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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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囚われの侍

 暗い納屋。もしくは、馬小屋であろうか。藁の上には猿轡をかまされ唸っている男たちが五人。平左と多鶴が生け捕りにした乗元配下の旗本の子弟たちである。

「なるほど」

 それを見下ろす統秀。平左と田鶴は静かにうなずく。

「口を割りました。存外痛みには弱いようで」

 にやにやしながら平左が答える。嫌な顔をする多鶴。拷問、というほどでもない。肉体的な痛みを与えずに精神的に追い込んだ平左の尋問の結果である。なのにその露悪的な物言いがまた多鶴の気に障る。

「高山主膳は蘭癖さまへの復讐――というのもあれですが、意趣返しをするため準備を着々と整えておったようです。旗本の子弟のみならず盗賊のような連中も金の力で集めていたとか――討ち入りを計画して追ったようです」

 ふうむ、と統秀はため息を漏らす。

「高家に討ち入りとは、仮名手本忠臣蔵でもあるまいに」

「連中は芝居と現実の違いがわからないのでありましょうな。まあ、高山主膳のやっていることは水野十郎左衛門きどりではありますが」

 平左の言葉にまた顔を歪める多鶴。

「どういたしますか」

 多鶴が口を挟む。

 平左の指示通りに五人を生け捕りにした。したくもない変装までして。

『お主、多鶴であったか!卑怯な!』

『気づかないほうが、阿呆なのだ』

『気づかない......といってもお前がまさかあのようなきれいな姫に化けるとは信じられぬ』

 生け捕りにした旗本との会話を思い出して、また気分が悪くなる。猿轡をしていなければ、芦毛にしていたかもしれない。

「すでに、策を仕込んでおります」

 平左が答える。

「高山主膳の屋敷前に文を貼り付けておきました。『五人は蘭癖が預かっている』と」

 ほほお、と統秀がため息を漏らす。

 驚いた顔をする多鶴。

「そんな、統秀さまに相談せずに勝手なことを」

「まあよい。むしろそのほうが楽かもしれぬ。高山主膳は追い詰められている。こちらから隙を見せればその隙によろこんで飛び込んでくるだろう。予想ができればあとは備えるだけであろう。まして、相手が逆上すればかえって御しやすくもある」

「御意」

 平左がそう答える。

 多鶴は不安そうな顔をする。

 乗元の直属の配下だけでも三〇人はくだらない。それに金の力とはいえ、ならず者が数十人助太刀につく。

 それをどうやって迎え撃とうというのだろうか。

 統秀はただ涼しげな顔で顎に手をやり、何やら思案しているようだった。

(......信じよう)

 乗元の配下であった、そして命を狙っていた自分を助けてくれた統秀。いまさら、統秀を疑おうとしていた自分を恥じる多鶴であった。

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