夜刀神が刀は煙る雨を斬るか【第六話】
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背丈の異様に大きい男の背後をふぐりと追うことになった。
男が路地裏に入る。
「どういうことだい? あの男、こんな時間に、どこへ向かっているんだい」
男が振り向いたので、僕とふぐりはサッと身を潜める。
「バカ山茶花。バレるでしょうが」
「いや、よくわかんないんだけど」
「もうこの事件は解決したようなものなの」
「余計と意味がわからない」
「あいつが犯人よ」
「はっ? なんのだい」
「最近、野犬や鳥を食い散らかした跡が市内にたくさん見つかっている話、知ってるかしら」
「ああ。知ってる」
「犯人は、あいつよ」
「え……。人間が、鳥や獣を食べている、と」
「そうよ」
「ヤバいね」
「ヤバいわよ。あたしたちの仕事にヤバくない件なんてないわよ」
「そりゃそうだ」
「じゃ、事件を目撃するために、追うのを続けるわよ」
「おう」
そして、潜んでいたところから出てみると。
背丈の大きなその〈犯人〉は、首を切断され、胴体から大量の血液が噴き出しているところだった。
「ふぐり。殺人事件になっちゃったけど」
胴体がどさりと崩れ落ちた。
血だまりに、大粒の雨が混じる。
ふぐりは顔を青ざめさせている。
「ど、どういうことなの……」
「こっちが聞きたいよ」
「うっさいわね!」
血だまりの向こうに、生首の髪の毛を掴んで持っている少女がいた。
少女は蛇の着ぐるみパジャマを着て、こっちを見ている。
「見たでごぜぇますね?」
見てない、と言ってもダメだろうな、と僕は思ったので、
「見たよ。君は誰だい」
と、尋ねてみる。
少女は笑う。
「わたしはうわばみ姫でごぜぇますよ。通りすがりの正義の味方、でごぜぇます」
「へ……へぇ」
僕は相づちを打つしかない。
ぬるい雨が僕らに降り注ぐ。
僕もふぐりも傘はもう手放している。
少女も傘を差していない。
少女は人間とは思えない大きな口を開けて、生首をぺろりと平らげる。
がりがりと頭蓋骨をかみ砕く音が路地裏に響く。
大きな咀嚼音を出して、少女は生首を食べ終える。
僕とふぐりはそれを見ている。
少女が男の生首を食べ終えた途端、雨が止む。
「夜刀神……と言えば、〈魔女〉にはわかるでごぜぇますよ?」
立ちすくむ。蛇に睨まれるネズミは、こんな気分だろうか。
少女は路地裏から消えた。
僕らはそれをずっと見ていた。
動けなかった。
僕らが動けるようになって事務所のあるビルに戻ったのは、三十分後のことだった。




