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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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甲賀先生の見立て

 御薬医師甲賀永西の素性はよく知れぬ。

 扶持は二十五石。御薬医師とはいえ、小藩の勤め故極めて微禄である。

 しかし、生活は豊かであった。

 結局のところ、『技術』がものをいうのがこの世の常である。

 甲賀先生の処方する薬は安いにもかかわらず、効き目は抜群であった。

 江戸詰めで来ている藩士だけではなく、他藩の藩士たちも競って甲賀先生の薬を求めてやってくる。

 本来はあまりよくないことであるが、それは微禄という待遇もあるため藩からは大目に見られていた。

 普通漢方薬といえば高価なものであるが、甲賀先生の処方する薬は普通の半額くらいの値であった。

「材料が違うのですよ。それと調合が」

 人のよさそうな笑みを浮かべながら甲賀先生はそう答えるだけであった。

 漢方だけではない。

 薬にならなさそうな植物や動物に対しての知識も尋常ではないものがあった。

 医者というよりは、本草学者――甲賀先生の部屋を一度でも覗いたものはそう感じただろう。

 倉庫のような一室には、植物の標本や動物の骨、さらには何やらギヤマンに漬けられた怪しい臓器の姿も――

「で、甲賀先生は由吉の『手』をどのように見立てたのか」

 統秀がそう問う。統秀も甲賀先生には万全の信頼を寄せていた。

「掌に、微妙に白い粉がついておりました。水にも溶けず、まるで松脂のように」

「ということは松脂、ではあるまい」

 平左はうなずく。

「そこからは甲賀先生の独壇場でござる。何やら見たこともない道具を取り出し、あれやこれやと作業を始められました」

 その道具は統秀が贈ったものであった。

 この国には存在してはならない、英吉利イギリスの実験器具である。

「結果、甲賀先生はこう言われました。これは『阿片』の粉であると」

 統秀は膝を打つ。

 先日のキセルには大麻が入っていた。『狐茶屋」でふるまわれていたものである。

 しかし、今回は『阿片』。

 この国で手に入るものではないはずだ。

「『阿片』は天竺の地域に栽培される薬物である。その中毒性は極めて高く、依存性は尋常ではない」

 統秀はそう静かに説明する。

 彼は知っていた。

 今まさに、隣の大国清がその『阿片』によってむしばまれつつあることを。

 英吉利が『阿片』を密輸で清に持ち込み、巨額の利益を上げていることを。

 すべては統秀の情報網による成果であった。

 秘密の『出島』に来航する外国船が、世界情勢を統秀にもたらしてくれる。

 甲賀先生の実験器具もまた――

「ということは、英吉利がこの国にも『阿片』を売ろうと?」

 多鶴が口を開く。その声は明らかに怒りに満ちていた。

「そのような報告は聞いておらん。少なくとも、私は、な――」

 そういいながら多鶴を見つめる統秀。

 多鶴は正座したまま、統秀を見つめ返した――

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