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衆生済土の欠けたる望月【第五話】




 学生宿舎の僕の部屋に担ぎ込まれた西口門は、湖山に介抱してもらう。

 いたるところ傷だらけだ。

 腕っ節が強いスキンヘッド野郎の西口門だが、そんなに暴力を振るうことはしない。

 凶暴さは、ヒップホップが吸い取っていったのだ。

 憤りの、矛先が、今のこいつにはある。

「へっ! 『たまつかの坂』の警備の奴は、二度と来んなみたいなこと言ってたけどよ、結局はおれたちのバンド『ザ・ルーツ・ルーツ』が出演しないとこの三ツ矢プロップスの〈うねり〉はわからないわけで、出演オファーは必ず来るんだよ。MCバトル、やらせてくれりゃぁ盛り上がるのによぉ。なにがヘッズたちの邪魔になる、だよ。クソが。フリースタイル禁止はねーだろうよぅ」

 僕はため息をはく。

 ヘッズとはファンのこと。

 つまり、ファンの迷惑になるからやめろ、と追い出されたわけだ。

「西口門が目指すところって、なんなんだ? 他人のバンドやユニットのライブの邪魔をしてかき乱すことが目的じゃないだろう?」

「十年前の〈厄災〉……」

 西口門は語り出す。

 僕がここに来た目的と合致する、その話を。

「この『学園都市』もまた、十年前の〈厄災〉によって、壊滅状態になった。必要なのは〈衆生済土しゅじょうさいど〉だ。なぜならば、仏教ってもんの最大の目的は衆生済土だからだ。言い換えれば、〈民草を救うこと〉で、おれたちが目指すのは民草を救って、極楽浄土へと導くこと。そのための〈こころという地獄〉から人々を救う〈声明しょうみょう〉をアレンジしたおれのライム、そして極楽へ続く階段としてのおれたちのバンドだ。それは厄災を齎した平将門の力を封じ込んで、今度こそ永久に封印することにも通じる。だが、この『学園都市』が復興したとき、張り巡らした学園都市の結界は〈国家鎮護こっかちんご〉のために特化したものだった。国家鎮護……国のお偉方とのパイプ。この学園都市は、国の要人というパトロンと密着することによって権勢を振るうこととなった。国内最大の学園都市サマの誕生さ。だがよ、権勢を振るうことになると生まれるのは、〈堕落〉と〈腐敗〉だ。多分に漏れず、学園都市もその内部構造の腐敗は免れることはなかった」



〈国体〉を守ること。

 つまり、国の体制の維持。

 それが国家鎮護。

 国家鎮護は、救済とは違う。

 いらないと体制が判断したものは切り捨てて、国体を守ろうとする。

 その姿は、民衆の救済とはほど遠い。



 僕は、湖山にヨードチンキで手当を受けながら語っている西口門の言葉に、静かに頷いた。


 騒がしさから一転して静かになった夜が、更けようとしていた。





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