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夜刀神が刀は煙る雨を斬るか【第七話】




「獣と超人の〈橋〉……つまりは仲介役、にはなれなかったようだね、山茶花」

 自室に戻った途端、破魔矢式猫魔は、僕にそう言ってケラケラ笑った。

 僕の隣で、ふぐりは泣きじゃくっている。

 そして〈魔女〉である珠総長は、

「な。雨は止んだし事件は解決したし、我が輩の金には変換出来なかったじゃろ。世間的にはこの事件は迷宮入りじゃし」

 と、ぶっきらぼうに言う。

「酷いですよ、総長! ふぐり、こんなに泣いちゃってるじゃないですか!」

 と、僕。

「経験値が足りなかったんじゃ」

 と、総長。

「そんなッ! じゃあ、ダメだったっていう経験をふぐりにさせるために、こんなことしたんですか!」

「そうじゃよ」

「酷い!」

 僕が怒ると、

「まあ、夜刀神うわばみ姫と面識を持っておいた方がいいんじゃないかなー、と思ってのぉ」

 と、総長。

「誰なんです、その夜刀神うわばみ姫って!」

「見た通りの、〈正義の味方〉じゃよ。要するに、我が輩らの邪魔をする、あっちはあっちで〈まつろわぬもの〉を〈調伏〉する者。正義の味方じゃろ?」

「調伏って!」

「無頼者の首を切断したのは妖刀〈蜘蛛切〉じゃ。あんなんで斬られたらひとたまりもないのー」

「刀なんて持っていなかったです!」

「バカには見えないかものー」

「『裸の王様』じゃないんだから! 総長! ちゃんと説明してください!」

「じゃからアレは、政府のエージェントなんじゃよ。でも、政府にも派閥があっての。もちろん〈裏〉の方の政府のことじゃが」

「はぁ」

「夜刀神は『常陸国風土記』に登場する蛇のカミサマじゃ。あやつ、なんと、カミサマなんじゃよー。カミサマさえ利用するんじゃな、〈政府〉の連中は」

 僕は話についていけなくなってきた。

 泣きじゃくっていたふぐりが大きな声を出す。

「絶対に、許さない、あのうわばみ姫って奴! 許さない! あたしをバカにした! 許さない! なにが夜刀神よ!」



 ……小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫。

 出会うべくして出会った、これが小鳥遊ふぐりと夜刀神うわばみ姫の二人の、初めての出会いだった。

 ふぐりの前に、大きな敵が現れたのだ。

 正義の味方、という敵が。

 異境の神で、政府のエージェントである、という敵に。

 そしてそれは、僕の敵にもなるということなのだろうか。


 とにもかくにも。

 未解決事件は、こうやって迷宮入りになった。

 闇に葬られるというかたちで。

 でも、知っている者は知っているのだ、真相という奴を。

 ふぐり風に言うのならば。

 こうやって、ブラックボックスである社会は回る、ということだ。

 それでも僕らは、立ち向かうことになる。これからも、〈異境〉の事件に。





〈了〉

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