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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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乗元の決心

「どうやら蘭癖めが、やりおったようです」

 書状をじっと見つめる乗元に、側近らしき侍が舌足らずにそう説明する。

「独断専行の結果、生け捕りにされたか」

 感情のない乗元の問い。側近は思わずうなだれる。普段は些細な粗相にもうるさい乗元だが、本気で怒っているときはきわめて平静を装うのを彼は知っていた。

「さて――どうするか」

 そのまま畳に腰を落とす乗元。

 現在、目付の役も解任され小普請組への降格が取り沙汰される乗元の身の上である。大身旗本の出世街道からは遠く離れてしまったようにも思えた。

「――面白い」

 乗元は膝を打つ。

「もとより武士の生きる道は戦いよ。このような狭い世界で出世を願うたとて、せいぜいが老中じゃ。夢がなさすぎる」

 はらはらしながら側近は乗元の様子を見つめている。このような乗元の姿は初めてであった。

「一つ、戦といこう。蘭癖はもちろん、われに仇なす連中――ああ、あの堅物の定信めも血祭りにあげてみせようか」

 そう言いながら血走った目で乗元は側近に詰め寄る。

「わが蔵をあけよ。金目のものはすべて軍資金に替えよ。それを元手に戦の準備じゃ」

 しかし、それは――と側近が口を挟む。

 その次の瞬間、側近がのけぞる。

 乗元の刀が目の前を横切ったのだ。

 どうやら頬をかすめたらしく、血が畳に滴り落ちる。

 乱心ならば、まだ救いもある。

 乗元は確実な自信をもって、事を起こそうというのである。

 江戸開府、絶えてなかった『反乱』を。しかもその張本人は直参旗本、あり得ない出来事である。

「今の幕府など恐れるに足らん。それは内部におった私がよく知っておる。旗本八万騎だと?旗本の中で馬に乗り、鎧を背負て戦えるものがどれほどいようか。そもそも、剣術すらあやふやなもののほうが多い。わが私兵は違う。激しい訓練を経て、一人十騎の兵ばかりだ。鉄砲もあれば、ほれ大砲も隠しておる」

 実際に高山家の蔵の中には数十丁の火縄銃が隠匿されていた。弓、槍それらを含めると十分に町方とも戦えるほどの武器を有していた。

「蘭癖めを倒した後、やつの秘密を暴きわが企てを正義となす。幕府の高官どもを一掃し、一橋様の指示の下私は大老にでもなって権勢を振るうこととなろう」

 言っていることは狂人の夢としか思えないのだが、その迫力たるやおもわずつばを飲んでしまうほどの勢いであった。

 側近は観念する。

 生き残るためにはこの途方もない企てを成功させる他ない、という結論に至って――

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