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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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屋形船の二人

 屋形船目指して、槍を打ち込む一人の侍。

 障子を突き抜け、統秀の脇腹に穂先を打ち込んだはずが――抜けない。槍を引き抜こうとしても、どうにもならない。まるで硬い板に突き刺したがごとく、いくら引いても穂先を抜くことはできなった。

 ぱあんという乾いた音が響き渡る。

 槍を持っていた侍がもんどり打って、ひっくり返り堀に身を落とす。

 障子がはじけ飛ぶ。どうやら中の者が蹴り倒したらしい。

 二人の姿。

 一人は着流しでお忍び姿の統秀――ではない。確かに背格好はそのものであったが顔が違っている。手には何やら太い十手を掲げて、にやにやと侍たちを凝視していた。

「何者――!」

 侍たちの誰何に答えるように銃が発射される。その音に驚き、また一人堀に落ちる侍。

 銃口に煙をたなびかせ、それを構える少女の姿――それは 姫の姿であった。

 うすうすと残りの侍たちは気づく。どうやら自分たちが策にはめられたことを。

「南町同心平左とう申す。町方ながら統秀さまの第一の家臣。役儀にかかわらずお縄についてもらおうぞ」

 くっくっくと奇妙な笑いを漏らす平左。その顔はどこまでも青く、そして陰気であった。

 変装とはちょこざいな、と気勢をあげてみるもなんともしがたい。さらに姫が口をひらく。

「岡林どのに、木暮どの。久しぶりです。私の顔をお忘れか」

 姫が銃口を侍たちに突き付けながらそう問う。

 言葉の意味を反芻する侍たち。そしてもう一度姫の顔を見て、叫ぶ。

「貴様は......多鶴!なぜ!」

 はあと多鶴がため息を漏らす。

「目の悪い侍ですな。独眼だった仙台公でももう少し見えていたでしょうに。もっとも皆様は『心』の目がどうやらダメなようですな。この程度の外見の変装にまんまと騙されてしまうっていうのは」

 しなを作ってそう憚る平左。侍たちは気づく。姫の正体が多鶴であることだけではなく、先日の女中 が平左であったことに。

 わなわなと震える侍たち。一方平左たちは構えを崩さない。

 一人が平左にとびかかる。十手で剣先をさばき、まるで柔道の技のように刀ごととらえて堀へと放り込む。

 多鶴が銃を放つ。足元を狙われた侍は焦りのあまりに思わず船の舳先を踏み外した。

「おおお......」

 大きな水音。巨体は堀の中へと落ち、悲鳴があたりに響くのであった。

「やりましたな、姫様」

 平左が意地の悪そうな顔でそうつぶやく。

 多鶴はただ無言で銃の構えなおした――


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