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蘭癖高家  作者: 八島唯
第2章 江戸を震わす狐茶屋
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『蘭癖』の乱行

 その女中の語る困りごととは、ある姫君の話であった。

 女中はおさいと言い、昔ある武家屋敷に奉公していたことがあるという。そこで知り合ったのが、旗本の名門居辺家が屋敷である。居辺家は小禄なれど、名家の流れをくみその祖先は足利時代にまで遡れるという家柄である。

 その当主の一人娘、すなわち姫君というべき御仁がたいそう困っているという話であった。

 当主はすでに亡く、本来であればお家取り潰しになるところをその家柄から、一旦他家お預かりの身にてその名跡を密かに存続させていた。姫君が成人し、釣り合った家格の男性と結婚してその家を何かしらの形で復興させようとする腹だったらしい。

「そこに『蘭癖』めがちょっかいを」

 旗本の一人が義憤に駆られて、吐き捨てる。

 なんでも、蘭癖めがその姫を所望したらしい。正室や側室ならいざしらず、たんなる妾または女中として。

「さもありなん。あの奇天烈な高家が考えそうなことだ」

 女中はその言葉に涙を流しながら懇願する。女中は奉公の折、居辺家の主人に非常に良くしてもらっていたらしい。そんな自分が何もできないことに、胸が張り裂けそうだ、どうかお助けいただけないでしょうかと男たちに懇願する。

 みなさまはどうやら身分のおありになる旗本様らしい。なんとか居辺の姫君をあの蘭癖から守って欲しいと。

「我らに任せよ。いかに高家といえども正義は我らにあり。なんならつてもある。あの蘭癖に天誅を加えることも、無理ではない」

 酔って抜刀しながらそう叫ぶ男。女中はただただうなだれて礼を述べるばかりであった。


 翌日。女中を伴い、武家町をいく男たち。なるほど確かにこの辺りは旗本でも身分が高い家の屋敷が多いあたりである。

 角を曲がり、その奥まったところに居辺家の屋敷があった。

 いまでは奉公人も数えるほどしかいないらしい。女中が玄関を案内する。こぢんまりとはしているが、なかなかに格式ある屋敷であった。

 女中が姫君にこのことを伝えに行くので、客間にて待つように指示される。畳の上に刀をおき、ずんと座る男たち。

 半刻も立たぬうちに、女中が姿をあらわす。

「居辺の姫様は、それはお喜びでみなさまにご挨拶をしたうえで、直にお願いしたいとのこと。よろしいでしょうか」

 その申し出に如くもない。男たちは皆うなずく。

 床を歩く音が聞こえる。

 女中が介添えして、姫の手を取りながら襖を開ける。

 男たちはみな感嘆の声を上げる。

 姫のその容貌にただただ、みな見惚れるばかりであった――

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