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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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吉原への招待

 三人は夜の吉原にいた。

 統秀は地味な着流し。多鶴は若旗本のなり。そして平左は普段の黒羽織の同心姿である。

 奇妙な三人組ではあるが、誰も彼らに注目するものはいない。

 ここでは、夢を見るのが目的なのだ。

 一年間金をためて、遊女と遊びに来る職人。

 なじみの花魁に店の金を使い込む大店の若旦那。

 誰も路傍の三人組の男に注意を払うことなどない。

「そういう場所であれば、いろいろ闇々なこともしやすかろう」

 編み笠を深くかぶり、統秀がそうつぶやく。

「調べではなぜか吉原だけは『狐茶屋』が存在しませぬ。天竺屋が一番の悪所を見逃すとも思えませんからなぁ」

 平左がにやにやと報告する。

 そんな平左を無視して、男装の多鶴は懐から懐紙を取り出し広げる。

『蘭癖高家さま

 吉原、伊の八にてお待ちしております。明日の宵。いろいろ相談あり。

 天竺屋徳兵衛』

 そこには達筆な文字でそう書かれていた。

「果たし状――のようなものなのか」

 多鶴はそれを丁寧にまた、懐にしまう。


「ここです」

 平左は一軒の遊郭を指さす。

 さほど大きくはない。『伊の八』という看板がかかっていた。

 門番に仔細を含める。

『蘭癖高家である』

 と一言。

 通常であれば遊女と遊ぶ算段が説明されるところであるが、三人ともに奥の部屋へ通される。

「腰のものは」

 多鶴がそう案内人に問う。こういう場所では入り口で刀を預けるのが法度である。そのくらいのことは女の多鶴でも知っていることであった。

 案内人は首を振る。

「主人は、そのままでかまわないとのおおせです」

 案内人の言葉遣いと、身のこなしに違和感を感じる多鶴。

 到底、町人のふるまいとは感じられぬけれんみがあったからである。

 右に左に数枚の襖を潜り抜け、方向感覚が分からなくなる。

 まるで迷路のような遊郭ですな、と平左がつぶやく。

「こちらでお待ちでございます。わが当主『天竺屋徳兵衛』が」

 そういうと一礼して案内人は闇に姿を消す。

 目の前には――襖ではなく大きな木の扉が立ちふさがっていた。

 閂は外され、押せば開くようである。

「いかがなさいますか」

 多鶴が腰のものに手をかけながら統秀に問う。

「ここで帰るわけにもいかまい。罠、にしてはあからさますぎる。相手の出方に乗ってみるのも一つの策であろう」

 統秀の言葉に平左はうなずく。

 ぐっと、木の扉を押す。

 思ったよりも軽く、きぃという音とともに扉は開く。

 平左が先頭を。背後を多鶴が固める体で、統秀はその中へと入っていく。

 暗い。

 足元は畳ではなく木の床のようだ。

 三人の足音だけが、闇に響く。

 その次の瞬間――光が爆発する。

 まるで三人の来訪を歓迎するように――

 


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