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気韻生動の法術士【第三話】




 精神科病院には、閉鎖病棟と開放病棟がある。隔離病棟というのも、ある。

 わたしは開放病棟に入れられた。

 解放病棟の患者は、病院の庭を歩くことができる。

 わたしはその病院の大きい庭を散歩するのが日課になった。

 散歩が終わったら、持ってきた教科書を眺めたり、庭にある売店で買った雑記帳に日記やポエムを書くようになった。



 ある日、庭に〈特異点〉を見つけた。これは〈仙境〉と似たタイプの、入り口だ。

 異界に通じているのはあきらかだった。

 一瞬、ためらったが、わたしはその建物の吹きだまりにある、ぼやぁ、っとした空間へ、足を踏み入れた。

 空間内に入ると、古ぼけた木造平屋建ての小屋の目の前に着いた。

 怖さより好奇心が勝る。


 わたしがその建物の引き戸を開けると、鍵はついておらず、立て付けの悪さかなにかでガタガタガラガラ音を立てて、室内に入れた。

 そこはアトリエになっていた。

 風変わりな墨画がところ狭しと置いてあり、部屋の中央では、椅子に腰掛け、筆で墨画を軽快なタッチで描いている青年がいた。

 青年はこちらに気づいていないのか無視しているのか、さらさらと絵を描いていく。

「素敵ですね」

 わたしは、椅子の背後から、彼に声をかけた。

 彼は振り向く。


「やぁ。こんにちは、お嬢さん。話はここの院長先生から聞いているよ。舞鶴めるとさん、だね?」

 わたしのことを知っている?

 少し恐怖する。

 おびえたわたしに微笑む彼は、

「おれは破魔矢式猫魔。ここをアトリエにして『南画』を描いている、酔狂な人物だよ。ここに来た君も、酔狂な人間だとは思うけどね」

 と、わたしへの皮肉と、自己紹介をした。


「破魔矢式……猫魔」

 わたしは〈お師匠〉と同じ空気を、破魔矢式猫魔に感じた。

 これが、破魔矢式猫魔、及び〈百瀬探偵結社〉との出会いだったのだから、世の中、不思議だらけだ、と今になっては思うしかない。





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