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道現成は夢む、塗れた華の七仏通誡偈【第十二話】




 夜刀神は言う。

「〈水戸アートタルタロス〉と〈土浦九龍〉の調停を請け負ったのでごぜぇますよ。とりあえず弱っちぃ方……九龍の方に社を建てて、様子見をしてるのでごぜぇます。そしてこの九龍のどこかで、暗闇坂寂滅が将門の魂魄こんぱくを、依り代にする百瀬珠の身体に挿入しようとしているのでごぜぇます」

「…………」

「寂滅の奴がどこに潜伏しているのか、それさえつかめば、〈九龍〉側の問題は解決出来るでごぜぇます故、探してるのでごぜぇますが、彼奴きゃつは亜空間内にいると思われるのでごぜぇます。それで昨日、そこの探偵に協力してもらって探偵らしく〈ひと探し〉をしてもらったのでごぜぇますが」

 猫魔が続きを言う。

「共同戦線を張ったは良いが、空振り。進展なしだ。普通なら〈呪力痕跡〉を見つけてそれを追えば済む話なんだが、どうも尻尾を見せないんだ、あの寂滅って雲水は」

「雲水故、でごぜぇましょう」

「雲や水をつかめないのと同じってわけさ、雲水を捕まえられないってのは、ね」

「ときに人間。〈魔女〉のプレコグの原理は知っているでごぜぇますか」

 僕はかぶりを振る。

 無言で頷いてから、夜刀神は説明をする。

「〈超越論的存在〉は知覚出来ない。が、〈神に酔える魔女〉は、偏在する……つまりあまねくどこにでも存在する……この世のすべてのモノにある〈現世を神へと繋ぐその入り口〉を感知することが出来るのごぜぇます。その〈神の御許へ繋がっている入り口〉の波動でプレコグ……即ち、予知能力……を行使するのでごぜぇます」

 一気にいろんなことを言われて、僕は目眩がしそうだ。

 持ってきたペットボトルのミネラルウォーターに口をつける。

 ぬるい。

 猫魔は言う。

「今、夜刀神が言ったことをおれなりの言葉で簡単にすると。珠総長のプレコグを術式として理解するなら、〈汎神論〉を応用した〈術式〉だ、と言えるってことさ。創造主は唯一だが、同時に世界中に〈満ちている〉という世界観から生まれる術式だ。世界を満たす神の波動の揺れ動きで、それを予知能力に応用しているんだ」

 そこにふぐり。

「その寂滅って奴を捕まえるなら、総長の能力が一番有効だった。でも、実際はそいつがステルス効果のある〈なにか〉で総長を絡め取って、拉致した。〈呪力痕跡〉がないんじゃ、そりゃ追うに追えないわ。将門の依り代にするなら、確かに〈器〉として総長は最適でしょうね。その強大な能力の所有者であることから。でも。じゃあ、どうするの?」


 僕はみんなのいる方を見渡した。

「んん?」

 それは〈隔離〉だった。

 みんなの姿がガラス越しで見ている風に知覚された。

 おかしい。

 と、思ったら動けなくなった。

 地面が消える。

 僕は逆さまになったり横になったり、地面がない故に、様々な方向に動く。

 重力は無視された。

 これはその法則とは〈違う法則〉の世界に、引きずり込まれたということだ。

 今までの経験でわかる。

 霧が、一点に集まり、凝固する。

 現れたのは、白ビキニの上に袈裟を着た尼僧、……昨日の深夜に現れた、あの暗闇坂寂滅、に違いなかった。

「ようこそ尼僧の〈時空〉へ。歓迎するでありんす」


 僕は、現実から〈隔離〉され、寂滅の〈時空〉の穴に落ちたらしい。

 笑えない話だった。

 僕の身体は今、通常の宇宙と違う法則の下にいる。

 もしかしたらこの時空では身体をキープできず〈思念体〉になっているかもしれなかった。

 感覚がない、または拡張しすぎてわからない、そんな感じだった。

 上、下、右、左、と。

 寂滅の薄ら笑いが全方位からランダムに聞こえてくる。

「僕をどうするつもりだ」

 ……その僕の声は、霧消した。

 ガラスの向こう側の猫魔たちと、僕は隔絶されて。





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