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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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天竺教団壊滅

「火付盗賊改である!盗賊が一団、手向かいすれば容赦せぬ!素直に縄につけ!」

 その大声と同時に、松明の火があちらこちらに掲げられる。

 堀を取り巻くように武装した役人の群れが天竺教徒たちを見下ろしていた。

「うぬ!罠であったか!」

 冽海れっかい大師がうろたえる。天竺屋はただじっと彼らを見つめていた。

 堀の辺の一段高いところに騎乗する陣笠姿の武士がいた。

 そして、彼は天竺教徒たちが降伏する意思がないことを確認すると、ゆっくりと馬鞭を掲げる。

 彼こそがこの火付盗賊改長官長谷川平蔵であった。

 合図をきっかけに武装した役人たちは一斉に土手を駆け下りる。

 何が起こったのか理解できない天竺教徒たち。しかし、腰のものを抜刀し役人に抵抗する。

「こいつら......おかしい!」

 役人の一人が血に塗れた刀を掲げながらそう叫ぶ。

 普通であれば、一閃刃物で切りつけられれば大概の場合大人しくなる。戦国の世の兵士ですらそれは例外ではなかっただろう。今は太平の世。なおのことであるはずだ。しかし、天竺教徒がいくら傷をおっても、戦意を喪失しようとはしないのである。手を失い、足を切りつけられても体ごと突っ込んでくる。

「狂信者に通常の剣戟はきかぬ!網で一網打尽にせよ」

 長官の指示が飛ぶ。

 さすがに、完全に身動きを止められてはいかに麻薬の馬鹿力があろうともいかんともしがたい。一人、また一人捕縛されていく。

 そんな中、一人気を吐いていたのが冽海れっかい大師であった。鬼の持つような金棒を振り回し、役人たちを蹴散らしていく。

 さらに特別な麻薬を追加していたらしい。その力は人間のものとは思えないくらいに、強力であった。

「仏敵、長谷川平蔵の命いただく!」

 そう言いながら大きく飛躍し、長谷川長官の前に踊りでる冽海れっかい大師。長谷川長官は微動だにせず、馬を制していた。

 大きく金棒が振り上げられる。

 その次の瞬間――

 がぽ、と奇妙な音がなり冽海れっかい大師の額に赤い穴が開く。

 金棒を抱えたまま、地面に倒れ込む冽海れっかい大師。

 その周りに血がまるで水たまりのように広がっていった。

「首領は天竺屋徳兵衛である。取り逃すな!」

 冽海れっかい大師の死体には一目も与えずに、馬を駆ける長谷川長官。

 しかし、すでに天竺屋は姿をその場から消していた。

 天竺教徒はこれで全員死亡、もしくは捕縛されることとなった――


 土手の上に黒い装束を纏った少女。手にはこの国では見慣れぬ長い火縄銃を構えて。銃口からは煙がいまだたなびく。

「狙撃完了」

 そう言いながら多鶴は銃を下ろす。

 堀のはるか先を見つめながら――  

 

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