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衆生済土の欠けたる望月【第十五話】




「山茶花、これはマフラーやないよぉ。この子はオコジョのほっけみりんちゃんやよぉ」

「オコジョ?」

 そこにふぐり。

「馬鹿ねぇ、山茶花。管狐くだぎつねのことよ、オコジョって。管の中で飼う式神の一種ね。竹筒の中で飼って、使役するの、神通力を備えているからね」

 白くて長い、痩せたシルエットの狐、と言ったところか。

 僕が驚いていると、くるるちゃんに巻き付いていた身体を解き、この〈ほっけみりん〉というオコジョが僕の正座している膝の上に乗った。

「はにゃはらぁ~!」

「うふっ。ほっけみりんちゃん、山茶花のこと気に入ってもうて」

 首からほっけみりんが離れたところで、お盆から湯飲みを三つ、テーブルに置き、自分の分の湯飲みを持ってデスクに向かうくるるちゃん。

 三人プラス一匹の、計四つの湯飲み。

 置き終えて、くるるちゃんは作業中のデスクの前の椅子に座って、椅子をぐるりと回し、僕らの方を向いて、湯飲みの中の液体をすする。

「くるるちゃんって、式神なんて使役できるの?」

「うちは飼ってへんでぇ。ほっけみりんちゃんは珠総長の使役している管狐やでぇ」

「はにゃはら! はにゃはら!」

「ほらほら、興奮せんでもええで、ほっけみりんちゃん」

「はにゃはらぁ~?」

 うーむ、この管狐、微妙に可愛くない。

 でも、動物になつかれると、ふにゃふにゃに顔が緩んじゃうものだよね。

 僕はそんなに動物、好きな方じゃないと思うのだけれども。

 式神だっていうけど、総長のペットか。

 破魔矢式猫魔だけが〈ペット〉だと思っていたよ、僕は。




 湯飲みに手を伸ばす。

 すすって、一瞬咳き込んだ。

「……ごほごほ。あ。これ、お茶じゃないじゃんか。お酒入ってる」

「当たり前やで、甘酒なんだから、アルコールも少しだけ入れとるんよぉ」

 くすくすおかしそうに笑うくるるちゃんは、袋詰めされたチョココロネを僕に投擲した。

 片手で僕はチョココロネのパンが入った袋をつかみ取った。

「甘酒にチョコレートたくさん入ったパンか。頭脳が活性化しすぎるよ」

「甘酒にパンは、合うんやでぇ」

「はにゃはら、はにゃはらぁ~」

 オコジョのほっけみりんも大喜びだ。

 パンをちぎってあげてみようかな、ほっけみりんに。

「そんなことはしなくてノーサンキューやでー!」

「はいはい、わかりましたよ、っと」

 対面といめんのソファに座っているふぐりが、あくびをする。

「眠いわ。用件を話しなさいよ、阿呆雑用係の山茶花」

「言われなくとも!」

 ほっけみりんが背を伸ばし甘酒をずずずー、っと飲むのを横目で見ながら、僕は話しだした。

 これまで得た情報を、僕はくまなく二人に話す。




 それを聴いていたふぐりは、僕が話し終えると、これは重要なことなんだけど、と前置きして言った。

「祇園祭は〈祇園御霊会〉の〈儀式〉なんだけど、これが失敗すると、もれなく〈この国が滅ぶ〉んで、よろしく! つまり、祭りが中止に追い込まれても、八坂神社の奥の院にある〈ご神体〉が破壊されても、ゲームオーバーってわけ」

「は? 滅ぶ? 日本が、滅ぶ?」

 きょとん、とする僕。

 ここに来て、あまりに新事実すぎるだろうが。

「滅ぶわよ、確実に、よ。あたしたち〈ソーダフロート・スティーロ〉は祇園祭で歌を捧げるの、天にいまし存在に、ね。この演奏は阻止されないようにしなきゃいけない。また、客が押し寄せる祭りのさなかに〈ご神体〉を破壊しようとする輩がいるわけ。孤島たちね。そいつらに破壊されたら〈疫病〉と〈地震〉が襲ってくる。表の政府は隔離政策を取ろうとしてるけど……ダメでしょうね」

「この国、こんなことで〈滅ぶ〉の?」

「将門の怨霊は本気で国を滅ぼすわよー。十年前の〈厄災〉を忘れたの? それに、滅びたら海外の日本嫌いの方々も大喜びするし、協力は惜しまないわね。 一大ミッションよ、これ」

「えーっと」

「蔓延る土蜘蛛を撃退しつつ、祇園御霊会を成功させるわよ! この国が滅びないようにねっ!」





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