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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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統秀を敵視する男

「高山主膳乗元さまという旗本をご存知ですか」

 平左が丁寧に武家の名前を告げる。統秀はすこし、めぐらす。

 思い出す名前。目付であったろうか。なにかの書付で見た名前である。なにしろこの鳴りをするようになってからお城づとめはさっぱりである統秀だった。それが許されるのも『高家』という身分があればこそであったが。

「名前は。それなりの大身旗本ではなかったか」

「いずれは町奉行、大目付。目指すは老中でございましょうな。安直ではございますが」

 辛辣ではあるが、悪意は感じられない平左の見立て。この男はいつもこうである。全てにおいて、客観的というか自分の感情を押し殺して物事を分析する。一見冷たくも見えるが、その分析は常に確かなものであった。

「さしあたっては次期町奉行を目指して色々動き回っているようで。私のような下々の者にもその噂が聞こえてきます」

 耳に手を当ててしぐさをする平左。無言で統秀は先を促す。

「――あわせて蘭癖さまを目の敵にしておるようで」

 ほお、とうなずく統秀。見世物のように見られることには慣れているが、そのような悪意を直接向けられることはあまりない経験であった。

「今江戸で人気の蘭癖さまを利用して、地位を手に入れようとしているようですな。目付として不埒な格好をする、いやこれはあくまでも高山さまの見方ですが、一色さまを取り締まり溜飲をあげようとしている――」

「なるほど、それならば腑に落ちる」

 統秀は表情も変えずに静かにうなずいた。

「わたしは――」

 平左が居住まいを正して、そう呼びかける。

「何をすればよろしいでしょうか。お命じください」

 まるで直接の主君に対しての言上である。多分、高山主膳を殺せといえば従うかもしれない――そのような雰囲気が『にわたずみ同心』こと稲富平左衛門直禎はまとっていた。

「今は良い」

 その雰囲気を打ち消すように、統秀は漏らす。

「ただ、今まで通り情報を集めてくれ。より詳細に。期待している」

 統秀の言葉に無言で顔を伏せる平左。

 すっと立ち上がる統秀。総髪の髪先が下に広がる。

 統秀のしようとしていること、それは単に『蘭癖』を世に誇るだけではない。それはあくまでもその計画の一環である。

 江戸の物価を知り、そして商人たちとの懇意な関係を作り町役人を密偵にする。

 そんな彼の計画は――今大きく動こうとしていた。それが成功するか失敗する方向かは、これからにかかっている。

 自分を敵とみなす目付、高山主膳乗元の登場によって――

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