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手折れ、六道に至りしその徒花を【第十話】




 猫魔に素早く反応したのは井上と孤島だった。

 井上が下がり、孤島が井上を守るようにして前に立ち、護符を人差し指と中指の間に挟んで、構える。

「秘妙符だ! 喰らえ、災禍滅除! ハッ!」

 孤島が秘妙符と自身が呼んでいる護符を猫魔に対して投げる。

 カミソリの刃のような鋭利さ、硬度を持ってそれは猫魔に向けて飛ばされたが、猫魔は着けている黒いドライバーグローヴでそれをキャッチする。

「なるほど。護符にも〈妙〉って書いてあるね。君たちは本当に〈文字〉が好きなんだね。文章を愛している、と言った方が良いのかな。勉強熱心、それは良いことだ」

 キャッチした護符を孤島に投げ返す猫魔。

 切れ味抜群の護符は、孤島の、左の二の腕の肉を削って飛んでいき、暗い寝室の柱の襖に刺さった。

 刺さった護符が、煙を出して消える。

「井上さん、だっけ? テロを行い、成功させるとは見事じゃないか」

 挑発する猫魔。

 井上は応える。

「探偵。わしにはあんたがわざと江川と蔵原が始末されるのを待っていたようにしか思えんが?」

「どうだか、ね。まあ、裏の政府や〈魔女〉の意志がそうであったならば、奴らが殺されるのは、やっぱり見届けただろうねぇ」

 そこに沼地が割り込み、

「外道が! 人の生き死には重いものだぜ。敵であっても敬意を払う。それがおれたちだ。探偵、おめぇみてぇなクズとは違う」

 と言うが、今度は孤島が沼地に言う。

「沼地。もういいんだ、おまえと琢磨小路はよくやった。あとは僕と井上先生に任せるんだ」

 頷く沼地は琢磨小路の手を取り立たせ、二人でダッシュする。

「おやおや、逃亡かい」

「挑発に乗るな沼地、琢磨小路! 走れ!」

 その場を去る沼地と琢磨小路を横目で見遣ってから、猫魔は孤島を見る。

「君も逃げたらどうだい、孤島くん?」

「それはこっちの台詞さ、探偵くん?」

 僕は見た。木剣で九字を切る動作をしている、井上の姿を。

 猫魔の位置からじゃ井上がなにをしているかはわからないはず。

 僕は叫んだ。

「猫魔! 攻撃が来るぞ!」

 井上は唱える。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 行け、蓮華法術式! 妙法蓮華経序品第一みょうほうれんげきょうじょほんだいいち!」

 炸裂音がした。

 僕はとっさに耳を塞いでかがみ込んだ。

 寝室が一瞬で焦げ焦げになったのを確認した。

 間髪おかず、井上は木剣で九字を切っていた。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 蓮華法術式! 妙法蓮華経呪詛毒薬みょうほうれんげきょうじゅそどくやくじゃ! 怨敵を調伏せよ、妙法の下にィィッッッ! 調伏降魔ちょうぶくこうま!」


「呪詛と降魔は、やめておいた方がいいんじゃないか、おっさん。何故って? そりゃおれも同じ〈術式〉が使えるからだよ……。跳ね返せ! 五段祈祷・呪詛還加持法! 術式〈呪詛段〉!」


 リフレクト。

 見えないくらいのスピードで、降り立った〈魔〉が井上の木剣から飛び出して猫魔に向かい、それは反射板で跳ね返った光の、いや、闇のように、猫魔が張った〈経文の巻物の陣〉にぶつかると術者である井上へと打ち返され、井上の前にいた孤島のはらわたをえぐり、次にそのまま直進して井上の腹をえぐって消えた。


「呪詛返しの術式に使う経文を持っていた……だとッ?」

「祈祷の準備はここ数ヶ月掛けて完成させておいたのさ。簡略式じゃないんだぜ?」


 その場に倒れる井上。

 井上をかばうようにして覆い被さって倒れる孤島。

「共に果てましょう、井上先生……」

 震える手で井上の顔を抱き上げ、口づける孤島は、口づけたままで、気を失う。



「猫魔……」

 僕は探偵の名を呼ぶ。

「な。反対方向へ行くのが、今日のおれの仕事だったんだよ」

 外でサイレンの音がする。どんどん近づいてくる。

 パトカーだ。

 それに、救急車。

「沼地と琢磨小路は、逃したのか」

「いや。あいつらなら、教えの通りに脇差しで切腹してるだろうさ。助かるのかな。それはおれにはわからないよ」

「……………………」





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