手折れ、六道に至りしその徒花を【第七話】
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「海の民の子より出て、仏法から安心ではなく〈力〉を得る。安寧に念仏往生を願うにあらず。その開祖の意志を継ぎ、また、血盟の意志もまた継ぐ」
井上は獣脂のろうそくだけが照らすお堂の、護摩壇の前で孤島に語りながら、孤島の僧服をゆっくりと脱がしていく。
僕は忍び足で近づき、その様子を見て、出るタイミングを伺っていた。
井上に首筋を舐められる孤島が、
「んぅ……んん、あ。あぁ」
と、声を漏らす。
「瘴気が、村に立ち籠もっています。奴らが別荘に来たからでしょう。これはまたとないチャンス……で……っんく、……んあぁ、はぅあっ」
よがる孤島。
首筋を丹念に舐めた井上が囁く。
囁きは、伽藍というこの空間に響いた。
「我、日本の柱とならむ。我、日本の眼目とならむ。我、日本の大船とならむ。この地を中心に仏国土の建設を夢見む。現世を、肯定できるか、孤島?」
「現世の肯定……ですか、井上先生」
「そうだ。我ら選ばれし者には三災七難が常に待ち受ける。救済こそは現世で行われる。我らはその礎を築くためにこそ、命を散らすのだ。その覚悟は、出来たか?」
「それが……井上先生の描く未来に繋がるのなら。……ああ! 指がッ。だ、ダメです、これ以上は……先生……くっ、ふぅ、入ってき……、はぁん、……っんく」
「これより、〈寄加持〉を行う。依り代はおまえだ、孤島」
服を脱ぎ去り、下着も畳に落とした孤島は、恍惚とした眼差しで、井上の目を見つめている。
見つめ合う孤島と井上。井上は孤島の霊性内にあった指を引き抜き、木製の剣を持ち、その木剣に黒い数珠を巻き付ける。
これが、〈蓮華法術式〉の〈法具〉であることに、僕は気づく。
「〈虚空蔵求聞持法〉が密教のみでなく我が宗派にあるように、復古神道が術式〈帰神法〉が完成形〈寄加持〉もまた、蓮華法術式には存在する」
首筋を這う井上の舌は、孤島のおでこを舐めてから下降していき、ディープキスに移行した。
手には法具。
法具を、裸になって露出した孤島の尖った霊の根本にぐりぐりと押しつける。
「〈寄加持〉で高次元のものを憑依させる。まずはその頭の中を真っ白にさせてからじゃ。孤島……いいな?」
息を呑む孤島は、ただ静かに頷く。
法具によって屹立した孤島の霊身を、井上の手のひらは掴み、上下にゆっくりと動かす。
「くっうぅ、あ、あ、んあ、ふぅ」
速くなるその動きに合わせて、耐えきれない孤島の嬌声があがる。
「霊性を高め、我が修法をその身に受けよ、孤島」
「んぁ、きっ、んはぁっ、きつっ、うっみぃ、速い……くふっはぁ、……はっはっ、あはぁ、んっな、あ、あ、あ、もぅ……、来る」
耐えきれず飛び出した孤島の熱い霊気が、井上の顔にかかる。
井上は顔にかかった、拡散された孤島の霊気を手の指でかき集め、舐めては飲み込んだ。
意識を失い、仰向けに倒れる裸体の孤島。
倒れる前の一瞬。
孤島は僕がいることに気づき、目が合うとニヤリと微笑んだのだ。
僕はその笑みを見逃さなかった。
井上のされるがままになる、孤島。
そしてシャーマン状態になった〈寄加持〉の憑依人格は、井上に抑揚のない声で、今夜決行される計画の細部を詰めるため、井上が質問し憑依人格が答えるという形で、進んだのである。
僕はその話に聞き入っていた。




