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泰山に北辰尊星の桜吹雪を【第三話】

**********




 もう葉桜の季節だ。

 なのに、この女子校に続く桜並木のソメイヨシノはどうだ。

 なんと、ほかの場所では葉桜になっているのに、この並木道、それから学校の校庭にある桜は全部、満開である。

 狂い咲きとはまた違う……咲くのが遅かったのか?

 いや、そんな話は訊いていない。

 むしろ〈咲き続けている〉ことで、ちょっとしたニュースになっているのだ、この女子校のソメイヨシノは。

 僕は樹の上を眺めながら歩く。

 着いたのは常陸女子高等学校。

 うちの探偵事務所、〈百瀬探偵結社〉で働く、女子高生探偵の小鳥遊たかなしふぐりの通っている学校に到着したのである。

 百瀬珠総長の命令で合法だとは言えども、女子校に入っていくのは、恥ずかしい。

 それはともかく。僕はふぐりのいる教室を探すことにした。




 授業が始まる。

 教壇に立つ女性担任教師が、軽く説明する。

「えー。今日は抜き打ちで父兄参観日とさせていただきました。常陸女子高等学校がどんなカリキュラムを組んでいるか、父兄の方々に見てもらった方が良い、との校長先生のご判断によります。特別授業はありますが、みなさんは普通に授業をこなすだけで、心配はいりませんよ。教室後ろに父兄の方々に立っていただいているだけですからね」

 クラス全員の「えー?」という不満の声が、大きく上がる。

 父兄として、僕は珠総長に言われて参観日に来ていて、目当てはここの学生の小鳥遊ふぐりだ。

 金髪ロングの髪に大きなリボンでポニーテイルにしているのだ。

 即座にふぐりの姿を補足できた。

 そのふぐりが、教室後方を見て、僕を見つけると椅子から立ち上がった。

「なんで山茶花が父兄参観に来てるのよーッ! 父兄でもなんでもないでしょうが! あたしとあんまり歳変わらないでしょう山茶花はぁっ! やめてよね、気持ち悪い! 全く、なんで珠総長が参観に来ないのよー!」

 周囲を見渡してから、僕はふぐりに向けて言葉を放つ。

「いやさ、これ、珠総長からのお達しで来てるんだよ、僕は」

「くるるだっているじゃないの! 総長に観て欲しかったし、そうじゃなきゃ来るのは枢木くるるぎくるるじゃないの!」

「いや、くるるちゃんも事務所で事務職やってるけど、ふぐりと同じく女子高生でしょ。そして珠総長は最初から僕に任せてて来る予定はなかったけど、昨日僕の部屋で、僕と猫魔がスコッチ飲んでたときにやってきたんだ。酔い潰れて自分の部屋に戻っていったからね、百瀬珠総長は。だから、万が一にも来ない。総長の性格を考えてみなよ。来るわけないし、理由だって出来たわけだし。ないものねだりはやめるんだ、ふぐり。僕は父兄。慈しむ目で、小鳥遊ふぐりの生き様を焼き付けるよ」

「いーーーーーーーーやーーーーーーーーーーッッッ」


「私語は慎んでね、小鳥遊さん。あと、父兄の方も」

 ふぐりの担任教師が言う。

「あ、はい」

 僕は頷く。

「納得いかないわ!」

 机を両手の平で叩く小鳥遊ふぐりはとても怒っているようだ。


「はい。それでは授業を始めたいと思います。今日は特別講師の方にもお越しいただいています。父兄の方々にも勉強をしていただきたいと思いまして、まずは、〈ためになる〉特別授業を講師の方にしていただきます。それでは。破魔矢式さん、教室の中にお入りください」

 扉をスライドして教室に入ってきたのは。

「どうも。ご紹介にあずかりました、破魔矢式猫魔です。よろしく」

「……………………」

 黙りながら僕は、ジト目で猫魔の顔を見てしまった。

「なんであんたまで来るのよぉー!」

 猫魔を普段ライバル視しているふぐりにとって不服らしい。

 立ち上がって教壇の猫魔を指さしてキーキーわめいている。

 まあ、そりゃそうだ。

 僕だって今初めて講師をする、その姿を観て驚いている。


 探偵、登場。

 いや。

 探偵、登壇。


 僕以上に、なにしてんだ、あいつは。

 全くわからない。

 そして、授業が始まる。





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