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衆生済土の欠けたる望月【第二十一話】




 僕、萩月山茶花は、女子高生探偵・小鳥遊ふぐりが言ったことを頭の中で反芻した。



 …………奥の院は相当、その手の〈異能力者〉でもなけりゃ近づけないようになってる。

 …………十年前の〈厄災〉で、将門の力にやられたからね。

 …………と、すると、術者である人間がやってくるわ。



 今のふぐりは、神楽坂ふぐりという名前のアーティスとして、DJ枢木とのユニット、ソーダフロート・スティーロで鎮魂の祈りを歌舞で捧げている。


 ふぐりは、こうも言った。

 やってくるのはテロ組織のトップである人物だ、という意味の言葉を……。




 僕は猫魔とともに、奥の院に到着していた。

 猫魔の結界の先にある扉を開いて、安置されたご神体と向かい合う。

「小さなおにぎりサイズのパールみたいだ……」

「おにぎりってお前……。まあいい。山茶花、敵が来るぞ。しかも一人きりで、な」

 結界が破壊され、奥の院に貼られた護符が一つ残らず燃え尽きた。

 現れたのは当然、こいつだった。

 ほそいつり目に、ニタニタした笑みを貼り付けて。

 僕は、震えている。

 震えながら、敵の名を、呼ぶ。

「孤島……」

「なんですか、山茶花さん。それから、……探偵さん?」

 孤島を、直視する僕。

「まだこんなこと、続ける気なのか、孤島」

「国賊は、討つ。しかし邪魔ですねぇ。消えてください、山茶花さんと探偵さん?」

「続けるのか、多くの人を巻き添えにしながら?」

「革命家は、革命を完遂させるまでが仕事なのですよ。戦後処理や国を安泰にさせるのは、違う人間たちの仕事なんですよ、山茶花さん。だから、さぁ、僕たちはショウを始めましょう。さぁ、殺傷を始めましょう。僕とあなたたちは、殺し合わなければわかり合えないようですからね。身体に刻み込んであげますよ。さぁ、殺傷が始まる……」


 暗くて気づかなかったが、弓を、孤島は左手に固定させて装備していた。

 弓に矢をかけて、放つ。

 ビュン! と、弓がしなる音。

 速い!

 放たれて飛んできた矢を、術式で張った防御壁で猫魔が弾く。

 この弓矢。

 〈ピストルクロスボウ〉と呼ばれる武器だ。

 名前の通りピストルタイプのクロスボウで、フルサイズのクロスボウに比べ非常にコンパクトで軽量、片手でも扱える。

 実際、孤島は片手に装着して操っている。

 そして、どうも電動で引き絞る力をブーストしているらしい。

 モーター音が、微かに鳴っている。

 僕は声を振り絞る。

 虚勢くらい張ってやる!

「2対1だぞ、孤島。もう辞めるんだ、こんなこと」

 言い終えると同時に。

 奥の院の入り口から、奥の院の中に大きな物体が投げ込まれた。

 僕の足下に鈍い音を立てて投げ捨てられたそれは、ここ、三ツ矢八坂神社の神主……、だったモノ。

 神主の、亡骸だった。

 首の頸動脈を切られている。血はほとんど吹き出たあとで、運んできたらしい。

 神主の死体を投げ捨てたその人物は。


「お前……一体なにを?」

 僕は、ショックで自分の頭がどうかしたとしか思えなかった。





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