス越しに僕は見る。

 床だった場所が破れ、穴が開き、壊れた建築資材とともに落下していく破魔矢式猫魔、小鳥遊ふぐり、夜刀神うわばみ姫の姿を!

〈将門〉は今いる時空から、舞い降りていく。

 まさに今、〈生み出されたように〉、この混沌の地が産土うぶすなだと言わんばかりに、〈東京追放〉の地に、平将門の魂魄を持つ百瀬珠〈だったモノ〉が。

 寂滅の亜空間を突き破り、吐き出されたその姿は半分以上〈怨霊化〉している。

 土浦九龍の倒壊しているその真上、将門は空中から舞い降りていく。

「畜生ッ! どうすりゃいいんだッッッ!」



「こうすりゃいいんだよ、…………山茶花少年」



 煙草のにおいがした。

 さらりと長い髪が僕の姿を認識して、言い返したのだった。

「え?」

 目を丸くする。

 メッシュのあるロングヘア。

 素足のまぶしいショートパンツのボタンは開けていて、少しだけ下着が見える。

 そのひとは、今日もくわえ煙草のままで。

 日本刀を片手で持って、

「うっしっし」

 と、露悪的に笑う。


「美弥子さん……? 更科、美弥子さん…………?」


「さて。まずは将門の魂魄の〈切除〉だ。観てな、少年」

 ウィンクする美弥子さん。

 まるで僕が〈ここにいる〉のを〈知っている〉かのようだ。

「それから今のあたしは更科美弥子じゃない」

 煙草をベニヤの壁でもみ消してから捨てて。


「今のあたしは元麻布呪術機構ヶ退魔士、夢野壊色ゆめのえじき。……行くよ」


 日本刀を右手で持って、左手で九字を切り、それから唱え出す。

「〈色・受・想・行・識〉。仏性を知らんと思わば、知るべし、時節因縁これなり。時節若至すれば、仏性、不至ふしなり。有事は、時すでにこれ有なり、有はみな時なり。仏性は動不動どうふどうによりて在不在ざいふざいし、識不識しきふしきによりて神不神じんふじんなり、知不知ちふち性不性しょうふしょうなるべきと邪執じゃしゅうせるは外道なり。…………知るべし、〈諸悪莫作しょあくまくさ〉と聞こゆる、これ仏性法なりッッッ」

 日本刀が脈動する。

 この日本刀は生きている。

 日本刀に魂がこもる。

「知るべし、仏心というは仏の眼睛がんせいなり、破木杓はもうしょうなり、諸法なり、三界なるが故に山海国土、日月星辰なり。仏教とは、万象森羅なり、と」


 美弥子さん……いや、夢野壊色は叫ぶ。

「喰らえ! 諸悪莫作ッッッ!!」



 快晴の空から落雷が起こり、壊色の日本刀に稲妻が宿った。

 壊色えじきがその日本刀を一閃すると、強烈な破壊音が轟いた。



 壊色が総長だったモノの身体を斬ると火花が火球となり、総長の身を包み、総長は全身が燃えたまま地面に落下していった。

 だが、御しきれないその一閃は、土浦九龍の建物群をも、真っ二つに引き裂いた。

 引き裂いたその切り口から発火し、そこら中で化学反応が起こって爆発が起こり、建物群全体が燃え上がりながら沈んでいった。



 壮絶だった。

 この中で生きている人間が、いるだろうか。

 それは、完全な破壊、〈滅却〉だった。


 呆然としていると、いつの間にか、僕がいる時空に、更科美弥子さんが……じゃなかった、夢野壊色が現れた。

 夢野壊色が、僕に投げキッスをする。

「さぁて、少年。仕事の調子はどうだい?」


 スペックが違いすぎる。

 確かにこれは、英雄そのものだ。

 僕は息をのんで、夢野壊色を、見た。

 でも、そこにいるのはどう見ても更科美弥子さんだった……。





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