衆生済土の欠けたる望月【第十話】
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「うっうー、うっうー! 神楽坂ふぐりちゃんだよぉ~っ! みんな、よろしくねっ!」
「そしてうちがDJ枢木なんよぉ、よろしゅうねぇ」
「うっうー。ふぐりはぁ~、くるるにディーバ、つまり歌姫にならないかってスカウトされてぇ、歌い始めちゃいました! てへぺろ」
「これを聴いてる〈最先端〉のリスナーさんたちはぁ、てへぺろなんて古いと思わないことやわぁ。ふぐりは昭和アイドルの正統なる後継者なんやよぉ。ふぐりぃ、自己紹介頼むわぁ」
「わかったよ、くるる。ふぐり、自己紹介しちゃうもん! きゃぴるん!」
「手短にやよぉ」
「うん。ふぐりの名前は神楽坂ふぐり。くるるとは今、学園都市のステージでライブしてる仲だけど、きっかけはくるるがつくったデモテープにふぐりが歌入れしたことなんだぁ。うっうー。そのデモは音源として売ってるから、みんな配信で買ってねー。サブスク配信もあるよぉ。タイトルは『冬にうたう恋のアルバム』っていうの。ふぐりがくるると一緒にパジャマパーティしながら名付けたタイトルなんだぁ。学園都市のみんなはまだ一学期だけど、一学期が来るその前、冬につくった楽曲が『冬にうたう恋のアルバム』なんだよ! ふぐりが聞いた友達の恋愛話、そのときの冬にうたいたくなるような一番のお話だったから着想を得て作詞された曲なの。だからあえて冬の想いをそのまま乗せてビートアプローチしてるんだよ?」
「デモ音源での、うちたちの馴れ初めの話は恥ずかしいから言わんでよかったんよぉ?」
「ふぐりの紹介をすればいいんだよね、わかったよ、くるる。……改めまして! 神楽坂ふぐり、年齢は17才。趣味はリリアンで、好きな食べ物はフルーツポンチだよ? 特技はハーモニカ! ……そうだなぁ、お母さんとお父さんが住んでいる家のそばにあるアルパカ牧場の草原の上で吹くハーモニカは最高の気分になれるんだぁ。アルパカちゃんたちが聴いてくれる草原の演奏会」
「草原の演奏会。まるでアルプスに咲く一輪の花みたいやね」
「そうだね、くるる! 愛してる!」
「うちもふぐりを愛しとるよぉ」
「来週の水曜日もタイムテーブルにふぐりたち『ソーダフロート・スティーロ』もいるからね。DJイベント楽しんでってね。うっうー! そしてなんと! 三ツ矢八坂神社の〈祇園祭〉にも出演が決定しちゃいましたっ! みんなー、ふぐりたちに会いに来てねー! 来ない子は八坂神社の牛頭天王に折檻されちゃうよぉ~。きゃぴるん」
……ざっと、こんな内容のラジオだった。
聴き終えた直後、僕、萩月山茶花は頭を抱えるのだった。
「あ、あいつら……」
隣にいる湖山が首をかしげてこっちを見る。
「知り合いかなんかなんすか、山茶花さん?」
「え? あ? いや。うん。なんていうか、違う……。なんでもない」
僕は口を濁すしかなかった。




