衆生済土の欠けたる望月【第二十三話】
☆
ビュン!
ピストルクロスボウがしなる音。
それは〈玉〉をカバーしていた透明なケースを射抜き、粉々に砕いた。
「さて。三本の矢で撃ち抜いて見せましょう。ふふ」
孤島は余裕の笑みをこぼす。
一方。
西口門は僕に飛びかかってきた。
僕は護身用の特殊警棒を振って、三段の長さに戻して、斜めに構えた。
西口門のナイフを、僕の持った特殊警棒が受け止める。
僕はナイフを受け止めた瞬間に弾き、西口門の横っ腹に警棒をぶち当て、警棒についているスイッチを押す。
スイッチを入れると、電流が流れ出す。
「うぎゃあああああああああああああああ」
感電して悲鳴を上げる西口門。
落としたナイフを僕は蹴って室内の端へ吹き飛ばす。
「でかした、山茶花! 喰らえ、牛王宝印だ!」
猫魔がそう言って牛王宝印という名前の護符を飛ばす。
護符が西口門の身体に吸い込まれていき、吸い込まれ終えると西口門の瞳から生気が消え失せた。
「さぁて、西口門くん。君はちょっとこの中に入っていてくれたまえ! この『瑞花雙鳥八稜鏡』の中に、ね!」
護符をもう一枚飛ばすと、そこに白銅の鏡が現出した。
西口門を、白銅の鏡、瑞花雙鳥八稜鏡と猫魔が呼んだ〈鏡〉に向けて蹴り飛ばすと、西口門は鏡の中に取り込まれていった。
「チッ! 時間稼ぎにもならなかったか、あのラッパーめ!」
ピストルクロスボウがしなる。
矢は〈玉〉に命中した。
ひびが割れる〈玉〉。
孤島はなにかぶつぶつ唱えている。
「連発は撃てないようだな、テロリストくん。隙があるぜ!」
猫魔がネコ科の動物のような動作で孤島に飛びかかる。
孤島がニヤリと笑んだ。
ピストルクロスボウを飛びかかる猫魔に向け、〈見えない矢〉を放つ。
ぐはっ、と嗚咽を漏らし、倒れる猫魔。
おなかから血が飛び出る。
次の攻撃を食らわないように、倒れたまま転がって僕のそばまで移動してくる猫魔は、しかし、腹を押さえている。
血液がドクドク流れている。
「ありゃ、術式の〈法具〉だ。法力も撃てる。そりゃぁそうだよなぁ。クソ、……痛い」
またピストルクロスボウがしなる音。
今度は見える矢である。
放たれた矢は〈玉〉をまた傷つけた。
僕のそばで猫魔が囁き声で言う。
「山茶花、三本目の矢で、おれたちはゲームオーバーだ……」
どうする?
僕の心臓がドクンと大きく脈打った。
どうする?
どうするんだ、僕は?
「僕はッッッ」
吠える。
顔を天に向けて。
狭い天井に向けて、吠えた。
「僕はオタクだ! えろげオタクだ! つまり〈豚〉だ! そして、その〈玉〉は、玉座のメタファなのかもしれないけど、僕から見たら…………ただの〈真珠〉だッッッ!」
僕の叫びに、あっけにとられる孤島、そして、猫魔。
僕は転びかけながらダッシュする。
いきなりのことなので二人ともこっちを見たまま動けなかった。
僕は〈玉〉を置いた台座にドロップキックする。
台座は木製で、古いこともあり、そのまま横倒しになった。
転がる〈玉〉。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ」
ドロップキックの着地失敗で盛大に転んだ僕は飛び跳ね立ち上がり。
土足で神聖な〈玉〉を、何度も、何度も踏みつける。
ガッ!
ガッ!
ガッ!
堅い。
さすが真珠のような〈玉〉だ。
咆哮するしかなかった。
勇気を出すんだ、僕!
「『マタイによる福音書』7章6節だぜ! 〈玉〉をいただきまああああぁぁぁぁすッッッ! アイイイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェッッッ!」
咆哮した僕は、小さなおにぎりくらの大きさの〈玉〉を、口を開けて飲み込んだ!
やけくそだぜッ!




