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手折れ、六道に至りしその徒花を【第三話】




 カモメが鳴いている。曇り空は濃い灰色で、今にも雨が降りそうで、珠総長が言った通りだ。こりゃ一雨降るぞ。

 常陸市・護獄村。原発も近いここは、政治的に微妙な立ち位置にある村だ。

 埠頭を歩く。釣り人が一人いるだけだった。

「釣れますか?」

 僕が尋ねる。

「釣れましたよ、あなたが、ね」

 振り向かずに釣り竿のルアーの方を観ながら、麦わら帽子の男が答えた。

 麦わら帽子で目を伏せながら、男は言う。

「海の民の子より出て、仏法から安心ではなく〈力〉を得る。安寧に念仏往生を願うにあらず」

「はい?」

 首をひねる僕。

「失礼しました。僕の名は孤島こじま。護獄村は護獄堂にて、修行している者です。井上先生が、あなたに会いたいそうですよ、萩月山茶花さん」

 そこまで言うと、男は僕の方を振り向いた。

 顔を隠すようにかぶるその麦わら帽子の奥に光る、つり目が僕を覗く。

「『血盟連通史』。それをテキストにして、井上先生は説法を僕らにしてくれます。ぜひ、井上先生にお会いください、山茶花さん。小栗判官は我らの敵でもあるのです。悪しき瘴気しょうきが、村に立ち籠もっています。小栗もその瘴気に引き寄せられ、この村に潜伏……否、隠れてすらいませんが……います。瘴気を吸うことで、小栗は自己再生をしようとしていますよ」

「な、なんでそこまで知って……」

 麦わらの男・孤島は僕の声を遮る。

「あなたが裏の政府のエージェントなのを知っているから、でどうです? つじつまが合うでしょう」

「つまり、孤島さん、あなたも裏の政府と繋がりがある、と」

「繋がり、繋がり……、ねぇ。そうですねぇ。この埠頭から一キロあるでしょうか、坂を上った先にとある日帰り温泉があります。そこに小栗判官はいるでしょうね。この村では、よそ者はよく見える」

 井上という人物が僕に会おうというのは、僕が魔女・百瀬珠の探偵結社のメンバーだからであることは想像がつく。

 だが、まず向かう先は。

「親切にありがとう。小栗を追うよ」

「ご武運を」

 釣り竿に視線を戻す孤島という男。

 僕はGPSで位置を確認し、温泉へと向かった。





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