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夜刀神が刀は煙る雨を斬るか【第五話】




「社会の全体像を掴むことは出来ない。機能分化してるのだから、〈理解〉が出来ない、と言い換えた方がいいかしら。その〈社会の見えなさ〉が〈ブラックボックス化〉ってわけ。でもさ、根本的な問題として、人間が関知し得ないところにも〈世界〉は存在しているのかしら。どう思う?」

「うーん、具体的には?」

「例えばこの宇宙。星々がきらめいているわ。その一個一個の星には、自然現象がある。その中の、知性体のいない星。その星でも、雲に覆われていれば、雷が鳴るし、雨は降る。火山のある星は、火山は噴火を繰り返す。……でも、〈観測者〉がいない。果たして、観測者のいないところでは大スペクタクルな自然の現象は起きているのか。誰もいないのに、そんなことをしているのかしら。だって、なんのために。言い換えるわね、〈誰のために〉そんな現象が起きているのよ。創造主がいると確信できれば、その問題は解決される。神に捧げるために、観測者のいないところでも自然現象は起きるでしょう。でも、あたしにはわからないの。〈人間中心主義〉なのよ。観測出来ないところでなにかが起きる。それが信じられない。宇宙があって地球があるというより、地球に人間という観測者がいるから、地球は回って宇宙の星々はきらめいている。そういう価値観。ほら、シュレーディンガーの猫の話だって、観測者がいるときに〈決まる〉。それと同じ風に考えてしまう」


 僕はふぐりの隣の椅子に座りながら考えつつ、ゆっくり自分の意見を述べる。


「〈絶対的〉と〈相対的〉って対になる言葉があるけど、それで言うとふぐりは〈絶対的〉なものの考え方なんだね。人間ていう中心点があって、世界が回る。いや、それがずっと普通の、スタンダードな考え方だったんじゃないかな。アインシュタインの〈相対性理論〉の重要なところのひとつは、〈中心点がない〉ところなんだ。だから、すべてが〈相対的〉に、時空が変化する。時間ですら相対的なものでしかない、という考え方だね。だから、時空は伸び縮みする」


「そうね。あたしはそれが受け入れられないだけなのかもしれない。そこが弱点でもある。『世界五分前仮説』ってあるじゃない」

「ああ。この世界は五分前に生まれたんだとしても、誰もそれに気づかない」

「そう。五分以前の記憶を植え付けられて、ね。そうすると、〈観測〉しているという偽の記憶によって、それは成り立つし、あたしはそれにあらがえない。だって偽物だとしても〈経験〉してるように感じてしまうから」

 ふぐりは酢イカをもしゃもしゃ食いちぎりながら、そんなことを言う。

「で。これはどういう話なんだい」

「現実を信じるって言葉。好きじゃないのよ、あたしは、本当は。奇術を目の前で見せられたら、奇跡かなんかと勘違いしてカルトに入信するって話、よくあるじゃない」

「あるねぇ」

「なのに、この世界にはやっぱり超常現象もあれば怪異もいる」

「そうだね」

「だから、このあたしの〈観測〉が正しいかどうかを確かめる手段がないの」

「じゃあ、どうする?」

「自分を信じるしかないわね。だってあたしはあたし以外の誰でもないんだから」

「自分を盲信しちゃうのも問題だけどね」

「知ってるわよ、バカ山茶花! ふぅ。ごちそうさまでした」

 ダストシュートに酢イカの棒とパックを捨てるふぐり。

「日付が変わった。始まるわね」

「なにが?」

「見ればわかるわよ」

「誰か、歩いてくるね」

「追うわよ」

「お、おう」





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