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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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白河藩中屋敷の討ち入り

 煌々と篝火が燃える。

 あたりにはほとんど家はない。谷中の人里外れた屋敷。かつて名のある大名の隠居が住んでいた屋敷であるが、いまは空き家となっていた。そして名義も、大身旗本の高山主膳のものに――

 広い庭には人がひしめき合っていた。

 まるで戦国の世に戻ったかのようである。

 竹を重ね、防壁を編む侍。

 槍を並べ、弓矢を束ねる侍。

 それらを一段高い縁側より腕を組みながら見つめる、乗元。歩きやすいように軽装ではあるが、先祖伝来の鎧を備えていた。

 軍勢を引き連れ、狙うは巣鴨の白河藩中屋敷である。

『明後日、松平老中定信は一色中将と青戸の原で鷹狩のあと、白河藩中屋敷にて夕餉を取る模様』

 部下の旗本よりそのように連絡を受けた乗元は膝を打つ。

 お誂え向きの空き家があったからである。そこで軍備を整え、暗くなってから夜打ちをかける。多分、蘭癖は中屋敷に泊まることだろう。一緒に定信の首も上げれば殊勝この上ない。

 あとは、烏合の衆に過ぎぬ。そうすれば交渉の余地もあろう。

 そう乗元は計算をめぐらしていた。

 日が暮れると同時に、百数十の武装した侍たちが門から押しでていく。なるべく人の気のない道を行く一団。たまたまであった通行人は構わず、抵抗する場合には無言で撫で斬りにして進んでいった。乗元の一団の中には金で雇われた浪人やならず者の姿も見える。みな黒ずくめで、がちゃがちゃと武器の音だけを響かせながら進んでいった。

 白木の門。白河藩中屋敷である。時間であることから門の前に、歩哨の姿も見えない。

 かねてからの準備通り、細い笛を鳴らす一人。暫し待つと、通用門が静かに開く。内通者が中から手招きをする。数人が乱入し、内から門の閂を外し開門する。

(なんとも、あっけないことよ)

 これが天下の老中筆頭の屋敷である。乗元は、その気になれば江戸城すら簡単に陥落せしめることができるようにさえ思われた。

 人の気はない。それもそうだろう。この時間帯に家の外に出ているものはいないはずだ。

 ならば取るべき策は一つ。

 火縄銃を構えた一団を前面に、そして火矢の準備をさせる。

「一撃して驚いたところに、火矢を浴びせかけろ。蘭癖めが驚いて出てきたところを討ち取ってくれる」

 小声ではあるが、その一言で旗本の指定たちは意を決する。

 ああ、生まれる時代を誤ったのかも知れぬ。この方は乱世においてこそ、その能力を発揮できる方だったのかも――と側近の一人が乗元を見やって呟いた。

 軍配を掲げる乗元。それをゆっくりを引き下ろし、射撃の号令をかける――

 

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