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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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白い袋と黒い袋

 そこは江戸でも吉原でもなかった。

 天井からつられたギヤマンの飾り。そして何本ものろうそくがそこに立てられ、部屋を燦燦と照らしている。。

 板の床には色とりどりの綿布が敷かれ、大きなテーブルが部屋の真ん中に鎮座していた。

 多鶴が既視感を覚える。

 それは自らの主君、一色左近衛中将統秀が屋敷。その、居間に雰囲気があまりに似ていた。

「どうやらこちら様も蘭癖のようでございますなぁ。つくりとしては品がなさすぎますがな」

 そう、平左がニヤリとしながら統秀に告げる。

 無言で統秀は部屋の中を見回した。

 なかなかのものである。

 ふんだん装飾に使われたギヤマンは、この鎖国の世においてはあまりに贅沢であった。

 テーブルや椅子も南蛮のものらしい。床に刻まれた文様もまぎれもなく欧風のものであった。

「蘭癖様には足元にも及びませぬが、まあお座りあれ」

 部屋の奥から声がする。

 それは当然、この部屋の主天竺屋徳兵衛のものであった。

「何を偉そうに。商人の分際で」

 多鶴がそう戒める。

「商人。そうでしたな。かつては天竺屋を営んでいたわが身なれど、今は違います」

 天竺屋の声。テーブルの奥の椅子に座ったまま、こちらをじっと睨んでいた。

 そのなりは蘭癖高家も驚くばかりの南蛮のいでたちで ある。髪も総髪で、腰には刀を差しているようだった。

 その椅子はまるで玉座のように、きらびやかに飾られている。

 その違和感に平左が気付く。

「どうやら......この国のものではなくなったようですな。蘭癖ではとどまらず、外国に魂を完全に売っちまったようで」

 平左の言葉に統秀は眉を顰める。

 無言ではるか彼方に鎮座する天竺屋は、テーブルの上にどん、と何かを取り出した。

 それは、木製の箱。

 両側に控えている、歌舞伎のような恰好をした小姓がそれをそっと開く。なりこそ若衆であるが、女のようだ。多鶴が複雑そうな表情を浮かべる。

 その小姓が二つの袋が取り出す。白い袋と黒い袋。それがテーブルの上に乗せられてた。

「一つは」

 そういいながら袋の一つをテーブルの上に広げる。黒い砂がサラサラと積みあがる。

「『火薬』に候。ひそかに関八州の山にて作らせているものです。これが大量に生産されたあかつきには、数千の火砲を賄うことができることでしょう。火縄も大筒も揃いつつあります」

 その意味するところ。それは――

「いやいや、これはあくまで最後の備え。こんな物騒なものよりも、もっと穏当なものがございます」

 そういいながらもう一つの袋を広げる。中からはまるで辰砂のような砂が流れ出てきた。

「――『阿片』か――」

 統秀の言葉に静かに天竺屋はうなずく。

 

 

 

 

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