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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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第一章エピソード

 湯の沸く音がする。向かい合う定信と統秀。茶を点てるのは定信であり、ゆっくりと茶を口に運ぶのは統秀であった。

「――高山主膳の件であるが」

 そっと湯を定信は汲みながら、そう話し始める。

「旗本屋敷にて、突然の病により亡くなられたそうだ」

 無言でそれを統秀はただ聞き流す。

「後継ぎもなく、高山家は断絶となろう。今回の騒動の顛末としてはいささか穏当ではあるが」

 あの喧騒の夜。事が公になれば、関わったすべてのものはただでは済まない。後に大塩の乱が勃発することとなるが、その衝撃はそれを上回ったことであろう。私怨により直参旗本が高家と老中筆頭を襲撃したとあっては。

「一橋卿にもご了承いただいた。苦虫を噛み潰したような顔ではあったがな」

 定信が苦笑しながらそう、つぶやく。

 一橋治済。現将軍家斉の父親である。高山主膳を使い、己が野望を実現させようとしたが結果はかくのごとしである。

「しばらくは一橋卿もおとなしくなるだろう」

「さすれば――改革がはかどりますな」

 はじめて言葉を発する統秀。そっと畳の上に茶碗を置く。

 定信にはそれが皮肉っぽく聞こえる。自分の改革――世のため人民のための改革ではあるが、結局幕府の延命に過ぎぬのではないかと。

「一色どの」

 定信は切り出す。

「この改革に参画せぬか。高家とはいえ、直参の旗本。許しを得れば幕閣に入り、老中となってこの改革をそなたの思うように――」

 そこまで話して定信は言葉を途切れさせる。

「そうか。そうだな。今まで通り蘭癖を貫くが良い。それが、貴殿の世直しであるのなら」

 やや、低めの声でそう定信はつぶやく。ゆっくりと頭を下げる統秀。

 定信邸を出たのは、陽がまだ空にある頃であった。

 いつも通りの蘭癖の衣装で馬にまたがり、門を出る。

 そこには二人の人影。

 男装した多鶴といつものように十手を掲げる平左の姿。

「まいろう」

 そう、言い放つとゆっくりと統秀は馬をめぐらす。

 

 この後寛政五年に至るまで、寛政の改革は続くこととなる。

 一般には質素倹約、風俗の取締にうるさい時代と思われがちであるがそんな中で『蘭癖』は自分の生き方を貫くこととなる。大権現の遺命と自分の理想を叶えるために――


第一章 終

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