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道現成は夢む、塗れた華の七仏通誡偈【第十三話】




「不純物が多すぎたのでありんす、萩月山茶花。あなたの心身には。隔離せねば、あなたは〈危険〉でありんす」

 白いビキニの上に袈裟を羽織る雲水、暗闇坂寂滅が僕のいる〈領域〉そのものの中に語りかける。



「〈花にも月にも今ひとつの光色思い重ねず〉と、道元禅師は言っておられるでありんす」



 寂滅がこの〈時空〉内を言葉で満たした。

 すると、それを鼻で笑う人物の〈思念体〉が、ミスト状になりながら、補足する。

「『法華経』が言うところの〈諸法実相〉じゃな」

 その声は。

「珠総長! 無事でしたか!」

「なーに、ひとがまるで死んでしまったかのように言うのじゃ、山茶花よ。我が輩もここでは〈実体を保てない〉ものの、生きておるわい」

「〈神に酔える魔女〉。諸法実相を解しながら尼僧の考えとは反目する、と?」

 総長はその霧状の姿をくゆらしながら、寂滅と向かい合う。

「我が輩たちにわかるのは今、目の前にある状態だけ。〈本当はこれがなんなのかを知っている〉のは仏だけだ、と道元は言ったのじゃったな。わからないのだから〈今あるもの〉をしっかりと大事にしよう……それが諸法実相。花や月を見ても、そこに別の光や色を付け加えない。花も月も、その声をあるがままに聞くのみ、じゃ」

「尼僧の使っている霧状になる、その術式を理解しているですね、〈魔女〉」

「もちろんじゃ」

「そのこころは?」

「〈心身脱落しんしんだつらく〉じゃ、な?」

「ご明察」

「自我の執着をなくし、没我してミスト状になるんじゃな? 逆を言えば、いったん心身脱落の境地に至ったおぬしはその白ビキニや、ありんす言葉、それに誘惑をして煩悩にまみれていないと自身の実体化が出来ぬのじゃろう?」


「〈現成公案〉でありんす。ひとは迷いをなくそうとやきもきする。悟りを得ようとやきもきする。ですがそれは間違いでありんす。迷いも悟りもない。あるのはただ〈心身脱落〉でありんす。自我を溶かし、悟りへと溶け込ませる。溶け込んだそこには迷いも悟りもないのでありんす。目の前に存在するのはあるがままの世界、即ち〈現成〉なのでありんす」


 東洋哲学問答が始まっているのを、僕の〈思念〉は見ている。

 僕はどう出れば問題を解決できるのだろう。

「魔女のプレコグと尼僧の術式は相性が良い。将門の依り代にするのも、ならばたやすい。勝手がわかるからでありんす。〈一切は衆生なり、悉有しゆうが仏性なり〉の通り。魔女、あなたのプレコグの〈本質〉の脆弱性を突くことが出来るでありんす。……苦しくなってきたでしょう、魔女。あなたは今、将門の魂魄に脳髄が浸食されつつある」

 ふふ、と白いビキニに袈裟を着た異形の雲水は笑む。

「〈一切は衆生なり、悉有が仏性なり〉とは、すべての存在、全世界は仏性であり、すべては仏の世界の中にいる、ということ。魔女、あなたの汎神論とベースが似ているでありんす。仏性を知りたいのであれば時節因縁……つまり、そのときそのときのあり方が仏性だと知らねばならないのでありんす。迷いも仏性であり、至るのも仏性、無も仏性。すべては仏性」

 寂滅の言うことに、

「ふむ」

 と頷き、珠総長が額の汗を拭う。

「我が輩の脳みそが限界まで浸食されてきおったわ。この時空から我が輩がこのまま解き放たれたとき、この国は〈厄災〉で消し飛ぶ、ということじゃな?」

 凝縮された熱いエネルギーの塊に、総長がなっていくのが僕にもわかる。

 時空のガラス越しに猫魔たちを見ると、鳥居の前でみんな倒れている。

「我が輩を浸食するその邪気が効果を及ぼしてきたようじゃな。邪気だけでうちの探偵結社メンバーたちが倒れるほどの呪力……か。我が輩がこの空間から飛び出たとき、まずは土浦九龍が崩壊する、……のじゃろうな。そして、そこが〈爆心地〉になって将門が我が輩と入れ替わるように実体化する、ということか。実体化したら、本当に終わりじゃなぁ」

 僕にも理解出来た。

 まずは〈東京追放〉を受けたひとたちの皆殺しを計るつもりだ。

 九龍が消し飛ぶ。

 東京追放されたひとたちを邪魔に思う方々のリクエストだろう。

 返す刀で東京も蹂躙。

 首都を潰すと、地方分権は微々たるこの中央集権的な日本は統治が機能不全となる。

 そんなことを考えている僕は、自身の身体を実体化できぬままにこの時空をうごめく。

「どうしろってんだ! クソ!」

 拳を握りしめたが、殴るにも感覚もなければ、僕自身がここにいながらここにいなかったのであった。

 こんな話ってあるかよッ!





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