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手折れ、六道に至りしその徒花を【解題】




 ふははははあぁー、と事務所で高笑いをするのは、百瀬探偵結社の〈魔女〉である、百瀬珠総長だ。

 珠総長はご機嫌そうに、自分の椅子に座っている。

 腕を組みながら、足を机の上に載せて、

「ふふーん。我が輩、プレコグ能力者だから、なにかが起こってそれがお金に変換できるの、わかっていたんじゃもんねー!」

 と、高笑いをやめない。

 幼児体型でエスニックな服を着こなしている女性、百瀬探偵結社の総長である百瀬珠総長は、今回も他方からお金が入ってくるのでウハウハだ。

〈プレコグ〉とは、予知能力の一種のことである。

 お金に関してにしか使わないようだけど、百瀬珠総長が、そのプレコグという超能力を有しているのは事実だ。裏の政府公認のESP能力者、百瀬珠総長。〈魔女〉の名は伊達じゃない。


 事務机で表計算ソフトをカチカチ打っていた事務員の枢木くるるちゃんが僕に、

「うちも行きたかったわぁー、日帰り温泉!」

 と、ふてくされながら言う。

「猫魔お兄ちゃんと裸のお付き合いだなんて、山茶花は贅沢者やわぁ」

「いや、くるるちゃん。温泉も裸のお付き合いもしてないからね? それに……こいつはいつもの破魔矢式猫魔そのものだったよ」

「もう! いつも山茶花は猫魔お兄ちゃんに嫉妬ばかりしてるんやからぁ。仲良くせなあかんよぉ」


 みんなに遅れて事務所の奥の自室からあくびをしてやってくるのは、破魔矢式猫魔だ。

「……おはよう」

「ローテンションじゃのぅ、〈迷い猫〉よ!」

「やめてくださいよ珠総長。その言い方はないよ。まあ、おれが迷い猫なのは本当だけどさ」


 僕はため息を吐く。

「朝からみんな、通常運転だなぁ」

 と、そこにセーラー服を着た黒眼帯の金髪ポニーテイル娘がやってきた。

「今回はあたしの出番はなしだったわけ? ねぇ? あたしなら午前中のうちに事件なんて解決できたわよ! どんな事件だかは知らないけど! おかしいと思ったのよ、あたしだけがオフの日だったなんて。猫魔、最近このあたし、小鳥遊ふぐりちゃんに成績引き離されているから、やけくそになってんじゃないのぉ~?」

 この金髪眼帯娘、名前を小鳥遊ふぐりという。

 猫魔をライバル視している、うちの探偵の一人であり、現役の女子高生だ。

「ふぐりの出番がなくて良かったよ、今回は」

「なんですって? どういうことかしら、山茶花?」

 このやりとりを遮るように、猫魔が僕に言う。

「そういや、孤島の奴はたいした怪我をしなかったらしい」

「ふぅん。井上は?」

「獄死だ」

「獄死? 警察がそんなことを?」

「やったのは〈桜田門〉の連中だよ。表向きは拘留中に刺されたことになってる」

「拘留中に刺されるって……無理な設定つくるもんだなぁ」

「行ってこいよ、葬式」

「誰の?」

「井上の」

「僕が?」

「そうだ」

「一人で?」

「当たり前だろ」


 そうして、僕は渋々と井上というテロリストの葬儀に参列することとなったのであった。







「やぁ、山茶花さん。この葬儀、花輪が飾られていないでしょう?」

 孤島は、元気そうだった。

 おそらく、だが。

 まだ〈仕事〉をするつもりなのだろう。

 本気で、意志を継ぐつもりなのだ、あの井上という仏僧の意志を。

 孤島は誰を〈依り代〉にするのだろう、とちょっと考えて、僕はあの〈寄加持〉の光景を思い出し、かぶりを振った。



「徒花、か」

 六道に至りしその徒花を手折った僕と猫魔は、こいつらのターゲットリストに載っていることだろう。

 人生を語るつもりはないけど、でも、人生ってのはいつも、こうやって巡って行くのだ。

 もしかしたら、それがカルマって奴の本質なのかもしれないけれども。


 孤島たちが愛していたのは、革命の理論だったのか。

 それとも井上という怪僧を愛しすぎていたということだったのか。

 それすら曖昧になる。でもきっと、割り切れるものでも切り離される問題でもないのだろう。

 ただそこに、手折られた徒花があった。つまりはそういうことだ。






〈了〉

   

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