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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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宴の会話

「お待ちしておりました。ささ、上座へ」

 禿頭の男性がそう統秀を誘う。

「本日は客を連れておる。一緒でも構わんか」

「それは、もう。『蘭癖』様の懇意な方とあれば。ぜひ上の方へ」

 そう言いながら、中腰で二人を席に案内する。

 辺りをうかがう相模屋。見知った顔はいない。すべて町人ごしらえの髷を結っていることから、武家ではないらしい。同業者――でもないようだ。日焼けをしているものが多いことから、なにか形のあるものを商っているものようである。身なりはよく、羽振りの良さも感じられた。

「みなさまおそろいのようなので、料理を出させていただきます。まずは前菜から。」

 禿頭の男性はこの宴の取締役らしい。聞き慣れない料理の紹介の後に、皿がどんどん運ばれてくる。箸を手に取るも相模屋は躊躇する。見たこともない彩りの料理に、いまいち踏ん切りがつかないのだ。

「心配するな。これは、紅毛の料理だ。前菜は豚の肉を干したものを薄く切って、ほうれん草をすった汁をかけてある。冷たいのがなによりだ」

 統秀の説明に料理を口に運ぶ相模屋。

 薬喰いで豚肉は食したことはあるが、このような味は初めてであった。

「この干し方をすると豚肉は栄養価の高い保存食となる。飢饉の備えにもなるな」

 その後も、様々な料理が流れるように運ばれてくる。

 一膳の会席料理とは趣の違う雰囲気に思わず相模屋は膝を打つ。

(これが『阿蘭陀宴』というものか......!)

 なんでも月に一度、統秀が中心になって開いている会らしい。そのような講中があり、参加者も常に同じということであった。

「いかがか、相模屋。良ければお主もこの講中に入らんか」

 統秀の誘いに一も二もなく了承する相模屋。嫌な訳がない。統秀と更に懇意になることができて、このような見たこともない美味しいものが食べられるとあれば――

「しかし――」

 相模屋は空になった皿を丁寧に戻すと、統秀にそう疑問を投げかける。

「よろしいのですか?このような場所で堂々と『蘭癖』の食事会などしては。いえ、普段の蘭癖さまに御老中さまも頭が上がらないのは存じておりますが、我ら町人も含めてということですと流石に風俗にお触りがあるのではと......」

「心配いらん」

 ぐっと赤い酒を煽りながら統秀はつぶやく。

「白河殿もご存知のことだ。そして了承済みである。お前たちになにか差し障るようなことは、誓ってない。安心せい」

 はあ、と逆に相模屋は恐れ入る。

 宴は夜遅くまで盛り上がることとなった――

 

 

 

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