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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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秋の仲見世

 秋の風が心地よい。

 とりわけ町中を吹き抜ける風が頬にあたると格別だな、と多鶴はこころの中でつぶやく。

 白露を過ぎたとはいえ、昼は温かい。今年は酷暑だっただけに、このくらいの加減がありがたいものである。

 なによりあの高山主膳がいなくなったことは大きい――

 わずか数ヶ月前のことである。

 お家の存続のためとはいえ、高山主膳の一派に与しあろうことか『蘭癖』一色統秀の命を狙った自分。統秀はそれを許してくれたばかりか、家臣として目をかけてくれている。さらに、くだんの高山主膳はその統秀によって成敗された。

 ふと、空を見上げる多鶴。

 もし、統秀に出会わなければ自分は――そして家族はどうなっていただろうかと思いを馳せる。

 ぶるっ、と震えが来る多鶴。

 想像したくもない世界である。

 今はただ統秀さまに感謝し、そして忠義を尽くそう。すこしでも統秀さまの力になるように――そんなことを思いながら足を進めていた。

 江戸の町はどこも賑やかである。

 人通りの多い仲見世を足早に進みながら、あたりをキョロキョロとうかがう。

 最近あの陰気臭い『にわたずみ同心』こと稲富平左衛門直禎の顔を見ないことは幸いであった。

 彼にも色々恩義はあれど、なぜか素直に感謝する気にはなれないのである。

 喉に手をやる多鶴。

 空気が乾いているせいか、ややのどがいがらっぽい。

 茶でも飲んでいこうか、と多鶴は店の方をみやる。

 このあたりは小さな茶屋が軒を連ねている。

 馴染はないが、適当な店に腰をかける多鶴。腰のものを抜き、横に置く。

「お武家様、いらっしゃいませ」

 うん、と応える多鶴。いつもの若侍姿である。所作も慣れたもので、この格好をしていると誰も多鶴が女性であることに気づかない。それはそれで――

「茶をもらう」

 ほどなくして女中が盆に乗せて茶を運んできた。

 じっと椀の中を見つめる多鶴。そしてそれをぎゅっと飲み干す。

(......?)

 気配を感じる多鶴。

 顔を上げるとそこには先程の女中がニコニコしながら多鶴の顔を眺めていた。

「なにか用でも――」

 つとめて低い声で多鶴は問う。男装がばれて面倒事になるのもごめんであった。

「いえ、お武家様とってもお美しいなと」

 は、と思わず声が出てしまう。

「いえね、このあたりで今話題になっていることがありまして。もしよろしければお武家様、お聞きいただけませんか」

 女中の言葉に多鶴は静かに頷く。

 単なる興味であった。

 また、統秀さまのためでもある。

 江戸の情報はどんなものであっても、彼にとって分析の大賞であったからだ。

 女中はあることを語りだした――

 

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